サミュエル・ジュイ 「負け犬の美学」 (2017) | It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

スキー大好き、ゴルフ、読書、映画、演劇、音楽、絵画、旅行と他の遊びも大好き、元々仕事程々だったが、もっとスキーが真剣にやりたくて、会社辞めちまった爺の大冒険?





【日本語字幕付予告編:1分38秒】




【あらすじ:映画ウォッチよりの引用(→)】

ボクシング試合から帰宅したスティーヴ(マチュー・カソヴィッツ)が、寝ている娘のオロール(ビリー・ブレイン)に優しくキスをすると、起きたオロールに試合の結果を聞かれて答える。「あとちょっとで勝てた」と。

スティーヴは負け続けてもボクシングにしがみついている45歳のロートルのボクサー。妻のマリオン(オリヴィア・メリラティ)からは50戦で引退することを迫られていた。殴られてばかりで身体はぼろぼろ。自身が出場した試合の会場スタッフにさえ顔を覚えられていない。しかし娘のオロールは、愛情いっぱいに育ててくれる父親が大好きだった。

試合を観たいとせがむオロールだったが、いいところを見せることができないスティーヴは断るしか出来ない。生活は苦しく、美容師をしている妻マリオンの稼ぎと自身のレストランでのアルバイトで何とか生活を支えている状況。オロールが通っているピアノのレッスン代もろくに払えていない。

そんな中、スティーヴはパリ国立高等音楽院へ入学したいという愛娘の夢を叶えるために、ピアノを買ってあげることを思い立つ。

スティーヴにチャンスが訪れる。チャンピオンのタレク(ソレイマヌ・ムバイエ)が欧州王座をかけた試合のため、スパーリングパートナーを募集していることを知ったのだ。ピアノの購入資金のため、スティーヴは応募することにした。しかし、それを知った妻マリオンから、試合より危険が伴うスパーリングパートナーはやらない約束をしたはずだと反対されてしまう。

それでも翌日、スティーヴはタレクのもとを訪れた。向かった先は豪華なホテル。練習場所はカジノを通り抜けた先の劇場にリンクが設置されていた。いつも自分が練習している汚いジムとは大違いなことに興奮を隠せないスティーヴ。

紹介されたスパーリングパートナー仲間たちは、みな輝かしい戦績を持ち、自信に満ち溢れている若者たちだった。早速スパーリングを開始するが、スティーヴはいい仕事が出来ず仲間からもポンコツ呼ばわりされ、早々にクビになってしまう。

翌朝、オロールのために引き下がれずにいたスティーヴは、まだ薄暗い中起き上がり、ホテル前でタレクを待ち伏せする。冷たくあしらうタレクに「俺にはあんたにないものがある」とKO負けの恐怖を乗り越えた経験や重要性を必死に説いた。そんなスティーヴにタレクも根負けし、半ば仕方なくクビを撤回した。とはいえ、やはりスパーリングでは相変わらずボコボコにされ、仲間たちからも毎回のように駄目出しを食らうばかりだった。

ところが、そんなスティーヴがタレクより一目置かれるようになる出来事が起こる。ある日の作戦会議。タレクに戦法変更を言い渡すトレーナーに、スティーヴはおずおずと異議を唱えたのだ。トレーナーからは相手にされなかったが、その後もめげずにタレクの部屋を訪れ自分の作戦を語る。黙ったままのタレクだったが、スティーヴの意見に同意した様に見えた。

仕事にも慣れてきたある日、スティーヴがオロールとスーパーで買い物をしていると、タレクのファンから声をかけられた。スーパースターのスパーリング相手として、ファンから一緒に写真を撮ってほしいと言われる父を、誇らしい目で見守るオロール。学校で優秀な成績を収めた褒美に、父親の試合を見たいとねだるオロールに、これまで決して見せなかった公開練習に招待することにした。

【以下、結末までの記述あり。 映画未見の方は、次の感想欄まで飛んで下さい。】

タレクの公開練習の日がやってきた。客席には父のボクサー姿を楽しみにしているオロールの姿もあった。タレクもファンの声援があることでいつも以上に気合が入る。いよいよ練習試合が始まった。2番目のスパーリング相手にスティーヴを指名したタレクは、観客に応えるかのようにスティーヴをこき下ろす。タレクにボコボコにされ罵声を浴びせられ、一層喜ぶ観客とじっと耐えるスティーヴ。

