銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・② | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 ⑨(終)

 

「……なんで目ェ覚ましちゃったんだろう…」
 宇宙船シルバーアロー号の仲間たちは、食糧不足をこじらせた挙げ句、とうとうゴキブリを
食らうまでになっていた。ゴキブリゴキブリ言いながら平然とそれを貪(むさぼ)り食う仲間
たちの惨状に、アルルは頭を抱えずにはいられなかった。

「それは物語的ご都合と言えなくもありませんが、このタイミングで目を覚ましたのはむしろ
幸運だったかもしれませんよ?毎日毎日寝てばっかりで極端に代謝が落ち込んでいるとはいえ、
いい加減お腹も空いてるでしょう?皆さんにいいニュースがあるんです」
「調達のアテが見つかったのか?」
「はい。既に進路をとってありますから、あと2,3時間のうちに到着するでしょう」
「どんなところなの?」
「無人の惑星を丸ごと改造したアミューズメントパークです」
「ラスベガスのデカい版みたいなもんか?メシ屋ぐらいは普通にありそうか」
「食材の調達までは無理かもしれませんが、当座をしのぐ程度ならなんとかなるはずです」
「もうネズミの丸焼きとか食べなくて済むんだね」
「クイ(テンジクネズミ)は立派な食用だぞ」
「ウジ虫がついてこんがり焼けたところなんかも、意外に悪くなかったよね」
「…なんで目ェ覚ましちゃったんだろう」
 もちろんこんなことは不死身究極生物であるエドワード船長の助力があればこそ可能な芸当
であり、最悪の場合命を落とす危険があるので、賢明な読者諸氏の皆様にはくれぐれもマネを
しないようお願いしたいところである。

「ところでさっきから全然出てこないけど、ナビコさんはどうしたの?」
「出かけてるんだってさ。そうだよね、ロボ?」
「はい。ナビコさんにはデジタル世界の救い手(セイバー)としての大事な使命があるんです。
我々のトンチキなバカ話に拘(かかずら)ってるヒマなんかありませんよ」
「セイバーなんて言ってると途中で仲間割れ起こすぞ、縁起でもない」
自分を変えろとか言ってくるお前が自分を変えろって話ですよね、まったく」
 そんな具合で仲間割れ展開とエンディングの歌詞と、ついでに攻殻機動隊の女サイボーグの
発言に軽く文句を入れつつ、腹ぺこの面々を載せた船はアミューズメント惑星『ギガワンダー
プラネット』へと舵を切った。

 しかし「当て事と越中褌(ふんどし)は向こうから外れる」と言われるように、こちら側の
一方的な期待というものは、往々にして向こうの側から一方的に裏切られるのが世の常であり、
辿り着いた先で彼らを待っていたのは、巨大な廃墟の山であった。

 鉄骨の骨組みが丸出しで建設途中のまま放置された施設群、取れかけたアーチの看板文字は、
乾いた風に揺られながらキイキイとすすり泣くような音を立て、4人を出迎えた。人っ子一人
見当たらない、荒涼とした大地の真ん中に佇む“夢の跡”は、容赦の無い現実に飲み込まれ、
今にも崩れ落ちそうなほどにボロボロだった。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…つぶれてんじゃねぇか」
「計画が途中で頓挫(とんざ)したんですよ。どれもこれも作りかけじゃないですか」
「この際どっちも同じだろうが、どこでこのネタ拾ってきたんだよ」
 ビリーの問いに、ロボは無言で右腕を真上に向けた。

「どうやら広告用の発信衛星だけが生き残っていたようです。三ヶ月前にオープンしてるはず
だったんですが…すっかりアテが外れてしまいましたね」
「できもしねーうちから宣伝だけバンバン打ってたってのか?見切り発車にもほどがあるだろ」
「やっぱりパンデミックにやられたのかな?」
「外食、娯楽、観光…アウトドア産業はパンデミックの影響をもろに受けますからね。そこに
加えて国民のために金を使いたくない政府機関の無策無能が加わればひとたまりもありません。
検査に隔離に休業補償、それと並行しての治療法の研究と開発…採るべき対策は決まり切って
いるというのに、どれもこれも中途半端なまま結局8年も下痢便を垂れ流し続けた後に今度は
毒ガースーをバラ撒いたわけですからね」
「カレー味のうんことうんこ味のカレーの中からうんこ味のうんこを選び続けた自業自得だな。
ここは日本だったのか?」
「どうでしょう?これはあくまで一般論としての話ですからね。8年も下痢便垂れ流した後に
毒ガースーをばら撒いて、カレー味のうんことうんこ味のカレーの中からうんこ味のうんこを
選び続けたら誰であろうと無事でなんかいられませんよ」
「なんかそういう話になるとすごい活き活きしてるよね、ロボ」
「そうでしょうか?まぁそういう人間のバカさ加減を見ていると改めて自分が人間以外である
ことのメリットを再確認出来るわけですが、言われてみれば確かにコレは人間的な表現で言う
ところの“楽しい”という感情に相当するものなのかもしれませんね」
「そんなことはいいからどうすんのよこれから。このまま帰るの?」
「…ここを調べるしかないだろう?」
「…やっぱりそうなるのね。なんで目ェ覚ましちゃったんだろう…」

 廃墟の中から何か食べられそうなものが見つかるとは思えなかったが、どうせこのまま船に
戻ったところで腹ペコの食糧不足が直ちに解消されるわけでもない。この状況で彼らに選択の
余地は残されていなかった。
「では二手に分かれて調べましょう。2時間くらいしたらまたここに集まって下さい」
 ビリーとエド、ロボとアルル、グループ分けはすぐに決まり、彼らは早速調査に乗り出した。

 古今東西ありとあらゆる“建物”は目的のために建てられるのであって、その目的に対する
最適解を考えていけば、それ自体の構造と構成に大きな違いは無いことが分かるだろう。一千
億円以上もの血税を注ぎ込んで競技場を便器のフタみたいに飾り立てるのは機能的に考えても
無意味なのはもちろん、そんなものはデザイナーの“やってる感”の演出と、自己満足の代物

でしかないのだ。もちろんコレも一般論としての話である。
 その理屈はまさしく“無駄”な“消費”のための複合型アミューズメントパークであっても
例外ではなく、要するに大まかな造りは結局どこも似たり寄ったりというわけだ。

 ここ『ギガワンダープラネット』…の廃墟もご多分に漏れず、主に買い物のための“ショッ
ピングゾーン”と遊ぶための“プレイゾーン”に分かれており、ビリーとエドの2人が後者の
探索を担当したのは単なる二者択一の消去法で、残った方を選んだだけの話だった。

 そして当然の結果と言うべきか、探索の釣果は散々だった。

〈続き〉

 

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