嘘つきは恋人の始まり 8《にのあい》
つづきですにのちゃん視点家に帰るたび、ばあちゃんから相葉さんって人の話をよく聞いていた。高齢での一人暮らしを心配しつつも、人を見る目は確かなばあちゃんが信頼を寄せる相葉さんには安心感しかなくて。オレは…すっかり甘えてしまっていたのだ。朝、行ってきますと出かけたまま二度と会えなくなることがあるんだってオレは、知っていたはずなのに。…父さんと母さんだってそうだった。それなのに、オレは…「かず…後悔のない人生を、ね?」それが、ばあちゃんの最期の言葉だった。家に戻り、遺影に使う写真を探していると、オレが仕送りしていたばあちゃんの通帳が出てきた。開いて見れば、そこからは1円も引き出されていなくて。それどころか、別のオレ名義の通帳に、毎月少しずつ…積み立てられていた。…なんで、そばにいなかったんだろう。こんな…金なんかよりばあちゃんとの時間のほうがずっと…ずっと、大切だったのに。ごめん、ばあちゃん…オレには後悔しかないよ。「………」たったの六畳なのにばあちゃんのいない部屋はあまりにも広くてオレは、部屋の隅で丸くなっていた。…?チャイムが鳴ったのは気付いていた。でも、出る気になれず…そのまま丸くなっていると何度目かのチャイムの後、大きな声が玄関に響いた。「二宮さん、中にいますか?入りますよ?!」…誰よ。人の家に勝手に入るって。って、あれ?鍵かけてたよね?オレは、体を起こし騒がしい客人に視線を向けると彼は…膝から崩れ落ちた。「……具合悪いとか…じゃ、ないですか?」歳はオレと同じくらいだろうか?人の良さそうな顔サラサラの明るい髪オレを見る黒くてまぁるい瞳には、心からの安堵の色が浮かんでいた。…あぁ、そっか。ここの鍵を持っているってことは彼が、この部屋で…倒れていた ばあちゃんを見つけてくれたんだ。その光景に、彼は…どれほど心を痛めたのだろう。「…ごめん。ごめんなさい。オレまで心配かけちゃって」そう言うと相葉さんは、ブンブンと首を振り、そっと手を差し出した。「勝手に入ってごめんね。あの、オレになにか手伝えることない?」…あぁ、この人がばあちゃんのそばにいてくれて本当に良かった。そう思ったら、涙が止まらなくて。ただひたすらに「ありがとう」を繰り返し、泣きじゃくるオレに寄り添ってくれて、静かに頭を撫でてくれたんだ。つづくmiu