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シュナの旅

宮崎 駿
シュナの旅

「小さき者達の強き魂。宮崎作品の原点といえる一冊」


宮崎監督が名誉金獅子賞を受賞という事で、宮崎監督にちなんだ作品をいくつか紹介したいと思います。


最初に紹介するのがこのシュナの旅です。ナウシカと同時期(20年以上前です)、まだ宮崎監督がブレイクする前に 書かれたチベットの民話(「犬になった王子」?)をモチーフにした絵本です。


滅び行く運命に抗い、 黄金の種を求めて旅にでる辺境の王子と彼に助けられた奴隷の姉妹。いかなる境遇に置かれても助け合い、生きようとする魂の力に涙を誘われます。


ヤックルやラムダ、辺境の国、深い谷。その後の宮崎作品にかかせない要素が数多く登場し、神秘的でありながら牧歌的でもあるまさにその後の作品の原点ともいえる一冊です。


何故映画化されないのだろうと常々思っていたのですが、どうも地味という理由で宮崎監督本人が却下してしまったそうです。ナウシカではなくこちらが映画化されていたら、その後の展開はどうなっていたのか、興味深いところです。


難易度 ★☆☆☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★★★☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★★★☆☆
推定読了時間 30分

アウトサイダー

コリン ウィルソン, 中村 保男
アウトサイダー

「凡人でも、天才でも、まして中立の神でもない。アウトサイダーという生き方」



小泉自民党が選挙で圧勝しました。

賛否はあるかと思いますが、改革するという実行力(刺客も含め)や既成の理屈に囚われないというイメージが国民にわかりやすかったというのが大方の理由のようです。


そこで思い出したのが、このアウトサイダーという本です。図書館勤めの著者が25歳の時に発表した処女作にて、世界中の若者にセンセーションを巻き起こした作品です。彼の定義するアウトサイダーとは「社会秩序の内にあることを自らの意思で拒否する者」という事です。決して犯罪者という事ではなく、自由で強靭な心を持ち、それを社会の価値観に侵される事なく貫いた人という意味だと思います。


ヘミングウェイやバーナード・ショウ、カフカといった文学史上の偉人を取り上げながら、そのアウトサイダー的生き様を知的に青白い炎のような熱さで展開するこの作品は、普段漫然としていた人の心を突き動かすスリルと躍動感に溢れています。


誰にでも考え方やこう在りたいという気持ちはあるものです。ですが社会生活を営みながらもそれを曲げずに貫き通すという事の労力と壁の高さに多くの人はある種のあきらめを感じてしまうのが普通です。そうした私のような凡人にとって、アウトサイダーという生き方は心に仕舞いこんでいた何かに共鳴してくるような気がします。


社会秩序の頂点ともいえる首相はその範疇には入らないかと思いますし、そもそもそんなに崇高な人かどうかは分かりませんが、少なくともアウトサイダー的な印象をうまく与える事が出来た事が今回の結果につながったのではと思いました。


ちなみにこの本、難易度は相当高いです。何度か読み返す必要があるかと思います。


難易度 ★★★★★
インパクト ★★★★☆
泣ける度 ★☆☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 8時間

Design for impact

Eric Ericson, Anders Kristar
Design for Impact

「無意味な物に気づく事。そこから芸術は始まる」


コレクターと呼ばれる人達がいます。何かの魅力に取り付かれ、嬉々としてそれを集める人達です。絵画や骨董、時計などが代表的な物でしょうか。


ですが世の中には全く無意味と思われるものを集めているアウトサイダーなコレクターもいます。ビンのふた(これは結構メジャー?)、包装紙、中にはトイレットペーパーの芯を集めている人すらいるそうです。


実は私にも一つコレクションがあります。それはセーフティーカードと呼ばれるものです。飛行機の前のポケットに入っている避難方法や救命具の装着方法が書かれているあれです。勝手に持っていってはいけないのですが、ある時航空会社や飛行機の型ごとにデザインや趣が違うことに気づき、思わず失敬してしまったのが始まりでした。今では30枚くらいたまっています(飛行機会社の人スミマセン)。


