嘘つきは恋人の始まり 10《にのあい》
つづきです相葉くん視点に戻ります…違う。オレは、まだ何かを…忘れてる?挑発するような彼のセリフに、オレは違和感を感じていた。今なら分かる。二宮さん…かずのこの顔は、嘘をついている時の顔。自分が見たいテレビがあるのに「まーくんの好きなのかけて」って言ってくれたり熱があるのに「大丈夫」って言ったり……そんな時の、顔。思い出せ、オレ!モヤのかかった頭をブンブンと振り、両手で叩いた。その様子に驚いた二宮さんが、止めに入る。「まーくん!ダメよ、叩いちゃ!」「オレ、まだ大事なことを思い出してない」「違う、そんなの無いから!」「いや…絶対に思い出さなきゃいけないんだ」自分の頭を叩くオレの手を、かずが押さえようとして…バランスを崩し、ふたり倒れ込んだ。押し倒すような形でかずに覆い被さると、頭の奥が、チリッと痛んだ。「あれ…?」初めての気がしない。前にも、こんなことがあったような…?酒に酔ったように…ゆらり、と視界が揺れた。一緒に住む?なんてそんなこと言われたら、勘違いしちゃう。あぁ、ほら。オレを見上げる、誘うような瞳…くらくらと目が回りそして、怯えた二宮さんを押さえつけて無理やり…キス、を…?そう。した…んだ。オレが。触れた唇の感触が、はっきりと蘇る。オレは、二宮さんから身体を離すと畳に頭を擦り付け、謝った。「本当にごめんなさい。酒に酔って…なんて、言い訳にもならない。謝って許されることじゃないけど…」土下座していた身体を無理に起こすと、二宮さんは真正面からオレを見据えた。静かに…だが、怒気を孕んだ声が胸を射抜く。「……思い出すなら、最後までちゃんと思い出しなさいよ。オレが嫌がったの?謝れって言った?キスした時…どうだったのよ」…キスした時?えっと、たしか…唇が触れて…柔らかくて…我慢できなくなって、夢中で舌を…舌を入れたら、絡まって。それで、びっくりして目を開けたら二宮さんが静かに目を閉じて…いて………あれ?何かがおかしい。自分の記憶のはずなのに、無理な上書きでもしたように…どこかチグハグだった。「オレは嬉しかったのに!ばか!ばか相葉!!」ぼすっ と、投げられた座布団を受け止める。瞳いっぱいに涙を浮かべたかずが…とても可愛くて気づけば、彼を抱きしめていた。つづくmiu