ドグラマグラ
- 夢野 久作
- ドグラ・マグラ (上)
- 「幻魔の奈落に落ちていく感覚。狂気と正気を隔てる地獄門的奇書」
- 心理学と社会学の本を紹介した後で、心の問題を語る時やはりこの本を避けて通る事はできないと思い紹介する事にしました。
世の中には奇書と呼ばれる書物があります。常識という観点では理解し難く、むしろ常識という物の危うさを逆に揺さぶってくる危険な作品の事です。この本はまさに奇書中の奇書といえると思います。
狂人の書いた推理小説という設定、胎児の夢、輪廻する世界。読み進めるうちに誰が正気で誰が狂気か、何が本当で何が嘘か、時間間隔も失われ、もはや判断する気力すら奪われていきます。
- 他人の心について無責任に語る前に、自分自身の心の軸がどちらの世界にあるか。この本を読めば答えが見つかるかもしれません。
尚、実験映画の雄松本俊夫氏によって映画化もされています。桂枝雀師匠の狂いっぷりは圧巻です。
- エスピーオー
- ドグラ・マグラ
| 難易度 | ★★★★☆ |
| インパクト | ★★★★★ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★★☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 8-10時間 |
反社会学講座
- パオロ・マッツァリーノ
- 反社会学講座
「いつも心に批判精神を」
心理学関連の本を紹介したので、次は社会学の本です。
前回の本はアカデミックでかなりシリアスな内容でしたが、この本は著者がイタリア人(?)なせいかラテンのノリで痛快に社会学の欺瞞を暴こうとする良書です。
「凶暴な10代」、「ひきこもり」、「学力低下」。こうしたメディアを賑わす社会問題とそれをアカデミック(?)に、自信満々に裏付けている社会学者達。そうした危うい情報に対する処世術をこの本は教えてくれます。
何を報道し、発表するか、その自由は民主主義の根幹です。ですがそれを受け止める側も常に批判し、自分なりに消化できる心構えが必要なのだと教えてくれる大人の教科書といえるのではないかと思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★★★☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 3時間 |
毎日かあさん
- 西原 理恵子
- 毎日かあさん カニ母編
「愛すべき家族の肖像。西原哲学は子育てにも通ずる」
以下のようなニュースを目にしたため、この作品を紹介することにしました。
子育てに対する考え方は人それぞれでしょうし、今は学校の先生もいろいろと大変な状況なのだと思います。無論私は当事者ではないため実際にどういう状況なのかは知る由もありません。漫画が元で不登校になった生徒がいるとでもいうなら問題な気もしますが、そういう事でも無いようですので難しいところです。
ただこの作品を読んで「迷惑」と言ってしまうのは、なんとも殺伐としているというか余裕がないというか少々寂しい気持ちになってしまったため、少しでもこの本の良さを伝えられればという思いで今回紹介する事にしました。
本人のはちゃめちゃ体験を綴った「できるかな 」のような作品も良いのですが、やはり西原さんといえば市井の弱い立場の人をユーモアと独特の情緒で表現するところに真髄があるかと思います。
毎日かあさんはその二つを合わせたような作品で、図らずも(?)シングルマザーとなった西原さんの子育て奮闘記です。
厳しくもやさしい。バカだと思っても愛情を忘れない。子育て中の人だけでなく独身者の私にですら家族を築く事の厳しさと喜びを共有させてくれる作品です。
一コマ一コマに隠された、全ての子育て中のお母さんへのエールを感じ取ってもらえればと思います。
| 難易度 | ★☆☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★★★★☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 1時間 |
誰か
- 宮部 みゆき
- 誰か ----Somebody
「平然とファンを裏切れる宮部みゆきの奥深さ」
女流実力作家が続いたのに宮部さんを外す訳にはいかないと思いこの本を取り上げました。理由 や模倣犯 といった代表作があるなかで、実はこの作品が私の宮部みゆきデビュー作でした。
読後の印象としてはこれといった仕掛けも意外なラストもないのですが微妙な人間関係・家族関係、心の動きといったものが丁寧に描かれている良書といったところで、実を言うとそれほどインパクトは感じなかったのが事実です。
