【予告編:2分29秒】
【あらすじ:Wikipediaよりの引用(→☆)】
舞台は架空の田舎町である米国ミズーリ州エビング。アンジェラ・ヘイズ(キャスリン・ニュートン)という名のティーン エイジャーがレイプされ焼かれて殺害されるという凄惨な事件が発生した。
それから7ヶ月が経過した後も、母親のミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)は娘を奪われた悲しみから立ち直れずにいたが、時が経つに連れ、犯人の手掛かりを何一つ発見できない警察に不信感を抱く様になり、それはやがて警察への怒りへと変化していった。
ミルドレッドは町外れの道路沿いの殺害現場に立つ3枚の広告板(スリー・ビルボード)に、「娘はレイプされ焼殺された」、「未だに犯人が捕まらない」、「どうして?、ウィロビー署長」というメッセージを張り出した。
ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)を敬愛してきたエビングの住民たち、息子のロビー(ルーカス・ヘッジズ)のまでもが、ミルドレッドの行動に憤慨した。特に、レイシストとして悪名高い警官ジェイソン・ディクソン(サム・ロックウェル)は怒りを煮えたぎらせていた。
ウィロビーは町民から慕われる人格者であり、ミルドレッドの悲しみと怒りに同情的ではあったが、それでもなお3つのビルボードは自身への不当な攻撃だと考えていた。ウィロビーはミルドレッドに自分は膵臓癌の末期症状であり余命少ないことを告白するが、彼女はそれを既に知った上でビルボードを出したと返答する。
一方、ディクソンはミルドレッドの行動が警察官への敬意を著しく欠いた振る舞いであるとみなし、ミルドレッドにビルボードを貸した広告代理店社長のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)を脅迫した。その後、ディクソンの母親の入れ知恵で、ミルドレッドの職場の同僚で友人のデニス(アマンダ・ウォーレン)をでっち上げ逮捕して、保釈にも応じなかった。
ミルドレッドの元夫のチャーリー(ジョン・ホークス)は、ミルドレッドに「アンジェラが殺される1週間前に、あいつは俺と一緒に暮らしたいと言ってきたんだ」と語る。
一見強気なミルドレッドだったが、実は事件当日、アンジェラは友人らと遊びに出かけるのに車を貸して欲しいと頼んだが、娘の素行の悪さに頭を悩ませていたミルドレッドはそれを断った。やがて激しい口論となり、「暗い夜道を歩いてレイプされたらどうするの?」と言うアンジェラに「レイプされればいい!」と返答してしまったのだ。
そんな中、ミルドレッドは歯の治療に行く。その歯医者はウィロビーと親しい友人だったため彼女に麻酔無しで治療して痛めつけてやろうとするが、逆にミルドレッドにドリルで負傷させられる。歯医者は「ミルドレッドに襲撃された、訴えてやる!」と騒いだぎので、ウィロビーが彼女を尋問することになったが、ミルドレッドは「歯医者に行っていない、何もしていない」の一点張りだった。
尋問中、ウィロビーは突然吐血し、そのまま病院へと搬送された。自分の死期が近いと悟ったウィロビーは、退院後に妻と2人の娘と過ごす1日を設け、楽しい思い出を作った後に自殺した。
ウィロビーの死が町中に知れ渡ると、「ミルドレッドがビルボードを出さなければ、署長は自殺などしなかったはずだ」という風評が流れ、ミルドレッドが職場で見知らぬ男性客から脅される事件まで起きた。
ウィロビーの死に憤慨したのはディクソンも同じだった。ディクソンはレッドの広告代理店に押し入り、レッドを2階の窓から突き落とした。ディクソンの暴挙をウィロビーの後任であるアバークロンビー署長(クラーク・ピーターズ)がたまたま目撃しており、ディクソンは即刻解雇された。
その夜、ミルドレッドとロビーは帰宅中に3枚のビルボードが燃え上がっているのを目撃、2人で懸命に消火活動に当たったが、メッセージ広告はほとんど燃えてしまった。
【以下は結末までの記述がありますので、映画をご覧になっていない方は、次の感想欄まで、飛んで下さい。】
警察署では、ディクソンがウィロビーから届いた最期の手紙を読んでいた。そこには「お前の欠点はすぐにキレることだ。警官に最も必要なのは愛だ。そうすれば、もっと良い警官になれる。」と書いてあった。改心したディクソンはそれまでいい加減にやっていたアンジェラの事件の捜査に本気で取り組もうと決心したが、そこで思わぬ事態が発生した。
ビルボードは警察に放火されたと考えたミルドレッドは報復のため火焔瓶めで警察署に放火した。署内でウィロビーの手紙を読んでいたディクソンは放火に気が付かず逃げ遅れたが、大火傷を負いながらもアンジェラの事件の資料が燃えるのを守った。
偶然その場を通りすがったミルドレッドの友人のジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)はディクソンを救助し、警察にはミルドレッドが放火犯だと察しつつも「彼女は自分と一緒にいた、火事とは関係ない」と証言した。
大火傷を負ったディクソンが入院すると自分が暴行したレッドと同室だった。ディクソンは顔が包帯で隠れていたため当初は気づかれなかったのだが、レッドの優しい対応を受ける内に涙を流し、「窓から突き落として悪かった」と謝罪した。レッドは相手がディクソンだと気づき驚きはしたが、糾弾することなくオレンジジュースを差し出した。
ミルドレッドのもとにもウィロビーからの最期の手紙が届いていた。内容は「自分が自殺するのとビルボードは関係ない。君の気持ちはわかるが、警察にもどうしようもない事件というのは存在する。憎しみだけで生きないでほしい。」というものだった。更に彼はビルボードの維持費として彼女に5000ドルを贈っていた。
