ドラッグストア・ロマンス 5《末ズ》
つづきですいつもより遅い時間。俺は、営業時間ギリギリに店に飛び込んだ。シフトだって決まっているだろうし、いつもとは違うこんな時間に彼がいるとは限らなかったのだが…人も疎らな店内で、話し声がした方向に顔を向けると、年配の女性と談笑している彼の姿を見つけ、近寄った。「二宮くん、今日は遅くまで悪かったわね。せっかくの誕生日なのに大丈夫だったの?」「全然。彼女とかいないし…オレとしてもバイト代が増えるからありがたいです♪」「え、誕生日なの?!」あまりにも情報量が多くて、思わず口に出してしまった。二宮…っていうんだ。やっと彼の名前を知ることができた。それに…彼を見れば、相変わらず首元の緩い、クタクタのTシャツを着ている。「えっと…その、おめでとう」「ふふ、ありがとう」「あの…さ」「ね、もう閉店時間なの。荷物とってくるから外で待ってて?」彼は、俺をグイグイと押し出すように入り口のドアまで近づくと、外で待つよう促した。数分とたたず現れると「お待たせ」と俺の顔を覗き込む。「お兄さん、今日は…帽子もマスクもしてないんだね」「え、あ…うん」「さっきの人、店長なんだ。松本さんに気づきそうだったから、外に追い出しちゃった。ごめんね」「あれ?俺…名前言ったっけ?」そう言うと、大きな目をさらに見開きくすくすと口元を隠して笑った。「うちの薬局、化粧品もおいてるんだよね。ポップっていうの?アナタの顔も棚に飾ってあるもの」「ああ…そういうことか。確かに今日は帽子もマスクも付けてなかったわ」ふたり並んで歩き、大通りに出たところで彼はくるりと向き直った。「じゃあ…オレ、こっちだから」バイバイ と振ろうとした手を咄嗟に握り、何か言わなきゃ…と口ごもる。まだ、離れたくないもう少し一緒にいたい「そうだ!誕生日…お祝いしなきゃ!」「え、そんなの」「この後、誰かと約束あるのか?」「いや、無いけど」「じゃあ、決まり」「ええええ?!」握った手を離さず…俺は、そのまま歩き出した。つづく