そんな状況にオロールの顔はみるみる曇っていく。練習試合の途中で会場を飛び出してしまうがオロールだったが、スティーヴはその後も淡々と仕事をこなした。

まさか、スティーヴの娘が練習試合を見に来ているとは知らなかったタレクだったが、少しばかり悪いことをしたと感じたのか、ある日スティーヴに意外な提案をしてきた。「欧州王座戦の前座試合に出ないか?」と持ちかけたのだ。

それはスティーヴの通算50試合目。マリオンと引退を約束した最後の試合が思いも寄らぬ大舞台で開催されることとなったのだ。これまでに数々の負けを経験してきたスティーヴだが、なんとしても終幕は勝利で飾りたい。スティーヴのそんな思いを胸に、妻マリオンが見守る中(オロールは前回の公開練習に懲りて来ていない)、スティーヴの最終試合が始まった。

試合は、両者合い譲らぬ熱戦。しだいに、マリオンの声援も熱を帯びて来る。大きな歓声とともに試合は終わり、引き分けの判定が下された。スティーヴは最後の大仕事を終え、娘のベッドへ直行すると頭を撫でながらキスをした。起きたオロールはいつもの様に試合の結果を尋ねる。スティーヴがやさしく微笑むと、オロールも微笑んで父親に抱きついた。

後日、高等音楽院の試験で、生き生きとピアノを弾いているオロールの姿があった。それを誇らしく聴いているスティーヴ。ピアノを弾き終えたとき、2人には自信に満ち溢れた笑顔が輝いていた。




【感想】

また、好みの映画に出会えた。ボクシングというのは映画の素材に向いているのだろうか。ボクシング映画というと、何といってもシルヴェスター・スタローン脚本・主演の「ロッキー」(1976)が頭に浮かぶが、この映画の主人公スティーヴ(マチュー・カソヴィッツ)はそんなヒーローやチャンピオンではなく、45歳で現役ながら、対戦成績、49戦13勝33敗3引分けという弱いボクサーである。

彼が、ボクサーを続けているのは、愛する妻マリオン(オリヴィア・メリラティ)と2人の子供、10歳くらいの娘オロール(ビリー・ブレイン)と3-4歳の息子、のためもあるが、それであれば、もう少し安全・安心な仕事もあるはずで、何よりもボクシングが好きだからなのだろう。

そんなスティーヴが、ピアノの才能がある娘のために、敢えて過酷で危険性もある仕事を引き受けて奮闘するのだが、アメリカ映画であれば、父と娘が一緒になって張り切って、ハードな練習をこなし、最後は試合の相手に勝って、大いに盛り上がってエンディングとなるのであろうが、そんな一本調子でハイな結末に突っ走らないところが、如何にもフランス映画である(笑)

しかし、この娘オロール役のビリー・ブレインは圧倒的に可愛いく、「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」(1985)のメリンダ・キンナマンと並ぶ美少女ぶりが強く印象に残る。しかも、ただ可愛いだけではなく、父親をとても尊敬していて、愛していて、危険な仕事をしている父親のことが心配で堪らず、健気なのだ。こんな娘のためなら、お父さんが頑張るのも納得。名子役が必ずしも名俳優になるとは限らないが、是非ともフランスを代表する女優に育って欲しく、今後も要注目だ。

ちなみに、父親スティーヴ役のマチュー・カソヴィッツは、フランス映画の名作「アメリ」(2001)で、アメリが恋に落ちる、ポルノ・ショップに勤めながら自動証明写真撮影機の下に捨てられている写真を集めるのが趣味の変わった青年を演じていた俳優なのだが、言われなかったら、気づかぬままだったろう。

後は、欧州王座戦に挑むためのスパーリングパートナーとしてスティーヴを雇う、ボクサーのタレク(ソレイマヌ・ムバイエ)についても触れておこう。最初は高慢ちきでちょっと嫌な奴かと思うが、これが実はなかなか良い奴。ソレイマヌ・ムバイエは、本当に元ボクサーで映画に出演するのは初めてらしいのだが、儲け役ということも相俟って、好演している。





【スタッフ、キャスト等】

監督・脚本:サミュエル・ジュイ
音楽:オリヴィア・メリラティ
撮影:ロマン・カルカナッド
美術:フレデリク・ドゥブレ
原題:スパーリング(Sparring)
キャスト:
スティーヴ・ランドリー(マチュー・カソヴィッツ)
マリオン・ランドリー(オリヴィア・メリラティ)
オロール・ランドリー(ビリー・ブレイン)
タレク・エンバレク(ソレイマヌ・ムバイエ)

上映時間:1時間35分
フランス公開:2017年8月6日
日本公開:2018年10月12日(上映中/予定の日本全国の映画館→)
鑑賞日:2018年10月13日
場所:新宿シネマカリテ





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