我ながらいぶし銀なコレクションだと自画自賛していたのですが、世界は広い。上には上がいるものです。私よりはるかに多くのコレクションを持ち、しかも本にまとめている剛の者が存在しました。


それがこのDesign for impactです。最近の物は無く、主に1960年から70年代が中心ですが、当時のカードは非常にポップで今よりもはるかに遊び心に溢れている事に気づかされます。


色使いも鮮やかで、中には滑り台で海に非難した後で葉巻を吸いながらくつろいでいる絵があったりと非常にインパクト溢れるコレクションになっています。


最近は品質だけでなくデザインが良くないと物が売れない時代になってきているそうです。ですが一見ビジネスや生活そのものに全く関係ないところにある演出が世の中を面白く豊かにするのでは、と考えさせられる一冊でした。


難易度 ★★☆☆☆
インパクト ★★★★★
泣ける度 ★☆☆☆☆
笑える度 ★★★☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★☆☆☆
推定読了時間 3時間

ロボット・オペラ

瀬名 秀明
ロボット・オペラ

「人は何を願いロボットを造るのだろう。」


パラサイトイヴの瀬名秀明氏がロボットにまつわる小説(漫画)と各方面の専門家の解説を編纂したアンソロジー(選集) です。


ロボットという言葉はチェコのチェペックという作家が1920年に自身の戯曲の中で登場させた造語です。もちろんそれ以前から、古くはギリシャ神話から日本のからくり人形まで、ロボットの概念に通じる物は数え切れないほど登場しています。ですがこの小説ではチャペック以降を対象として、ロボット開発の歴史と各時代ごとのロボットに対する感覚のようなものを俯瞰できるようになっています。


と、簡単に言ってしまえばそれまでなのですが、800ページ弱(値段も4700円!)という分量に、アシモフ、ピアス、手塚治虫までロボットに対するテーゼと言える秀逸な作品が、まるでそれぞれがオペラの一幕のように編集されている様は見事と言うほかありません。


ロボットの究極の目標はアトムやドラえもんのように、人と同じ様に考え、感じる事が出来るようになることです。私は学生時代人工知能を専攻していたのでわかるのですが、これは現在の科学技術をもってしてもいつ実現できるか見通しがたっていません。最近では脳医学やバイオにも範囲を広げて答えを探していますが、コアとなるような解決策は未だに見つかっていないのが現状です。


にもかかわらず、今でも世界中で(特に日本で)決して止むことなくロボット研究は続けられています。きっとロボットにはそれだけ人を駆り立てて止まない何かがあるのでしょう。この本はそうした人間のロボットに対するひたむきな思いを綴った賛歌と言えると思います。


いつかロボットが良き隣人となる日がくるのでしょうか? 私が生きている間ならいいなと、読後にふと思ってしまいました。


難易度 ★★★☆☆
インパクト ★★★★☆
泣ける度 ★☆☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★★☆☆
推定読了時間 12時間

アストロ球団

nou
遠崎 史朗, 中島 徳博
アストロ球団 (第1巻)

「一試合完全燃焼。究極のハイテンションにもはや誰もついていけない」


もはや日本漫画史の伝説ともいえるアストロ球団です。最近実写化されていたんですね。勇気ある行動だと思います。


私はリアルタイムで読んでいた世代ではないのですが、数年前に本屋で愛増版が出ているのを見つけ「これが噂のアストロ球団か。。」とさっそくチャレンジして玉砕した口です。


スポ魂と呼ばれるジャンルがありますが、この作品はそんなものを完全に超越してしまっています。


バットはくだけ、野球なのに防弾チョッキを着用し、死人は生き返る。。。


序盤から最後まで読者の事など完全無視の飛ばしっぷりは常識の感覚を麻痺させられ、理解しようとかつっこもうという気力を完全に奪われてしまいます。打倒巨人は? 野球のルールは? といった常識的な問いは全て意味不明な長尺のセリフにかき消されます。


最近でも「逆境ナイン 」など、常識外れの根性物はたびたび登場しますが、アストロ球団の高みに登れた作品は未だありません。巨人の星の消える魔球など子供だましに思えてきます。


