源氏物語イラスト訳【紅葉賀166】御前など
御前などにても、男方の御遊びに交じりなどして、ことにまさる人なき上手なれば、もの恨めしうおぼえける折から、いとあはれに聞こゆ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
御前などにても、男方の御遊びに交じりなどして、
訳)帝の御前などでも、男側の管弦のお遊びに加わりなどして、
ことにまさる人なき上手なれば、
訳)格別にこの人に勝る人もない琵琶の名手であるので、
もの恨めしうおぼえける折から、いとあはれに聞こゆ。
訳)なんとなく恨めしく思われたちょうどその折でもあって、とてもしみじみすばらしく聞こえる。
【古文】
御前などにても、男方の御遊びに交じりなどして、ことにまさる人なき上手なれば、もの恨めしうおぼえける折から、いとあはれに聞こゆ。
【訳】
帝の御前などでも、男側の管弦のお遊びに加わりなどして、格別にこの人に勝る人もない琵琶の名手であるので、なんとなく恨めしく思われたちょうどその折でもあって、とてもしみじみすばらしく聞こえる。
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■【御前(おまへ)】…帝の御前
■【など】…例示の副助詞
■【にて】…場所の格助詞
■【も】…添加の係助詞
■【男方(をとこがた)】…男の側。殿方
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【御遊び】…帝主催の管弦のお遊び
■【に】…時(場所)の格助詞
■【交じる】…仲間に入る。つきあう。交わる
■【など】…例示の副助詞
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【ことに】…特に。格別に
■【まさる】…勝る。秀でる
■【なき】…ク活用形容詞「なし」連体形
■【上手】…名人。琵琶の名手
■【なれ】…断定の助動詞「なり」已然形
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【もの恨めしう】…シク活用形容詞「もの恨めし」連用形ウ音便
※【ものうらめし】…なんとなく恨めしい。源氏への恋に苦しんでいる心情
■【おぼえ】…ヤ行下二段動詞「おぼゆ」連用形
※【おぼゆ】…思われる
■【ける】…過去の助動詞「けり」連体形
■【折(をり)から】…ちょうどしの時。折しも
■【いと】…とても
■【あはれに】…ナリ活用形容動詞「あはれなり」連用形
※【あはれなり】…しみじみすばらしい
■【聞こゆ】…聞こえる
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琵琶(びわ)というのは、そう、あの琵琶法師の弾く、琵琶です。
今でいう、ギターみたいなもんでしょうか。
大河ドラマの「光る君へ」でも、
まひろ(紫式部)が情趣深く奏でてる場面がありましたよね。
源典侍(げんのないしのすけ)は、
男まさりの、琵琶の名手だったようです。
もちろん、年長者であるぶん、
人よりも多く弾き込んでいるため、
年相応のベテランの風情なんでしょう。
しかし、ここでは、「もの恨めしうおぼえける折から」とあります。
楽器の音色は、その人の心理があらわれるものと言います。
源典侍は、光源氏に、何度も袖にされています。
その「もの恨めしさ」が、琵琶の音色にもあらわれていたようです。
とても切なく、妖艶に、琵琶を奏でているようすが、
文脈からもにじみ出ていますね。
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