焼けたビルボードは予備の張り紙を使用することで再掲され、ウィロビーが死んでも広告のメッセージは変更されなかった。放火の際に助けられたジェームズに恩義を感じていたミルドレッドは彼と食事に行くが、同じレストランに元夫のチャーリーが現れ、ビルボードは酔った勢いで自分が火を点けたと告白する。
チャーリーに憤慨するミルドレッドはジェームズに八つ当たりのような接し方となってしまい、ジェームズは「俺は苦しんでる君を支えたかっただけなのに」と帰ってしまった。ジェームズを傷つけてしまったミルドレッドは、チャーリーにワインを贈り、その場を去った。
退院したディクソンがバーで酒を飲んでいると後ろの席で男が話していた。彼は以前ミルドレッドの店に現れ、彼女を脅し男だった。会話の内容は9か月前に女性をレイプして焼き殺したことを自慢気に語るものだった。
ディクソンはその男がアンジェラ殺しの犯人だと推測し、男の車のナンバーから住所がアイダホ州であることを確認すると、わざと男に言いがかりを付け、ひどい暴行を受けながらも相手の皮膚を爪でかきむしり、DNAを採取することに成功した。
ディクソンはミルドレッドに男のことを話し、2人は和解した。しかし、DNA鑑定の結果その男はアンジェラの事件の残留DNAとは一致せず、また、アンジェラが殺された時期には軍の任務で米国を離れてある砂漠の国にいたという強力なアリバイがあった。
ディクソンとミルドレッドは落胆するが、ディクソンは「その男はアンジェラの事件と関係がなくても、レイプ殺人犯であることは間違いなく、アイダホに行く」と言うと、ミルドレッドも同行することを決意する。
ミルドレッドは息子ロビーに、ディクソンは母親に別れを告げ、アイダホに向かう。ミルドレッドが「警察署に放火したのは自分だ」と告白すると、ディクソンは驚きもせず「あんた以外に誰がいる?」とあっさり返す。道中、男を殺すことについてどう思うかについて、「道々、決めていこう」と語り合い、物語は幕を閉じる。
【感想】
傑作だ。日本で2018年に公開された新作の中で、今のところ、個人的には一番衝撃的だった。外国映画では「君の名前で僕を呼んで」「ファントム・スレッド」と並んで、間違いなくキネマ旬報ベストテンに絡んで来るだろう。
予告編はあまり好きになれなかった。4文字ワードを含んであまりにも汚い言葉をフランシス・マクドーマンドが連発するので、ちょっと勘弁してほしいなと言うのが本音だった。
しかし、実際の映画を一端観出すと、ぐいぐい引き込まれた。とにかく登場人物が素晴らしく良く描けている。ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)然り、ディクソン(サム・ロックウェル)然り、ウィロビー(ウディ・ハレルソン)然り。
アカデミー賞で、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、サム・ロックウェルが助演男優賞、そしてヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞したのは、さもありなんの結果だと思う。
この映画には、完璧なヒーローはいない。ミルドレッドも、ディクソンも、一見嫌な奴だが、それぞれに、悲しみや苦しみや憎しみや怒りを抱えている。ウィロビー署長はちょっと良い奴だが、末期の膵臓癌で、死の影に怯えている。
そんな人間たちが、のたうち回り、もがき苦しむ。結局、事件は解決しない。映画は最後の結果まで描かずに終り、その後の物語は観客ひとりひとりに委ねられる。
しかし、ミルドレッドもディクソンも変わった。憎しみを乗り越えて、彼らも前向きに生きて行くと信じたい。絶望ではなく、希望のラストだと信じたい。
この映画は、日本では本年2月に封切られたので、もうあまり映画館では上映していないかもしれないが、TSUTAYAのDVDでも良いので、是非観て戴いて考えて欲しいと思う。
【スタッフ、キャスト等】
監督・脚本:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイヴィス
美術:インバル・ワインバーグ
音楽:カーター・パーウェル
キャスト:
ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)
ビル・ウィロビー署長(ウディ・ハレルソン)
ジェイソン・ディクソン巡査(サム・ロックウェル)
アン・ウィロビー ビルの妻(アビー・コーニッシュ)
チャーリー ミルドレッドの元夫(ジョン・ホークス)
ジェームズ ミルドレッドの友人(ピーター・ディンクレイジ)
レッド・ウェルビー 広告代理店社長(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)
ロビー・ヘイズ ミルドレッドの息子(ルーカス・ヘッジズ)
デニス ミルドレッドの友人、職場の同僚(アマンダ・ウォーレン)
アンジェラ・ヘイズ ミルドレッドの娘、事件の被害者(キャスリン・ニュートン)
アバークロンビー ウィロビーの後任の署長(クラーク・ピーターズ)
ディクソンの母(サンディ・マーティン)
上映時間:1時間55分
米国公開:2017年11月10日
アカデミー賞:主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)、助演男優賞(サム・ロックウェル)
ヴェネツィア国際映画祭:脚本賞(マーティン・マクドナー)
日本公開:2018年2月1日
鑑賞日:2018年7月26日
場所:飯田橋ギンレイホール
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