銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・④ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 ⑨(終)

 

 打ち棄てられたアミューズメント惑星『ギガワンダープラネット』の廃墟にて、ダメもとで
始まった食糧調達は、一番アテになりそうも無かった“プレイゾーン”の探索で思わぬ収穫を
得ることとなった。地下へと続くスタッフエリアを進んだ先で見つけた“食べられそう”では
ないものに、ビリーとエドの2人は大いに沸き立ち、更なる収穫を求めてその先に続く大きな
洞穴へと歩を進めていった。

 ゴキブリの天ぷらを喰らうほどに困窮していた2人は、この状況に完全に舞い上がっていた。
そしてこのときの2人は、明らかに冷静な判断が出来なくなっていた。
「…まずいな…」
「何がまずいの、ビリー?」
「この状況がだよ」
「…次の話をアップするのに2ヶ月以上もかかったこと?」
「こんなバカ話の続きなんか誰も気にしてねーから安心しろ」
「じゃあ何がまずいの?」
「こんなトコまで来ちまったことだよ。すぐ引き返すぞ」

 洞穴の壁には大きな丸い塊に見えるものが点々と、薄ボンヤリとした光を放ちながらまるで
誘導灯のように続いていた。これが真っ暗闇であれば、恐怖と警戒心から多少は用心深く振る
舞っていたかもしれないが、この場合は逆に「見えている」ことが仇となった。自然に空いた
ものにしてはあまりに大きく、整い過ぎていた洞穴…その手前でおあつらえ向きに立てかけて
あった手押し車は、大の大人が両腕を目一杯広げてようやく持ち手に手が届くほど巨大なもの
であったこと…それらの事実に気が付いたとき、2人はすでに洞穴のかなり奥深くへと、足を
踏み入れてしまっていたのだ。

「途中にも色々あったからね」
「キノコ農園とかな。調子ブッこいて集めてるうちに深入りし過ぎた…クソ!なんでここまで
気付かなかったんだ、ここはどう考えても自然に出来上がったような場所じゃねぇ」
「それってさ、ビリー…ここに“誰か”いるってこと?」
「“誰か”っつーより…“何か”だろうな」
「…マサソラスかな」
「誰だよ」

マサソラス

 

 来た道を引き返す道すがら、横目にすれ違う誘導灯のような光を改めて見てみれば、それは
小さな虫やコケの類が寄り集まっているのではなく、ひとつの大きな塊が土壁に埋め込まれて
いるものだった。さらに目を凝らして見れば、薄ボンヤリとした光は塊の中心でモゾモゾと蠢
(うごめ)きながら、脈打つように明滅を繰り返していた。
 塊の正体が“誰”であれ“何”であれ完全に嫌な予感しかしないこの状況からは一刻も早く
逃げ出さなければならないところだが、ただでさえ不安定な一輪の手押し車を、しかも集めて
きた野菜やら果物やらキノコやら何やらで前が見えなくなるほど積み上がった状態では、どれ
だけ急いでも子供の早歩きに追い付くことさえままならず、しかも道々こぼれ落ちた積み荷を
惜しんだエドワード船長がいちいち引き留めるものだから、帰還は遅々として進まなかった。

 そんな具合に欲をかいた2人が『恐怖の洞窟』にて墓穴を掘り進んでいた頃、超能力少女と
ポンコツロボットのショッピングゾーン探索の方は一体どうなっていたかといえば、首吊りの
ミイラにお出迎えされたこと以外は大したイベントも何も無く、食糧調達を目的とした今回の
探索での最も成果を期待されていたはずが、賞味期限切れの缶詰すら見つけられなかった。

「やはり世界の終末みたいな廃墟に期待するのが間違いでしたね」
「っていうかさぁ、なんで首吊りのミイラのことをサラッと流してるわけ?」
「身元が分からないんだから話の広げようが無いじゃないですか。エントランスアーチの天辺
(てっぺん)にぶら下がってるだけで、アルルさんめがけて落ちて来たとか、息を吹き返して
襲い掛かって来たとかそんなコトは何も無かったんですからね。自分たちの行く末を暗示して
いるような気がして不安だとかそういうのでしたら、予知してみればいいじゃないですか」
「眠くなるからやりたくないの。予知しても寝落ちしちゃったらどのみち変わんないじゃん」
「そこで“出来ない”と言わないのはさすがですね。それならそれで後はもうなるようにしか
ならないじゃないですか。少なくともアルルさんたちをあんな首吊りのミイラになんかさせま
せんよ、絶対にね」
「頼もしいこと言ってくれるじゃない。信じていいの?」
「はい。たとえあなたが死んでもこんな寂しい場所に置き去りにしたりなんかしませんよ」
「……まあいいわ。それでこれからどうする?エドくんたちの方はどうなってるかな…」
「言われてみればそろそろ合流する時間ですね、おそらく今頃はそこら辺の草とか虫とか色々
集めてるんじゃないですか?」
「……やっぱりそうなるのね。なんで目ェ覚ましちゃったんだろう……」
 アルルは大きくため息を吐いた。悪夢はまだ終わっていないようだ。

「というわけでこれから船長たちと合流しますので、瞬間移動(テレポート)お願いします」
「…あのさぁ…」
「?なんですか?」
「超能力を気軽に頼んでくるのもそうだけどさぁ、“というわけ”ってどういうわけなのよ。
普通に歩いて行くとかどうしてそういう発想にならないの?」
「それでしたら理由は3つあります。まず1つ目は船長たちが合流地点にいないことです」
「向かってる途中とかじゃないの?っていうかなんで分かるの?」
「衛星軌道上で待機中の母船から居場所は常に捕捉しています。ですが合流地点はおろかその
付近数キロ圏内まで範囲を広げてみましたが、影も形も見当たらないんです」
「地下にいるとかじゃない?それとも屋内?」
「地下です。400メートルくらいのところにいますかね。場所はちょうど我々の真下です」
「…なんでそんなトコにいるのよ」
「分かる人には分かりますが、我々の場合は行ってみないと分かりません。それにさっきから
目を覚ましたことを後悔しているようでしたので、お望み通りに寝かしてあげようかと」
「…それでテレポートしてほしいってわけね。最後の3つ目の理由は?」
「各話で一発くらいカマしておかないと死に設定になるじゃないですか」
「…アンタはそういう発想と行動原理で動いてるわけね」
「眠っている間のことは私がシッカリと記憶しておきますから大丈夫ですよ。その辺はホラ、
これでも一応ロボットですからね。任せて下さい」
「録画予約か。まったくやれやれだわ…」

 寝てばっかりの自分の面倒を看てくれるのはありがたいが、ネタキャラみたいな扱いは時々
うんざりしてくる…その一方で、こんなトンチキな連中の中にしか自分の居場所は無いのかも
しれないと思うとなんとも言えない気持ちになって、それこそネタキャラみたいな言葉がつい
つい漏れてしまうのであった。

〈続く〉

 

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