銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・⑥ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑦、 ⑧、 ⑨(終)

 

 かつてこの星に不時着した、1人の男がいた。
 壊れた宇宙船と共に立ち往生する男の前に“彼ら”が現れた。

 明らかに人間ではない巨体と異形は、何かの果実を男の前に置くと、その場を立ち去った。
男が恐る恐る果実を口に運ぶと、驚くほど美味だった。果実に穀物、野菜…持ち込まれる量と
種類は、日を追う毎に増えていった。

 乾いた風が吹きつける荒野の星は、砂漠のように一日の寒暖差が激しく、宿代わりの壊れた
宇宙船だけではいい加減、過酷な環境がしのぎ切れなくなってきた頃、いつものように現れた
“彼ら”は、普段とは違う方向へ歩き出した。ついていった先には洞穴があり、まさにおあつ
らえ向きといった佇まいであった。おまけに壊れた宇宙船からの荷運びまで手伝ってくれた。

 男を餌にするわけでもなく、まるでこちら側の窮状を見透かしているようにも見える至れり
尽くせりの対応には一体どんな思惑が、いや、いかなる本能に貫かれているのか?とりあえず
荷運びの過程でこちら側からの身振り手振りや、単語による指示が伝わることは確認出来た。

 “彼ら”には知性があった。しかし向こうからは何を呼び掛けても、金属をこすり合わせる
ような不快な鳴き声か返ってくるばかり。しかも昆虫の貌(かお)からでは感情の読み取りも
難しく、相変わらず何を考えているのかよく分からない状態が続いた。

 それでも“彼ら”の存在は、男にとって大きな助けとなった。“彼ら”は男の指示をとても
よく聞いてくれた。宇宙船の修理はとてもよく捗(はかど)った。貌や鳴き声からの読み取り
が困難であることに変わりは無かったが、身振り手振りを含む細かな所作を注意深く観察して
いくうちに、なんとなくではあるが“向こうからの伝えたいこと”が分かるようになっていた。

 それは人間の側の勝手な思い込みなのかもしれないが、無機質な外骨格の深いところには、
自分たちのそれと何ら変わりの無いものが、もしかしたらあるのかもしれない…“彼ら”への
愛着が、男の中で確実に芽生え始めていた。宇宙船の修理が完了し、星を脱出して元の生活に
戻ってからも、その思いが消えることは無かった。

 

 

 それからさらに時が経ち、何処かで誰かが戦争を始めた。
 やがてそれは、多くの星々を巻き込む大きな戦争へと発展した。

 戦禍は際限無く拡大し、強力な兵器が次々投入される中に“惑星破壊兵器”なる、いかにも
物騒な名前と存在が噂されるようになってまもなく、その実在と共にとある“無人の惑星”を
標的とした、公開実験の情報が明らかとなった。

 抑止力のための最終兵器…白々しい大義名分のもと繰り返される人類(ヒューマノイド)の
エゴは、無関係であるはずの“彼ら”を巻き込み、踏みにじろうとしていた。見過ごすことは
出来なかった。男はアミューズメントパークの建設計画を立ち上げた。

 男の名は、ジャック・ヒューマン。いわゆる興行師(プロモーター)であった。

 

 

 土地開発を阻止するために周囲の山を6つも買った漫画家のように、所有権や財産権を主張
することで“彼ら”を…マソサラス(恩人)たちを守ろうとした。私財をつぎ込み、方々から
金をかき集め、合法・非合法問わずにありとあらゆる手段を尽くし、パーク建設は急ピッチで
進められていった。さらに資金調達の過程で背負うことになった借金は、債権者たちとの間で
利害による一蓮托生の関係を築き上げ、障壁をさらに強化した。

 “正しい”ことを“正しく”行うのは、とかく時間と手間がかかるもの…無辜の生命を犠牲
にすることの非道を訴え、正論で動かしている暇は無かった。しかしそれは“事業計画を練り
上げている暇も無かった”ということに他ならない。

 既成事実としてごり押しすることに頭がいっぱいで、やっていることは見切り発車の自転車
操業。金が入れば広告を打ち、ハコものを建てまくり、青写真は野放図に拡大の一途をたどる
一方で、具体的な催し(イベント)や人材の手配などは後回しにされたまま、計画の中身には、
アミューズメントパークとしての実態が何ひとつ伴っていなかった。

 やがてなし崩し的に戦争は終結し、兵器実験の話も立ち消えとなったが、アミューズメント
パークの建設計画も当然のように道連れとなり、廃墟と借金の山だけが残された。


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「…なるほど。やはり地上で見た首吊りのミイラはあなただったんですね」
「他に誰も来ていなければ、そうなりますね」
「そして今のあなたは生前の人格を写し取ったコピーボットである、と」

