ごめんください( ・∇・)
天城先生ロスが治らなくて…
お付き合いくださる方だけ、お進みください。
(世良先生と花房さんの子どもに転生した天城先生の設定です)
今年も、桜の季節がきた。
スリジエハートセンターには
あの人が植えた桜の木と…
その想いを継いだ人の手によって、たくさんの桜の木が植えられている。
あれから何年もの時を経て、綺麗な…
少しだけ儚くも感じる、淡いピンク色の海が眼下に広がっていた。
「どうだ?雪哉。綺麗だろう」
「うん、すごくキレイ」
今日は休みだった。
でも、この景色を雪哉にどうしても見せたくて…自分の職場であるこの場所へ連れてきていた。
「あら、世良先生?お子さん?」
「せらゆきやです!」
「あら♡先生に似てお利口なのね♪」
当たり前なのだが、スタッフや患者さん、そのご家族。顔見知りが多いこの場所では、かなり目立ってしまうらしい。
「まぁ、可愛い!」
「先生によく似てますねぇ」
「本当、可愛いわ♪」
…すっかり囲まれてしまった。笑
親バカかもしれないが、確かに雪哉は可愛いから、その意見には激しく賛同する。
急に大勢の大人囲まれて、萎縮するかと思ったのだが、雪哉はにっこりと笑って口の端を上げた。
「お姉さま方もキレイですよ♡」
「…え、雪哉?!どこでそんなセリフを」
雪哉は、時々…大人びたことを言い出すのでドキッとする。
3歳児の言葉に、ポッと頬を赤く染めたお姉さま方は「まぁ♡世良先生に似て、お口が上手なのね」と勘違いをしているから、そこはそのままにしておくことにした。俺はそんなこと言ったことないけどなぁ。
「あ、すいません…急ぐので失礼します。
行こう雪哉」
いつまでも付き合ってはいられない。
ひょいっと雪哉を抱っこして、エレベーターに乗り込んだ。
彼の最近のマイブームは紙粘土らしい。
欲しいとねだられ、買ってあげたのだが、ものすごく集中して、なんだかよくわからない謎の物体を作りあげていた。今もそれを大事そうに手に持っている。
それにしても…本当に不思議な子だ。
こうしていると、普通の…年相応な子どもなのに、ふとした雰囲気があの人と重なって見えるなんて。
エレベーターが静かに止まり、ゆっくりと扉が開いた。
雪哉を抱っこしたまま…
俺はスリジエハートセンターの建物を出て、桜雲の広がる遊歩道へと歩き出した。
向かう先は、あの場所。
“はじまりの桜”のプレートのついた桜の木の前まで来ると、それまで大人しく抱っこされていた雪哉が騒ぎ始めた。
「おりる、おろして!」
「自分で歩くの?」
「うん」
雪哉をそっと下ろすと
ゆっくりと…桜の木に近づいた。
「そうだ、雪哉。この…
プレートのついた木の隣の木ね?こっちは渡海先生が植えたんだよ?少し前に遊んでもらった、あの先生」
「そう…なんだ」
二本並んだ桜の木を交互に見上げる。
静かに佇む雪哉に…
自分がこの場にいてはいけないような気がして
一歩、下がった。
その横を、すっ…と黒い影が通り過ぎる。
「あ…」
言いかけて、口をつぐんだ。
雪哉の隣に立つ渡海先生の姿が
あまりにも…自然だったからだ。
「…俺の実家にも、桜の木があるんだ。二本並んで」
「うん」
「あそこには、もう…家族はいないけど。ここなら、ずっと一緒にいられると思って」
「………うん」
ひらひらと桜の花びらが舞い落ちて
雪哉の髪に絡みつき 淡い色へと染めていく。
この、黒と白のコントラストは
今まで見たどの景色よりも美しくて…
…なぜだろう?
気づけば、俺の目からは涙がこぼれ落ちていた。
「なぁ、雪哉。これ、何なの?」
雪哉が大事そうに抱えている、紙粘土細工。
聞いても「ナイショ」って言って教えてくれなかったのだけれど。
何となく…今なら教えてくれそうな気がして、聞いてみた。
「は?お前…分かんないの?」
「えぇ?!渡海先生分かるんですか?!」
もったりとした…
いかにも3歳児が作ったような、ただの紙粘土の塊なのだが。
俺の予想では、雪哉の好きなパンとか果物かな?と思っていたんだけれど。
「…俺が言っても良いのか?」と雪哉に確認する渡海先生。ふふんと得意げに頷いたのを見届けた後、雪哉の手から受け取ると俺の目の前に差し出した。
よく見ると、薄っすらと線のようなものが付けられているのが分かる。
え、これって…まさか。
「心臓、だろ?
…下手くそだけどな」
と言って、笑った。
miu