つづきです








翌日から、少しずつ…アパートの荷物を二宮さんの家へと運び入れた。


元々、大した荷物は置いていない。

それに、テレビとか…

金目のものは既に売ってしまった後だったから。


社長に確認したところ、仕事は今週いっぱい休みで良いとのこと。

なので…掃除は追々やっていけば良さそうだった。



「退院してきたばかりなのに…大丈夫?無理しないでね」


「二宮さんが手伝ってくれたから大丈夫だよ」


「あ、もう…また”二宮さん"って言った!」



どうやら恋人同士という設定は、呼び方にもこだわりがあるようで。

二宮さんは"かず"と呼んで欲しいらしい。



「えっと…かず?////」


「ふふ。まーくんお腹すいたでしょ。お蕎麦食べよ?引っ越し蕎麦♪」



そういうと、かずは目を細めて笑い

楽しそうに台所に立っていた。



食事を済ませると、午後も引っ越し作業を続けた。

かずが手伝ってくれたおかげで、部屋の荷物はあらかた片付いた。

これなら、明日掃除をすれば引き渡しできそうだ。



「ありがとう。かずも疲れたでしょ?」


「重いものは全部まーくんが運んでくれたから。

ふふ、汗びっしょりだね。お風呂入ってきてよ」



見れば、着ていたTシャツは汗で色が変わっている。うわ…この色のシャツは、やめとけばよかったかも。


なんか…汗だくの自分の姿が 妙に気恥ずかしくて

かずの言葉に甘えることにした。




脱いだ服を簡単に畳み、風呂場のドアを開けた。


そっと髪の間に指を差し込んでみる。

酷く頭を打っていたものの、切ってはいなかったので、そこに縫った痕はない。

ただ、デカいたんこぶと、身体のあちこちに残る赤黒いあざが、あの事故を物語っていた。


そっと触ってみたが、押すと…やはり痛い。

慎重に頭を洗っていると、扉が開く音が響き、驚いて振り返った。

その勢いで、髪から垂れてきた泡が目に入る。



「うわ、痛って」


「大丈夫?痛い?」


「いや、そうじゃなくて…どうしたの?!」


「お風呂、大変だと思って。手伝うよ」


「え?!大丈夫だから!////」


「ふふ、遠慮しないで?」



シャンプーの泡が滲みて目が開けられないでいた間に、かずはオレの背中側に回り込んでいたようで、気配を後ろから感じた。

自分が裸だということを思い出し、慌てて両手で股間を隠す。



「髪、もう少し洗う?」


「いや、も…もう流していいけど…」



温めのシャワーが、静かに泡を洗い流していく。

晴れている部分を避けながら…痛くないよう、そっと髪に差し入れられる指先が、とても優しい。


すっかり泡が流され、目を開けると

目の前にある鏡の中のかずの姿に、息を飲んだ。


着ていたTシャツは濡れて…

胸の尖りが、その存在を主張している。


しかも、下は…短パンじゃなく、下着。


(こんなの、目の毒だよ!)


オレは、開けた目を再び閉じるしかなかった。



「タオルだと痛いかもしれないから…

今日は撫でるくらいにしとくね」



どうやら、背中に触れたのはかずの手のひらのようだ。


そっと、優しく背中を滑る手。

首筋、肩、そして…前に回ってきたところで



「もう!もう自分で洗えるから!!////」


「そう?じゃあ…」



少し残念そうにしながら、かずは風呂場から出て行った。


後ろでドアが閉まるのを確認し

「はぁ…」と、特大のため息を吐き出すと


オレは…


反応しかけてしまった、自分の…を

必死に宥めることになってしまった。





つづく




miu