作品紹介『灰色の虹』 | なかのたいとうの『童話的私生活』

作品紹介『灰色の虹』

灰色の虹(両面)


 暗く、冷たい、灰色の世界。
 雪のように、絶えまなく、しんしんと降り続いているのは、崩れてゆこうとしているこの世界の、いたるところからはがれ落ちた無数の、かけらでした。

 
『灰色の虹』はこうして始まります。


それは色のない世界。

既に崩壊がはじまってしまっている世界であって、

止めることは誰にもできません。

形あるものはみな崩れ、

輝きも、失われてしまっている世界なのです。

未来も、希望も、夢もそこには存在しません。

あるものと言えば、永遠に明けることのない、とこしえの夜と、

しんしんと雪のように絶え間なく降り続ける、無数の灰色のかけら。

そしてそこに住むたったひとりの男の子。

男の子にも色はありません。

そこではあらゆるものが灰色なのです。

そしてその男の子は、そうした世界でかけらを拾い集め、高い塔を築いて暮らしています。

けれどもどれだけ働いたとしても塔は少しずつしか伸びていきません。

塔は男の子が築いていくその先から、

世界の理に従って崩れていくのです。

毎日毎日休むことなく働く男の子。

男の子は自分がいつからそうやって塔を築いているのか、そして何のために築いているのか、

既にわからなくなってしまっています。


 
原画:灰色の虹(ボツ)
ボツになった『灰色の虹』表紙原画 (C)2010 TSUBASA

 

書いているときは、さほど意識していなかったのですが、これはまぎれもなく『絶望』そのものを描いたお話しです。

崩壊していく世界をたったひとりで修復しようとする男の子の行動に、意味などありません。

しかも男の子は、自ら望み、意識してそれを行っているわけではなく、

単に昨日と同じ今日を過ごしているだけです。

たとえ一生懸命働き、身をけずるような努力をしていたとしても、その世界にいる以上けっしてむくわれることはないのです。


ところがある日、そうした男の子の世界にも希望の光がさします。

一羽のカラスが、どことも知れないどこかから、男の子の世界にまぎれこんできたのです。

カラスは男の子に自分のいた世界について話し続けます。

空の青に、夕日の赤。

森の木々は緑におおわれ、

そしてそこには、たくさんの仲間たち。

カラスはそうした仲間たちと一緒になって、いっせいに、紫色の明け方の空へむかって飛び立って行くと言うのです。

男の子の運命はカラスと出会ったことによって大きく変わってしまいます。

カラスとの出会いは、そう、この灰色の世界の外に、こことはまるで違った別の世界があるということの証しでもあったのです。

そして男の子はカラスのいた世界を目指します。

寝る間も惜しんで命をけずって高い塔をさらにさらに高く高く伸ばしていくのです。

 
原画:灰色の虹
『灰色の虹』表紙原画 (C)2010 TSUBASA

 
『灰色の虹』
2010年12月17日 初版発行
著者・発行者 中野苔桃(なかのたいとう)
印刷・製本 FedEx Kinko's
制作部数全5部
B5版縦書き35ページ[35字×15行]
13,000字/400字詰原稿用紙換算40枚
(C)2010 NAKANO TAITO

 

このお話しは、秋葉原にあるコンセプトカフェ&バー『声優のたまご』に勤めているキャストのひとり、あかへのバースデープレゼントとして書かれたものです。


あかとバースデイイベントで



とは言っても彼女がお話しの世界に登場するわけではありません。

書いていたときのぼくの意識が彼女のイメージで汚染されていたことをぼくは否定しませんが、

彼女の果たした役割は、ぼくにお話しを書かせてくれたこと。

純粋にそれだけです。

彼女がいなければこのお話しは存在しないはずですし、

このあとに続く別のお話しもまた、存在しません。

そもそもぼくがふたたび物語を書く気になったかどうかさえ、じつにあやしいものです。

そういった意味で、彼女の存在は、ぼくにとってかけがえのないものです。

この先ぼくがどこへ向かうことになろうとも、

それは変わることはないでしょう。

彼女に対するぼくの気持ちは今でも変わらず、

感謝、感謝、それだけです。


灰色の虹完成

 