この作品に対しては様々は解説がなされていますが、それらを全くよせつけない究極のハイテンションに読者が完全燃焼する事請け合いです。


難易度 ★☆☆☆☆
インパクト ★★★★★
泣ける度 ★☆☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★☆☆☆☆
推定読了時間 10時間(全巻)

マネーロンダリング

橘 玲
マネーロンダリング

 

「マーケットの無機質さとうごめく人間模様の見事なコントラスト」


最近株式投資が非常に流行っているようで、書店にいくと投資関連本のコーナーが設けられているほどの盛況ぶりです。私はクライアントが金融機関なので、こうした投資ブームはクライアントの業績を向上させ、引いていは私の会社や私のボーナスにもはね返ってくるのではと少々俗な事を考えながら歓迎しています。


ですが長年金融という世界に片足をつっこんいてつくづく思う事は、マーケットというものは人が造ったにも関わらず、人が完全にコントロールできない代物なんだなという事です。


ただ数字が飛び交うだけで、一方で巨万の富を得る人がいれば、他方で会社がつぶれ、家族が壊れ、時には国も傾いてしまう。そんな虚虚実実のシステムの周りで、抜け道を探し、危険を冒しながら大金(そして失われた何かまでも)得ようとする、欲望の神に忠実な人々の人間模様を描いたのがこの作品です。


舞台は東京と香港。金融エキスパートをドロップアウトして便利屋のような商売をしている主人公が、たまたま受けた依頼から巨額の金の行方と、その裏に隠された運命の悲劇にせまっていくというミステリーです。


名前一つ変えれば大金の行方をくらませられるという金融のトリックをスピード感ある展開で楽しませてくれます。また著者は金融の専門家であるため、小説の中で繰り出される数々のテクニックはリアリティと説得力に溢れ、非常に迫力のあるものになっています。


難しい専門用語もそれほど多く無く、「金融の事はちょっと。。」という人でも十分楽しめます。マネーのプロの綱渡りの妙技を堪能してみて下さい。

難易度 ★★★☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★★☆☆☆
推定読了時間 5時間

ダンテクラブ

マシュー・パール, 鈴木 恵
ダンテ・クラブ

「重厚かつ若さある勢いも感じさせるマニアックな歴史ミステリー」


ダンテつながりという事でダンテクラブも紹介する事にしました。


ハーバードの文学部を主席で卒業し、エール大のロースクールまで卒業したあげく処女作である本作がベストセラー。ついでにイケメンという全くもって癪にさわる著者が書いた歴史ミステリーです。


ダンテの地獄変になぞらえて起こる殺人事件を、実在したアメリカの文豪達が解決していくという展開は映画セブンを彷彿とさせます。ですが底に流れるは雰囲気はセブン程暗くはないかなという印象です。


研究成果を小説にまとめたという事で、アメリカ文学史における知識が少々盛りだくさんに詰め込まれすぎている感はありますが、ストーリーとしてよくまとまっているため、そうした前提が無くてもミステリーとして十分楽しめると思います。


ダンブラウン氏も激賞との事ですが、エンディングに向かってのドライブ感はダヴィンチコードに軍配が上がると思います。ですが処女作にしてこの重厚感と完成度は見事というしかありません。


ダンテマニアには外せない一冊だと思います(そんな人が存在するのかは不明ですが。)


難易度 ★★★★☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★★☆☆
考えさせられる度 ★★☆☆☆
推定読了時間 3時間

ダンテ 神曲

ダンテ アリギエーリ, Dante Alighieri, 寿岳 文章
神曲〈1〉地獄篇
ダンテ アリギエリ, 谷口 江里也, Dante Alighieri, Gustave Dor´e, ギュスターヴ ドレ
神曲

「人類が成し得た文学の到達点。その至上の調べに身を委ねよ」


先日ローマ法王が逝去した事をふと思い出し、連鎖的にダンテを思い浮かべてしまったので紹介する事にします。


高校時代、体力も脳力もいまよりあり余り、世界の古典を片っ端から読み漁っていた頃勢いでダンテにも手を出しました。(当時誰の翻訳を読んだのか忘れてしまいましたが、とりあえずAmazonの検索で最初に出てきたものを上に載せておきました)。


