つづきです
餃子の材料を買い込み、スーパーを出ると
少し傾きかけていたオレンジ色の太陽が、オレの背中を押していた。
道路に落ちる自分の影が
早く智のもとへ帰りたいとばかりに…
前へ前へと伸びていく。
オレは、それを追いかけるように駆け出していた。
ハァ、と 少しばかり息を切らしながら、ドアの前に立つ。
合鍵を取り出すと
今度は躊躇うことなくドアを開けた。
「ただいまー」
「あれ、早かったな」
買い物袋を床に置き
洗面所で手を洗っていると
そっと後ろから腰を抱かれ
智の唇が、首筋に押し当てられる。
ふわりと彼の香りに包まれ
心地よい温もりと優しさが伝わってきた。
「危ないことなかったか?」
「ふふ、心配し過ぎよ。大丈夫」
「そっか」
「勉強はかどってる?」
「まぁ、そこそこ。
そうだ、おれ今日家に戻って来たんだけどさ…」
「あ、いけない!早く肉を冷蔵庫にしまわなきゃ」
智の腕をすり抜けて、床に置いた買い物袋を手に取ると、いそいそとキッチンに向かった。
…そっか。
今日出かけた先は、家だったのね。
一人暮らしのオレと違って、智の家には家族がいる。今日は日曜日だし、ご両親と小さな妹と…会ってきたんだろうな。
そして、きっと…
近づいてきた受験に、進路の話もしてきたはずだよね。
「…和也?」
「え、あ…なんでもない。
美味しいの作るから楽しみにしててね」
白菜をバリバリと剥がし
みじん切りにして、ギュウっ…と絞る。
細かく切った、ニラと椎茸、大葉とを合わせ
先ほどしまったばかりのひき肉を冷蔵庫から取り出し投入すると、チューブの生姜を大量に入れた。
ボウルの中で、いろんな具材の混ざったタネ…
なんだか、ぐちゃぐちゃな 自分の胸の中みたいで
オレは一心不乱に 皮で包むと
それを…閉じ込めていった。
つづく