つづきです
全然気づかなかった。
もう、いつの間に帰ってたのよ///
「んふふ…大変そうだな。手伝おうか?」
「…結構です」
くすくすと口元を緩ませている智は、オレの返事など聞こえていないかのように近づくと、新しい湿布を取り出しフィルムを剥がした。
まぁ…これ以上無駄にするのも勿体無いし
何より大人気ない。
しょうがないから貼られてあげる。
…と思って待っていたのだが、待てど暮らせど、一向にあのヒヤリとした感覚が訪れない。
ん?と顔を傾けて後ろを見れば、智の視線は半ケツ状態のオレの腰まわりに注がれていて。
「ちょっ…何見てんの?////」
「いや…なんか良いなぁ…って」
「早く貼ってよ!」
「はいはい。でも和也って、意外と不器用なんだな笑」
「なによ、人のことバカにして」
「違うよ。可愛いって言ってんの」
「……もう」
ふわりと空気が動いたかと思ったら、急に腰に冷たいものが触れた。
「ひゃっ!!」
油断したせいか、想像以上に冷たくて
思わず飛び上がってしまった。
「んふふ♪」
さらに追い打ちをかけるように、手のひらで貼った湿布を押し付ける。
もう、冷たいの分かってるくせに。
恨めしそうな視線を智に向ければ、彼はいたずらっ子のように目を細めて笑っていて。
まだまだ…
年相応な可愛さが残っていた。
当たり前だよね。
智は高校生なんだもん。
こんなに穏やかな日々は、そう長くない。
…だったら、今を大切にしなきゃ。
「よし!今日はオレがご飯つくろうかな」
「和也が?作れんの?」
「レパートリーは多くないけど。餃子か唐揚げなら作れるよ」
「おーマジで?!食いたい」
「どっちがいい?」
「じゃあ、餃子!」
「ふふ、分かった。買い物行ってくるね」
「あ、おれも行くよ」
「智は勉強しててよ。あなた受験生でしょ?」
「いや、でも、」
昨夜のことを思い出したのか、智は不安げな表情を隠さなかった。
でも、噂になっていた不審者は、智のおかげで無事捕まったし、元々この辺りは静かな住宅街だ。
今からなら、時間的にも陽が落ちる前に帰ってこられるだろう。
「あのね、そもそもこんなおっさんを襲うような物好きはいないのよ。大丈夫。心配いらないから」
「…じゃあ、ちゃんとスマホ持って行けよ?何かあったらすぐ連絡して」
「うん、わかった」
それでもまだ不満げな智の頬に 軽く口付け
既に…自分の家のように住み慣れてしまったこの部屋を出た。
つづく
miu