不機嫌姫と拗らせ王子4《大宮》
つづきですそれから、オレは潤くんの家に行くことをやめ母親が使っている美容院に行くようになりあの頃の智を真似るように…自分に言い寄ってくる女の子と関係を持つようになった。適当に遊び適当に寝てもみたけれど全然…満たされなくて。…当たり前だよね。だって、オレは好きでもなんでもないんだもん。まぁ、恋愛感情なんてなくてもセックスはできるんだってことはよくわかった。相手からの一方的な想いに応えられるほどオレは大人でもないから結局「もう無理。付き合えない」って…最終的に、オレが振られる体で終わるんだけどね。「…なんか、疲れたなぁ」「二宮くん、どうしたの?」「んー?なんでもない」この人は何人目だっけ?年上。同じ学校の3年生だってことは知っている。…もう数えるのもやめた相手と、並んで歩く。思いついたようにカラオケに行きたいとか言い出したから、駅の近くのカラオケ店に入った。ちょっと腹が減っていたのでピザを頼み、適当に何曲か選ぶ。聞き慣れたイントロが始まり…マイクに手を伸ばそうとしたところで、彼女が上に乗ってきた。「二宮くんは歌ってていいよ♪」「いや…別にオレはそんなに歌いたい訳じゃないんだけど」一応、カラオケに来た以上、歌わないのももったいないと思ったから選曲したけれど。この手慣れた感じから察するに、そういうことをする目的でこの場所を選んだ…ということか。するりと下着の中に忍び込んでくる手に、呆れながらも任せていた。曲だけが流れる室内。コンコン とノックされ、扉に視線を向ける。それでもこの場にそぐわない行為を咎められてはと、彼女から少し身体を離した。「…かず?」「え、」久しぶりに聞いたよく響く声は当たり前のようにオレの全身を駆け抜けた。過去に置いてきたはずの感情が、静かに蓋を開ける。「あれ?智くん?!やだ久しぶり♪なになに?ふたり知り合いなんだ!!」チラリと彼女に視線を向けた智は、少々のため息を吐き出しながらテーブルの上にドリンクとピザを置いた。「相変わらずだな」その苦笑いに…ふたりの関係を察した。かつての…何人かいた彼女のうちの一人なのだろう。「ごゆっくりどうぞ」と 静かに閉められたドア。その言葉に別の意図を感じ、酷くイラついた。続きをしようとヘビのように絡みついてくる女の手を掴み、引き剥がした。「智と穴兄弟とか最悪なんだけど」ぼそっと呟くと彼女はキョトンとした表情を見せ、そして…嬉しそうに笑った。「え、もしかして嫉妬してくれてるの?!告白したら…智くんが髪を切らせてくれるなら付き合っても良いって言ったからさ。それからも、何度かカットさせたけど。それだけだから。彼とはエッチはしてないから、気にすることないのよ?」「髪を…?」やっぱり、もうずっと前から智にとって髪を切るという行為は、単に美容師になるための経験値稼ぎだったってことがショックだった。オレもこの人も、カットモデルだったってこと。それ以上でもそれ以下でもなくて、オレが勝手に違う意味を持たせていただけだと思い知らされて…ムカつくを通り越して泣きたくなってしまった。「だから、ね?」「…気分じゃなくなった」「え?二宮くん?!」「オレ帰るわ」「ちょっと…何よもうっ!」財布から適当に千円札を数枚抜き取り、テーブルの上に置いて部屋を出る。自動ドアが開く直前に、手を掴まれ…身体を壁へと押し付けられた。彼のしなやかな指先が、前髪に触れる。「かず…今は、どこで髪切ってんだ?」「別にどこだっていいじゃない」「やっぱりプロは上手いよな。おれも…もっと頑張るから。だから、そうしたら…」「意味わかんないんだけど」キッと睨みつけると、智の手が弛んだからその手を振り切るようにして…オレはその場を後にした。つづくmiu