つづきです
にのちゃん視点
多分…ね。
もう、この時から好きだったんだと思う。
これまで、恋愛とか興味なくて。
付き合ったりとか…
それなりに経験はあったものの、人を好きになるってことに鈍感だったようにも思う。
でも、相葉さんは
オレの中で確実に大切な存在になり
そして、あの日
オレたちは確かに想いが通じ合った…はずだった。
それは、何度目かの ばあちゃんの月命日。
仕事から帰った相葉さんは、仏壇に手を合わせに来てくれた。
「こんな遅くにごめんね」
「そんなの気にしないでよ、オレ夜型だし。笑
あ…ねぇ、ご飯まだでしょ?一緒に飲まない?」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて」
相葉さんとは、時々飲むことがあったが
この日はいつもより、明らかにハイペースだった。
酒が進むにつれ呂律が回らなくなり、申し訳なさそうに項垂れる。
「にのみやさん、ほんとごめんなさい…
家賃、来月にはなんとかするから」
会社が大変だとは聞いていた。
でも、相葉さんはお世話になった社長を放っておいて辞めることもできないと、ずっと悩んでいて…
オレとしては構わないのだが、他の住人の手前、いつまでも家賃を滞納させるわけにはいかなかった。
オレも酒が入っていたせいか、つい…
本音が口をついた。
「ね、うちに住んじゃえば?一緒に暮らそうよ。
それなら家賃なんていらないよ?」
「そんなの…ダメらよ…」
「オレは、相葉さんなら良いんだけどなぁ」
「らめらって。そんな…ずっと一緒にいたら、オレの理性が」
オレを見つめる彼の熱っぽい瞳に、胸が躍った。
…え?
どういうこと?
「…オレ…」
ゆっくりと近づいてくる彼の唇を
オレは…避けなかった。
そのまま、押し倒されて…深く口付けられる。
…酒臭いのはお互いさまだよね。
オレは、静かに目を閉じた。
「…っ、ごめん!」
弾かれたようにオレから離れると
相葉さんは、慌てて部屋から飛び出していった。
「待ってよ、相葉さん!!」
…アナタが傷ついたような顔をしたのは何故?
謝らなくていいのに
全然、嫌じゃないのに
相葉さんの忘れていった上着を手に、追いかけると、アパートの方から何かが落ちたような大きな音が鳴り響いた。
駆け寄ると、相葉さんが階段の下に倒れていて…
「相葉さん!相葉さん?!」
名前を呼んでも反応がない。
オレは震える手で、救急車を呼んだ。
目覚めた相葉さんは、記憶をなくしていた。
思わず”恋人"と名乗ってしまったのは
あの時、確かにアナタの想いは受け取ったし
オレだって…////
オレの中では…もう
ふたりの恋は始まっていたから。
後悔しないよう
自分の気持ちに、素直に…生きようと思ったんだ。
だから、オレにとっては嘘じゃなかったのよ。
…でも、そうじゃなかった。
記憶が戻ったのに
あの時のことだけを覚えていないってことは
アナタにとって、要らない記憶だったから。
無かったことにしたい…ってことなんだろう。
ごめんね、勝手に勘違いしちゃって。
それでもアナタとの恋人ごっこは、楽しかったよ?
…でも。もう…終わりにしなきゃ。
オレは、顔を上げ
相葉さんを見据えた。
つづく
miu