銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・③ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 ⑨(終)

 

 打ち棄てられたアミューズメント惑星『ギガワンダープラネット』…の廃墟探索を開始した、
シルバーアロー号の仲間たち。“プレイゾーン”と“ショッピングゾーン”の2つに分かれた
施設群のうち、ビリーとエドの2人は“プレイゾーン”を担当することになった。

 しかし彼らの本来の目的は食糧調達であり、二者択一で残った方を選んだだけの場所に最初
から収穫を期待していたわけでもなく、当然のように釣果は散々だった。

 ある程度の規模の遊興施設やイベントには必ずあるような、軽食販売の露店が見当たらない
のは人っ子一人いない廃墟だから当然として、辛うじて残された自販機はどれもこれも中身が
空っぽか、あったとしても電気が通っていない常温放置で、かつての“清涼”飲料水は完全に
腐り切った劇物・毒物と化していた。
 フタを開ける度に中から吹き出す饐(す)えた匂いに、最初のうちはそれこそ顔をしかめて
いた2人も、途中からはクサいクサい言いながらなんだか妙なテンションで盛り上がっていた。
味の期待も出来ないような明らかな危険物には、オモチャにする以外の使い道は無いのだ。

 とはいえ、いつまでも遊び惚けているわけにはいかない。余裕かましているように見えても
一応は死活問題なので、諦めたらそこで試合どころか人生が終了してしまう。アテも無ければ
何の実りも無い漂流生活ではあるが、それでもまだもうちょっとだけ旅を続けていきたいので、
2人は方針の変更を余儀無くされた。

 さらに一時間後―。

「とりあえずはこんなもんだな」
 その辺に倒れていた電灯の雨よけを皿代わりに、山と盛られた草と虫。その辺に生えていた
のを引っこ抜いたり、岩の下なんかに隠れていたのを片っ端からかき集め、これまたその辺に
残っていたテーブルにデン!と置かれたそれを、その辺から持ってきたボロ椅子にちょこんと
腰掛けた愛くるしい男の子が一本ずつ一匹ずつ慎重に口へ運び、まるで何かを確かめるように
ゆっくりと、口の中で大きく動かしながら味わった。
「どうだ、エド」
「…この幅広の葉っぱは大丈夫だよ。こっちのまっすぐで固いのは、毒があるからやめた方が
いいかも。虫は…どうかな?お腹の部分が苦いのが気になるのもあるけど、全体的に食べられ
なくはないと思う」
「オッケー船長。要はこのまっすぐで固いのがダメってわけだな」
 愛くるしい男の子…エドワード船長の指示を受け、真向いに座っていた目つきの悪い男は、
山盛りの草と虫の中から他の空いた皿へテキパキと選り分けていった。

 宇宙船シルバーアロー号船長エドワード・ランディーは、不死身究極生物である。やってる
こと自体は地味な毒見役ではあるが、食物連鎖どころか死をも超越したその能力があればこそ、
仲間たちは安全な食事が可能というわけだ。

「この根っこの長いのはどうだ?洗えてないからジャリジャリしてるが、何となくゴボウとか
そういうのに似てる気がするんだがな」
「それも大丈夫だったよ、味は分からないけど」
「その辺で拾った雑草に味なんか期待出来るかよ。あとはコッチの調理次第だ、そうだろ?」
「どうやって食べるの?」
「柔らかいのは煮びたしで、あとは…油で揚げるのが一番無難だろうな」
 道草を食べることで有名な俳優の岡本信人が、その辺の道端で見つけた野草をマヨネーズか
天ぷらで食べるのは、おおよそ野草というものが、熱と油で誤魔化さないとエグみが酷過ぎて、
とてもじゃあないがまともに食べられた代物ではないからだ。“素材の味”とやらを楽しめる
のは、偏(ひとえ)に農家と、農業試験場の皆さんによる、長年の品種改良と努力の賜物だと
いうことを、我々は決して忘れてはならない。
「いきなり何なんだよ」
「何の話か知らないけど、アルルさん食べてくれるかな?」
「あー…二度と起きてこないだろうな」
「……………」
「…………………」
「…なんでいつも寝てばっかりなんだろうね」
「超能力者は色々あるんじゃないのか?その辺の生態の謎は次回に取っておこうぜ。なんでも
かんでもその場で全部説明しようとするから、SF小説はテンポが悪くなるんだ」
「レッドドワーフ号も小説版はテンポが悪くなってたよね」
「だからいい加減、俺たちも本題に戻ってロボたちと合流するぞ。あとは向こうの収穫次第だ」

「!ちょっと待って!」

「…トイレか?」
「ちがうよ、最後に調べておきたい場所があるんだよ」
 席を立とうとするビリーを呼び止めたその手でエドワード船長が指差した先は、細い通路に
なっていたがすぐ手前で折れ曲がり、その奥が見えないようになっていた。
「関係者以外立ち入り禁止のスタッフエリアだな…地階になってるンだろうが何かあるか?」
「あると思うよ。ほっとけば植物ってどこにでも生えてくるから」
「まぁ、地下だから水は溜まってるかもな。あとは…コケとキノコか?」
 この時点では合流までにまだ若干の余裕があり、予想通りの収穫が見込めれば食材の種類も

増えて多少はマシな食卓になるだろう…そう考えたビリーは、船長の提案に乗ることにした。

 地下へと入り、真っ暗な連絡通路を道なりに、出口らしき光を頼りに進んでしばらくすると、
頭上から差し込む眩しい光と共に開けた場所へ出た。天井に穴でも開いているのかと思いきや、
よく見れば天井は所々白っぽく見える“何か”に覆われ、荒涼とした地表の大地にジリジリと
照りつける灼熱の太陽を、優しく包み込むような柔らかい光に変えていた。
「…ビリー…」
「…大当たりだな」
 地下に溜まった水は心地の良い清流の音を奏で、気温が安定した快適な空間の中で育まれた
豊かな植生と実りが“食べられそう”なものでないことは、すぐに分かった。ゴキ天を喰らう
ほどに困窮していた2人は目の前の光景に大いに沸き立ち、その恵みを思う存分貪った。
 おあつらえ向きのように立てかけてあった手押し車に載せられるだけ載せ、更なる収穫を求
めた2人は、その先に続く大きな洞穴へと歩(ほ)を進めていった。洞穴の壁には大きな丸い
塊に見えるものが点々と、薄ボンヤリとした光を放ちながらまるで誘導灯のように続いており、
ビリーとエドの2人はそれをヒカリゴケの仲間か、あるいはツチボタルの幼虫のようなものが
寄り集まっているのだと思っていた。

 ようやくまともな食事にありつけそうな予感に浮かれていた2人は気付いていなかった。
 その洞穴は、自然に空いたものにしてはあまりにも大きく、整い過ぎていたこと。
 彼らが拾った手押し車は、大の大人が両腕を目一杯に広げてようやく持ち手に手が届くほど
巨大なものであったことを。

〈続く〉

 

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↓岡本信人

 

↓あまりテンポが良くなかった

↓諦めたらそこで試合終了