西洋文学とキリスト教は不可分な物であると認識し、他にもカラマーゾフの兄弟のような大作も読んでいた私でしたがダンテの衝撃は想像以上でした。


ダンテ本人にしてみれば、政治闘争で故郷を追われた恨み節だったのかもしれません。ですがヴェルギリウスに導かれ、ベアトリーチェと共に天を望む物語は、至上の調べを持ってキリスト教文学の一つの頂に到達したと言えると思います。


またソクラテスやホメロスがキリストより先に生まれたという理由だけで地獄に堕ちているという下りに、キリスト教の本質を見る気がしました。


19世紀のヨーロッパではダンテとゲーテについて語れる事が教養と言われていたそうです。今日的では全くありませんが、言葉と知識の織り成す真髄に触れたい時に、神曲は最高の一冊だと思います。


尚、ドレの版画本も紹介しておきました。神曲の世界をこれほど創造力豊かに表現した挿絵は無いと思います。是非ご覧になって下さい。


難易度 ★★★★★
インパクト ★★★★★
泣ける度 ★★★☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★★★★☆
推定読了時間 3時間

後宮小説

後宮小説

酒見 賢一
後宮小説

「宮崎作品を彷彿とさせる強く生きる少女の物語」


私は今香港に住んでいるのですが、やはり中国物を何か一つ紹介しておかねばと思い、何が良いか考えあぐねた末にこの作品にする事に決めました。


この作品は厳密には中国物では無く、中国らしき背景を持った架空の国を舞台にしています。つまりファンタジーという事です。


もう15年近く前になるのですが、日本ファンタジーノベル大賞という賞が創設されました。この賞は一般にはあまり知られていませんが、リングの鈴木光司氏を始め、時折秀逸なエンターテイメント作家を見出す注目すべき賞です。大賞賞金500万円というのも文学賞としては破格です。


その栄えある第一回受賞作がこの後宮小説です。天才作家の出現と激賞された著者の酒見氏はその後も良質な時代物エンターテイメントを書き続け、私が新作を欠かさず読む作家の一人となっています。


後宮と言うのは皇帝の妃(何百人もいます)の住まいの事です。そう聞くと西太后のように政治を裏側から支配する怨念と陰謀渦巻く物騒な印象がありますが、この小説の雰囲気は首尾一貫して「爽やかさ」です。


貧しい生まれながら皇后に選ばれた主人公と同じ皇后候補の仲間達。権力争いに巻き込まれ後宮を追われる身となりながらも決して明るさを失わず強く生きていく。身軽に何者にもとらわれず自分らしく生きていくその姿は痛快で、心地よい軽さに溢れた愛すべき一冊です。


「雲のように、風のように」というタイトルでアニメ化もされています。


バップ
雲のように風のように

今後も折を見て酒見さんの作品を紹介していきたいと思います。


難易度 ★☆☆☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★★☆☆☆
怖い度 ★☆☆☆☆
考えさせられる度 ★★☆☆☆
推定読了時間 3時間

アフターダーク

村上 春樹
アフターダーク

「パンドラの箱を無限に持つ男。村上春樹は今日も村上春樹だった」


やはり少なくとも一冊は紹介しておかないといけないと思い、今回は村上春樹氏をとりあげます。


作品を発表すれば賛否の嵐。文学は本来時代を超えて批判される事に価値があるとすれば、現役作家でそれに耐えうる人は村上春樹だけなのではないか、と思わせる作家です。


本作は空中から都会の一面を切り取って眺める視点という語り手が今までの作品と異なり新鮮ではあります。ですが彼独特のメタファーは健在で、福田和也氏曰く「誰も救われないが、希望はある」という変わらないテーマを流れるように、闇夜の静けさを伴って語ってくれています。


以前の作品に比べてマイルドになってきている感はありますが、常にパンドラの箱を開け今日に希望を問いかける、村上春樹健在を示してくれる一冊です。


難易度 ★★☆☆☆
インパクト ★★★☆☆
泣ける度 ★★☆☆☆
笑える度 ★☆☆☆☆
怖い度 ★★☆☆☆
考えさせられる度 ★★★☆☆
推定読了時間 3時間