ところが後で前述の模倣犯や理由を読み、ようやくこの本の真価がどういうものに気付かされました。本来(と簡単に言って良いのかわかりませんが)の宮部さんの作風は普通の人が些細なきっかけで堕ちてしまう、そうした日常や世間に潜む罠をセンセーショナルに時代背景を織り交ぜながら語っていくという物でした。
そうした前提でこの「誰か」を読めばファンは恐らく「裏切られた」という気持ちになるのではないでしょうか? 「どんな人にも心の闇がある」という部分でつながっていると言えなくもないですが、他の作品と比べれば退屈な感じがする事は否めません。ですが確信犯的に平凡に終始し、それを書き切ってしまう事で自らの守備範囲と可能性を示そうとする彼女の大胆さ、奥深さを感じずにはいられませんでした。
その後ファンタジーにも手を広げ、(成功したかどうかは別にしても)挑戦し続ける彼女はやはり今日を代表する”小説家”なのだと思います。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★☆☆☆ |
| 泣ける度 | ★★☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
博士の愛した数式
- 小川 洋子
- 博士の愛した数式
「小川洋子に舞い降りたやさしさの黄金率」
恩田さんをとりあげたので、第一回の本屋大賞を受賞した小川洋子さんもとりあげねば、ということで今回の投稿です。
私は理系でしかも数学系だったため、数式のもつ美しさというものについては普通の人より理解しているつもりでした。この本の中に登場する完全数やオイラーの定理をはじめ黄金率やフィボナッチ数列といったものに、神秘性と美しさを感じて一人悦に入ったりしたものです。
ですが数学と関係のない人からみれば、それはただの記号の羅列であり、なんら特別な意味をもたないものである事も事実です。よって自分のこの感動はきっと同じ数学系の人間にしか理解されないのだろうなぁと残念に思っていたものです。
この本は私のそうした思いに対して一つの答えを示してくれた作品です。
数式のもつ美しさと普遍性が、静かに他者へのいたわりを持って日常を生きることと見事に調和する事。そして完全数と江夏に象徴される「強く生きよ」という祈り。数学と文学という一見相容れない物の間に黄金率を見出した小川洋子さんの奇跡に脱帽です。
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★★★☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |
Q&A
- 恩田 陸
- Q&A
「シチュエーションムービーを彷彿とさせる実験的小説」
前回少し触れたついでに、恩田さんのQ&Aを紹介したいと思います。とある商業施設で起きた大量死傷事件の原因究明について、謎の(?)聞き手が質問をし、関係者がそれに答えるという形式だけで物語が進んでいきます。
真相に近づくようで近づけず、皆何かを見たようで肝心な部分ははっきりとしない。常に居心地の悪さ、薄気味悪さを漂わせた作品です。
机と椅子だけがある取調室のような部屋だけで展開されるシチュエーションムービーを想像しながら読むと不気味さがいっそう増すこと請け合いです。
最後の締め方が難しいだろうな、と思いながら読んでいましたがやはり若干消化不良な終わり方になってしまった点が残念でした。ですがそれを差し引いても十分楽しめる作品だと思います。
| 難易度 | ★☆☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★☆☆☆☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★★☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★☆☆☆ |
| 推定読了時間 | 3-4時間 |
夜のピクニック
- 恩田 陸
- 夜のピクニック
- 「ただ歩くだけの話が大人の心を揺さぶる。小説の可能性を見せた第二回本屋大賞受賞作」
第2回の本屋大賞が発表されたという事でさっそく結果を見てみたところ、受賞者は恩田さんでした。タイトルは「夜のピクニック」。私の中で恩田さんと言えば前回読んだQ&A
で描いた不条理で薄気味悪い世界だったため、今回も夜中に肝試しにピクニックをしていた人達がわけが分からないうちにバタバタ死んでいく、みたいな話をちょっと想像していました。ですが本屋大賞は昨年が小川洋子さんの博士の愛した数式
と心温まる系だったため、そんなはずはないかな。。と思いながらとにかく読み始めました。
読後の感想は、「やられたよ、恩田さん、、」という感じでした。直球ど真ん中。溢れるノスタルジー。実家に帰って卒業アルバムを確認したくなる、そんな作品です。
これといったイベントも細工も無いのにこれだけしっかりと読ませてくれる。今後も恩田さんには目が離せないと思いました。