ただこの『灰色の虹』は一連のシリーズの最初ということもあって制作にはたいへん苦労しました。

童話的なひとつの世界観としての「ダークメルヘン」。

その漠然としたイメージは既にぼくの中にはあったのですが、書きはじめた時点ではそれを、ぼくは明確にはしていません。

シリーズを書き続けることによって、その結果として、ぼくの「ダークメルヘン」はこういうものだと言えさえすればいいと思って書きはじめています。

この一連のシリーズ童話を「ダークメルヘンのための連作」とうたっているのは、そういうわけです。

 
最後にあとがきを全文。
 


 あとがき

 童話とはどうあるべきなのか。ぼくはそういったことをずっと考えてきたように思います。
 原点に立ち戻って考えてみることにしましょう。そもそも童話とは、本来、子どもたちに読み聞かせるために作られたお話しだったはずです。内容的なものについてはここでは触れません。注目したいのは、想定される読者が知識も経験も乏しく注意散漫、気まぐれ、落ち着きなんてとても期待できそうにない非常に多くの子どもたちであるということです。このことは、童話には内容的な問題に加えて、子どもたちの興味を十分に引きつけるだけの何らかの工夫も、同時に求められることを意味します。そうした工夫とは単に話しの面白さなのかもしれませんし、テーマやジャンルの選び方なのかもしれません。いずれにしてもそこには子どもたちの想像力を自在に飛躍させる何かが、一度お話しの世界に引き込んでしまえば容易には離さない何かがあるように思えます。
 今回、このお話しを書くにあたって「古典」「モダン」「絶望」「期待」「印象」「映像」といったキーワードで示されるような技法を試してみました。まだ名前もなく、まとめてもいない技法なのでその詳細についてはここでは触れませんが、少なくともぼくはこの技法を通して「童話とはどうあるべきなのか」という最初の問いに対するぼくなりの解を表現できたのではないかと考えています。
 確かに、それは可能性の問題でしかないのかもしれません。ですがもし仮にこのお話しを最後まで通して読んでいただけたとするなら、そこには、ぼくが今回試みた技法がどう機能したかと考えるだけの材料がもたらされることになります。今のぼくにはそれで十分であり、また、十分すぎる贈りものでもあります。拙い文章に付きあっていただたことを、ひとえに感謝もうしあげます。
 最後にこのお話しを書くことになったいきさつを述べて終わることにしましょう。このお話しはちょうど十月、ふたたび物語を書いてみようと思いはじめた頃に通いはじめたメイド喫茶、『声優のたまご』で知りあった、ある女の子に贈る誕生日プレゼントとして書かれたものです。ぼくはその子の声がとても好きで、あるとき、お気に入りの本のさわりだけ、ほんの少し朗読してもらったことがあります。このお話しは、そのとき受けた印象がもとになって生まれました。そしてぼくはただ彼女の声をイメージしながらその世界を見つめ、言葉を紡いでいったのです。
 そう、まさに、きみのその声が、ぼくにとっての創造の源であり、創造の泉であったわけです。
 二〇一〇年十二月 秋葉原某所にて


 
 
あかと声優のたまごで

 


なお表紙は、秋葉原にある戦国メイドカフェ&バー『もののぷ』に当時勤めていたつばさに描いてもらっています。

『灰色の虹』は限定5部の完全非売品です。個人的に誕生日プレゼントとして捧げたものでもありますので、原則1年間は公開しないつもりでいます。ただ、もう既に15名近くの方に直接読んでいただいてます。お会いして、あるいはお貸しして読んでいただくぶんには問題はないと考えていますので、お気軽にご相談ください。

読んでいただいた方々には感謝、感謝です。





 
 
『灰色の虹』のWeb公開版を作りました。

閲覧のみに制限されたPDF文書で、ファイルサイズは920KBほどあります。また公開期間を一定の期間に限定させていただいています。ただし設定した期間内であっても公開を中止する場合がありますのでご了承ください。

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『灰色の虹』 Web版
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