つづきです








二宮さんが切り出したのは、驚くような提案だった。


「あの…うちで一緒に暮らさない?」


ほんのりと頬を染め、そう話す二宮さん。

でも…オレは察してしまった。


家賃を滞納しているオレを、契約上いつまでもアパートに置いておくわけにはいかない。
かといって、優しい二宮さんは怪我の癒えきらないオレ追い出すこともできず…
とりあえず、引越し先が決まるまで、自分の家に居候させてくれようとしているのだろう。

彼が恋人同士だと嘘をついたのは、そう言えばオレが遠慮しないと思ったからかもしれない。

…本当、なんて優しいんだろう。


でも、ダメだ。
甘えるわけにいかないよ。
家賃もだし、病院代もちゃんとお返ししないと…

そう思って断ろうと思ったのだが


「だって退院したばかりで…
ひとりで部屋にいて、何かあってからじゃ取り返しがつかないんだよ!?」


そう必死で訴えるその姿に

二宮さんが、オレと…
ひとり 部屋で倒れていたおばあちゃんとを重ねているのだと気づいて、断りの言葉を飲み込んだ。

無理に断ると、二宮さんは心配するだろう。
だって、こんなにも優しいひとなんだから。

…ならば、少しの間お世話になろう。

頑張って働いて、お金を返して…
話はそれからだ。


「あの…じゃあ、よろしくお願いします」


記憶が戻っていないフリをして
オレは…二宮さんの嘘に乗っかる事にした。




着替えなどの荷物を手に、オレは自分が落ちた階段を上から眺めていた。

…骨折していてもおかしくない高さだよね。
打ちどころが悪ければ、命だって。

そう考えて、背筋がゾッとした。

もしかしたら…大家さんが守ってくれたのかもしれない。

ふたりで二宮さんの家に戻ると、仏壇に手を合わせ
(おばあちゃん、ありがとう)と、お礼を言った。


客間に敷いてもらった布団に横になると、身体のあちこちがギシギシと痛んだ。

そりゃあそうだよな。
頭を打った以外にも、打撲や擦り傷は身体中にある。
無理すれば動けないほどではないが、早く回復させるためにも、今は休ませてもらおう。


「気分悪くなったり…何かあったら、すぐ呼んでね?」


カーテンを閉めると、差し込んでいた眩しい光が遮られ、静かで落ち着いた雰囲気へと変わる。

二宮さんは枕元にペットボトルの水を置くと、そっと…ドアを閉めた。


優しくされれば、されるほど
二宮さんに嘘をつかせているという罪悪感が、重くのしかかる。


はぁ、と

いくつも吐いたため息が
畳の上に、積み重なっていった。


つづく



miu