銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・⑧ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑨(終)

 

「この星を立て直す」

 荒野の星に暮らす原住民たちを呑み込まんとする人類(ヒューマノイド)のエゴと、そこに
潜む脅威を取り払うべく、ロボは地上の廃墟(アミューズメントパーク)の再建を提案した。
その計画には、マソサラス(原住民)たちに現場で働いてもらうことまで盛り込まれていた。

「…パークの再建と知名度の獲得…連中を有名にしたうえで改めて生存権を主張するってのは
分かった。実際上手くいくかどうかはこれからのやり方次第だ」
「分かってくれましたか」

「アイツらに手伝ってもらうってのも、俺らだけじゃあどう考えても人手が足りないからな。
協力してくれるかどうかまでは知らんがまだいいだろう」
「そうですね。彼らの意志は尊重したいと考えています」

「それに経営や体制ってモンが属人的なのは長続きしねえ、その時その時で音頭を取るヤツが
いればいいだけの話だ。俺らがいてもいなくてもやってけるぐらいになればひと安心だな」
「はい。ですからその方向で進めていきましょう」

「アイツらにどうやって接客させるつもりだ?」

(ギチギチ…ギチギチ…)

 全身が武器のように尖った刺々しい外見の、体高2メートルはあろうかという昆虫型の巨大
生物たちが、金属をこすり合わせるような不快な音を響かせながら、赤く光る4対の複眼で、
ビリーとロボのやり取りを眺めていた。マソサラス(聴衆)たちは、明らかに不安そうだった。

「そりゃまぁ色々と問題はあるかもしれませんがね、別にコナンとかワンピースを完結させろ
なんて言われてるわけじゃないんですから、決して解決不可能というわけではありませんよ。
尾田AIち郎って、今バージョンいくつでしたっけ?儲かってるうちは作者が死んでもサザエ
さん時空に入って終わるに終われない、サイドストーリーばっかりやって本筋が手に負えなく
なっていくのを何度見てきたことか。エヴァンゲリオンだって“完結”とか“さよなら”とか
さんざん煽っておきながら、結局10年おきくらいにやってるじゃないですか」
「めんどくせー信者どもが一層タチの悪い老害ゾンビになってくのは見るに堪えなかったな」



 

 一応これは未来が舞台のSFコメディであり、想像の“if”を描くのがSF(空想科学)
としての一応の矜持であるということは、一応ことわっておくことにしよう。

「それでアイツらの問題は結局どうするつもりだ?」
「言葉に関しては、とりあえずこちら側の言うことは伝わるわけですからね。単純にしゃべれ
ないだけですので、そこを考えていけばいいわけです。あとは見た目の問題ですが…」
「僕が整形するの?」
「それには及びません。船長の手にかかればTBCのエステCMも真っ青の別人28号に作り
直すのは簡単ですが、この素晴らしい個性を潰してしまうようなやり方はいかにも品が無い」
「…いまどき誰が理解出来ンだよそのネタ」

 

 

「これまで人間と関係の無いところで生きてきたんです。その在り方を人間流のルッキズムや
美的感覚だけで一方的に捻じ曲げてしまうのは、道義的に考えても決して誉められたことでは
ありませんよ」
「?じゃあどうするの?」
「要するに怖くなくなればいいんです、他にやりようはありますよ。というわけで一旦地上に
出ましょう。というか船に戻って色々持ってくることにしましょう」
「………?」

 というわけで地下400メートル地点から舞台変わってここは地表近くの大空洞。壁に埋め
込まれたマソサラス(蛍光卵)に代わり、今度は天井に空いた大穴から差し込む光が、彼らを
照らしていた。

 天井を覆い、荒野に照りつける灼熱の太陽を和らげていた白っぽい“何か”をよく見れば、
そこではひと際小さなマソサラス(羽付き)たちが逆さで貼り付き、前脚の片方でマソサラス
(幼虫)を抱えながら、もう片方の脚で幼虫の口から引き出したものを塗りつけていた。

「日よけの天然不織布ってところか…最初はスルーしちまったがこれで3回目でやったネタを
ようやく回収出来たな。それはそれとしてコイツは何だ」
「何って、ついさっきの話じゃないですか。これでもう怖くないでしょう?」
「怖くないけどコイツは何だ」
「え~左から順にアフロのカツラ、ウエディングドレス、郵便配達、パジャマ、虫取り少年と
コミケ帰りにテレビのマネです」
「顔の前でワク持ってるだけじゃねぇか!なんなんだテレビのマネって」

(ギチギチ…ギチギチ…)

 横一列に並べられた様々な扮装のマソサラス(モデル)たちは、とても不安そうだった。

「こんなのどっから持ってきたのよ」
「船の貨物室にしまってあった宴会用の小道具を引っ張り出してきました。異質なもの同士を
組み合わせた異次元空間によって正常な感覚をマヒさせる…不条理系ギャグの手法です」
「カオスだけで笑いが取れるかよ、常識とせめぎ合うからこそ笑いが生まれるんだぞ。漫才が
ツッコミ無しでボケ倒すだけで何が面白い?」
「別に笑いを取りたいわけじゃありませんよ。あくまで恐怖感を取り除くのが目的ですからね、
これはあくまで叩き台に過ぎません。最終的にはパークの従業員として制服(ユニホーム)を
着てもらう方向で考えています」

「…あの~…」

 前回からここまでずっとロボの背後に立ち、付き人のように彼らの様子を眺めていたコピー
ボットの男が、遠慮がちに声をかけてきた。
「ああ、いたんですね。見ながら学習してくださいとは言いましたが、どうです?ロボット流
のロジカルシンキングというものが、少しは掴めましたでしょうか?」

 

 

「いえ、その…聞きたいのはそこじゃなくてですね」
「?何か気になることでも?」
「どうしてそこまでして、彼らを計画に組み込もうとするんです?」
「エンターテイメントには“個性”が必要なんです。過酷な環境に適応したこの強烈な個性を
利用しない手はありません。それに彼らの知名度を上げるには、目立つ場所にいてもらうのが
一番手っ取り早い…本当は分かっているはずです」
「………………」

「おそらくあなたは、彼らを“守る”方向で考えていたから、遠ざけようとしたのかもしれま
せん。あなたのプロモーター(興行師)としての実績は分かりませんが、彼らを中心に据える
つもりでいれば、行き詰まることは無かったはずです…違いますか?」
「……そうかもしれない…」
「分かってくれましたか。ここまで来ればあと一息です!」
「…そうだよ、なんで今まで気付かなかったんだ。最高のネタが目の前にあったじゃないか!」

「ギチギチ!ギチギチギチ!!ギチギチギチギチ!!!」

 何やら興奮した様子でマソサラス(仮)たちの方に向き直ったコピーボットの口…いや全身
から、まるで金属をこすり合わせるような不快な音が大音量で鳴り響くと、それを合図にして
どこからともなく現れたマソサラス(大群)たちが、床から壁から天井までたちまちのうちに
視界を埋め尽くしていった。

〈続く〉

 

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