 ロボの目の前には、もう一体のロボットがいた。昆虫型巨大生物・マソサラス(仮)たちの
巣の最深部で、壁一面に迫るマソサラス(女王)の巨大な顔面に寄り添う場違いな金属の塊は、
しかし相対するもう一方の、まるでブリキの玩具か2,30年代のパルプマガジンの表紙から
抜け出してきたような古臭いデザインのそれとは違い、頭身も身体のパーツも組み合わされた
シルエットデザインも、明らかに人型の…いや人間のものだと分かるような構成だった。

「責任者として詰め腹を切らされたのか、あるいは燃え尽き症候群をひどい形でこじらせたの
かは分かりませんが、ロボットなのに名前が“ヒューマン”とは洒落が効いてますね」
「まぁ結果的には、ですね。でもおかげで彼らと深くつながれたような気がしているんです。
そう悪いことばかりでもないんですよ。…本来の目的とは違うんですけどね」
「やはりまだ心残りが…心配事があるんですね?人間が簡単に戦争をやめられるほどの知性と
習性を獲得しているとは考えにくいですが、まさかまだ狙われているんですか?」
「いずれはそうなるかもしれません。…ここはまだ“無人の惑星”なんです」
「…やはりまだ悲しいマラソンは終わっていなかったんですね」
「その前になんとか手を打っておきたいと思って…なのにどうすればいいのか分からなくて…
生きてた頃はどんなことでも直感でバンバン閃いてたのに、もう何も思いつかないんです」
「それはもうあなたが人間をやめてしまったからですよ、人間的な直感なんてものは我々には
使えません。ロボットにはロボットなりの考え方があるんです」
「?どうすればいいか分かるんですか?」
「まぁ一種のロジカルシンキングと言いますか…もっと筋道立てて考えていきませんと」

「教えてくれませんか!!」

「…………」
 1メートル以上の距離から一瞬で詰め寄られ、ロボは軽くのけぞった。
「教えてください!!一体どういうプログラムなんですか!?」
「プログラムと言えるほど決まりきったものではありませんよ。ついでに言えばインストール
すればすぐに使えるとかそういうのでもないです。とりあえず私の演算処理をリアルタイムで
見えるようにしておきますから、それを見ながら学習してください」
「はい!お願いします!!」

 

 

 コピーボットの元人間からの身の上話を聞き、ロボが思いがけず弟子入りをせがまれていた
その頃、ビリーたち3人は、別の部屋で用意された食事を大いに楽しんでいた。

「…なんかこのかきたま汁、光ってるんだけど…?」
「そりゃ光ってるだろ。壁に埋まった誘導灯みたいのがあるだろ?正体はソイツだ。なんでも
クイーンが産んだ卵の一部を食用にしてるんだとさ」
「…それって大丈夫なの?」
「成分的には大丈夫だよ、体に悪いものは入ってないから」
「そうじゃなくて、倫理的な問題っていうか、共食いとかそういうのになるんじゃないの?」
「向こうが出してくれてンだからたぶん大丈夫だろ?共食いだとかその辺は俺たちが心配する
ことじゃあない。向こうは向こうの“ものさし”で動いてンだからな」
「アルルさんお腹すいてないの?いらないなら僕が食べちゃうけど」
「食べるわよ。もういい加減に腹くくるしかないか…」

「………………」
 別段変な匂いがするわけでなく、小さなスープ皿の中から微かな湯気と共に立ち上るそれは
むしろ『美味しそう』まである。だが匂いはともかく、サイリウムの中身をぶちまけたような
蛍光色の光を放つ見た目に、アルルはどうしても二の足を踏んでしまっていた。
「……………!」
 スプーンで掬い取った光る液体を神妙な面持ちで見つめていた超能力少女はやがて意を決し、
目をつぶりながらスプーンの先を口に入れ、頭を前後に揺するようにして流し込んだ。
「……おいしい」
「だろう?目ェ覚ましてよかったな」
「こっちのジュースもおいしいよ。すっごく甘いんだけど、のどが焼けるみたいな感じは全然
なくって、すっごく飲みやすいの!」
「…それって何かの分泌液だったりする?」
「よく分かったな、正確にはその水割りだけどな」
「……マジ?」
「あぁ大マジだ。アブラムシが蜜を出してアリを買収するのは知ってるか?そのデカい版だ」
「そんなんばっかなのね……あぁでもおいしいわ」
「まさに“ビートルジュース”だな」

 厳密に言えば100%が本来の意味での“ジュース”で、水で割ったものは“ドリンク”の
扱いとなる。実ごと皮ごとすりつぶせば“スムージー”というわけだ。
 材料の入手経路や調理過程…しっかりと作り込まれた“料理”の中にはどうしても拭えない
怪し気な違和感が紛れていたが、それでも一度慣れてしまえばどうということはなく、むしろ
ビリーたちは目の前に広がる未知なる美味の世界に、確実に魅了され始めていた。

〈続く〉

 

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