| 難易度 | ★☆☆☆☆ |
| インパクト | ★★★☆☆ |
| 泣ける度 | ★★★☆☆ |
| 笑える度 | ★★☆☆☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 3-4時間 |
嗤う伊右衛門
- 京極 夏彦
- 嗤う伊右衛門
「怪談を芸術に昇華させる京極夏彦の魔術」
前回、最近映画化された作品ということでローレライを取り上げましたが、京極さんの「姑獲鳥の夏
」も映画化されていた事を知り、ではそれを取り上げようかと思ったのですがやはり最初の京極作品としては「嗤う伊右衛門」を押したい、という事でこちらにしました。
もはや大作家の粋に近づきつつある京極先生。数々の賞を受賞され「嗤う伊右衛門」も泉鏡花文学賞を受賞しています。はては直木賞に二度ノミネートされたあと落選し、五木寛之氏をして「直木賞になじまない、さりとて芥川賞の枠にも入らない、というところが京極夏彦という作家の栄光と言えるのではあるまいか」という名言をはかせ、賞の範疇も超えてしまった現代最高のストーリーテラーの一人です(のちに直木賞を受賞した時には京極さんの力量よりも直木賞のふがいなさを印象づけてしまったように思います)。
京極堂シリーズ(後で紹介します)でミステリー作家としての地位を不動の物としたわけですが、この「嗤う伊右衛門」を読んだ時には「こんな事もできてしまうのか。。」と絶句しました。
とにかくせつない物語です。そして恋愛とは本来このように美しいものなのかなと考えさせられる一冊です。
悲しみの中で笑う(嗤う)事は日本人の美徳であると、かつてラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が言っていましたがそんな日本人的な情緒にしんみりと響く恋愛小説の傑作だと思います。
| 難易度 | ★★★☆☆ |
| インパクト | ★★★★☆ |
| 泣ける度 | ★★★★★ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4-5時間 |
終戦のローレライ
- 福井 晴敏
- 終戦のローレライ 上
- 福井 晴敏
- 終戦のローレライ 下
「犠牲の精神は美しい」
最近話題の福井晴敏さんの大作です。「このミステリーがすごい」や吉川英治文学新人賞も受賞し映画化もされ、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いといったところでしょうか。
映画はまだみていないのですが、この小説の重量感がうまく表現されていればと期待しています。
話の筋としてはアルマゲドン
やディープ・インパクト
系なのですが、舞台設定として終戦直前を取り上げている点がまず斬新でした。ですがこの小説の最大の見所は際立った登場人物、静と動の臨場感(特に戦闘シーンの描写は圧巻です)の織り成す圧倒的な物語の展開にあると思います。
そして艦長をはじめとする男達のメランコリーなかっこよさ。この潜水艦に乗っていたら私も皆と一緒に戦って死ねるな、と本気で思いそうです。
上下でかなり分量はありますが、時間を忘れて読めると思います。
-
- ポニーキャニオン
- ローレライ スタンダード・エディション
| 難易度 | ★★☆☆☆ |
| インパクト | ★★★★★ |
| 泣ける度 | ★★★★☆ |
| 笑える度 | ★☆☆☆☆ |
| 怖い度 | ★★☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 15時間 |
東京タワー オカンとボクと、時々、オトン
- リリー・フランキー
- 東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~
「"当たり前"の持つ偉大さ」
良く売れているようです。この本が売れると言う事は素直に喜んでいい事だと思える一冊でした。
母と息子の関係性というのは、多かれ少なかれこの本に書かれているようなものだと思います。
当たり前のように自分を支えてくれるものの偉大さ、「帰る場所」がある幸せ、それを失った後の世界で一人で生きていかなければならない自分、そうした存在を照らす東京タワー。多くの人にとって当たり前の事を淡々と再認識させてくれるのがこの本です。
私はリリーさんと比べると一回り若いのですが、海外に出て家族と離れて長く一人暮らしをしているせいか読後に響くものが多かったように思います。
自分勝手に生きてきたなぁ、と思う人は是非一度読んでみる事をお勧めします。
| 難易度 | ★☆☆☆☆ |
| インパクト | ★★☆☆☆ |
| 泣ける度 | ★★★★☆ |
| 笑える度 | ★★★★☆ |
| 怖い度 | ★☆☆☆☆ |
| 考えさせられる度 | ★★★☆☆ |
| 推定読了時間 | 4時間 |