銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・⑨(終) | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 

 

 コピーボットの全身から発せられた、金属をこすり合わせるような不快な音が大音量で鳴り
響くと、それを合図にしてどこからともなく現れたマソサラス(大群)たちが、床から壁から
天井まで、たちまちのうちに視界を埋め尽くしていった。

「アイツしゃべれたのか!?」
「あれって言葉だったのかな!?」
「でも船長には分からなかったんでしょう!?」
「っていうかなにしゃべってるの!!?」

 モンスターパニック映画さながらの光景に今さらビクつくような連中ではなかったが、それ
でもコピーボットの全身から発する大音量と、マソサラス(大群)たちの共鳴が織り成すけた
たましい反響には、さすがに耳を塞がずにいられなかった。

 不快で耳障りな大音量と共に身振り手振りを交えた、何かを指示するようなコピーボットの
動きに合わせ、マソサラス(ユニット)たちは5~10以上のひと塊ずつで次から次へとその
場を後にした。やがて天井から少しずつ光が差し、地面と壁がまばらに見える程度にまで数が
減ると、けたたましい反響も次第に収まっていった。

「…やっとまともに話せますね」
「あれってやっぱり言葉だったのかな?」
「船長には分からなかったんでしょう?だったら違いますよ」
「言葉じゃなかったら何なのよ」
「あれは言葉というより“信号”に近いものと考えられます。何しろ人間とはまるっきり違う
生き物なわけですからね、人間の言葉を理解するのとは、別の器官を使うのかもしれません」
「だから分からなかったのかな」
「人間の脳ミソで処理出来るような情報ではなかったんですね。ついでに言えば人間の声帯で
あの音を出せたとしても通じないでしょう。ギチギチ鳴いているように聞こえるのはあくまで
人間に知覚出来る範囲内での、表面的な部分だけの話なんでしょうね」
「機械の体でようやく出せるようになったってわけか。連中と深くつながれた、とか言ってた
のはこのことだったんだな」
「今度やり方を聞いておきますか。まぁやる気を取り戻してくれたようでまずはめでたいです。
後のことは任せておけばもう大丈夫でしょう」
「そういや付き人みたいにお前の後ろにくっついて、何やってたんだ?」
「ロボット流のロジカルシンキングをですね、実地で学んでもらおうと考えまして」
「お前はテキトーな思い付きを人の3倍も4倍もしゃべくり倒してこじつけてるだけだろーが」

 だからこのポンコツロボットは、5人(?)の中でも異様にセリフの量が多くなるのである。

 

 

 そんなこんなでロボット流のロジカルシンキングに開眼したのか、それともただ単に目から
鱗が落ちただけなのかは不明だが、とにかくやる気を取り戻したコピーボットの指示のもと、
マソサラス(建築作業員)たちの見事な手際によって、地上の廃墟は工期わずか半月足らずで
外装や設備の修復を終え、さらにそこから増改築に1ヶ月かけて、アミューズメントパークの
再建工事は完了した。マソサラス(熟練工)たちの強靭なアゴで噛み砕いた素材の吐き戻しに
よって形成されたまだら模様の外観は、さながら巨大な虫の巣のようであった。

 そこからさらに3ヶ月、マソサラス(従業員)たちへの教育と研修期間を経て新たに生まれ
変わった『ギガワンダープラネット』改め『怪物(クリーチャーズ)プラネット』開業前日の
その日が、ビリーたちシルバーアロー号の面々と…マソサラスたちとの今生の別れとなった。
 サザエさん時空を生きる彼らにとって、旅の出会いは、まさに究極の一期一会なのだ。

「じゃあな。色々と世話になったな」
「みんなのことは忘れないよ!」
「元気でね…」
(ギチギチ…)

 ビリーたち3人が、それぞれ握手と抱擁を交わしながらマソサラスたちとの別れを惜しむ中、
ロボとコピーボットの男は少し離れた場所で、彼らから隠れるようにして向かい合っていた。

「色々と、ありがとうございます。あなた達がいなければどうなっていたか…」
「礼には及びませんよ。最善を尽くしてきたとはいえ、必ず成功するとは限りません。それに
まだ最後の仕上げが残っているんですからね」
「仕上げ…ですか?」
「帰りがけに我々の方でやっておきますので、くれぐれも他言無用でお願いしますよ」
「…何をやるんです?」
「我々がここへ来るきっかけとなった広告用の発信衛星があるんですがね…新しいものに交換
したら、古い方が余るでしょう?だから最後のお勤めを果たしてもらおうかと考えましてね」
「お勤め…?」
「大したことじゃありません。軌道プログラムをチョチョイといじくってですね、近くを通り
かかった宇宙船に特攻仕掛けてですね、ちょうどいい感じにエンジンを壊してもらうんですよ、
ちょうどいい感じでこの星に不時着するようにね」

「…え?」

「かつてこの星に不時着したあなたはマソサラスの皆さんに救われた。そしてその恩に報いる
ために命がけで彼らを守り抜いた。それをもう一度やるんですよ…我々の演出でね。あなたも
いっぱしのプロモーターなら“仕込み”の1つや2つくらい、やったことはあるでしょう?」
「…あなた恐ろしいヒトですね」
「ヒトじゃないからこんな風に考えられるんですよ。重ねて言いますがこのことはくれぐれも
他言無用でお願いしますね。秘密を知るのはごく少数、実行犯は雲隠れ、後はあなたが黙って
さえいれば秘密は永遠に守られます」

 

 

「裏でコソコソ汚い手を使うなら、これくらいやりませんとね」
 

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 ようこそ! 怪物(クリーチャーズ)プラネットへ!
 入場原則無料! 送迎無料! 宿泊は最大4泊まで無料!
 不思議な生き物『マソサラス』たちとの暮らしを、きみも体験してみよう!

 マソサラスたちの、まるで全身が武器のように鋭く尖った刺々しい外見の
 外骨格からは、非常に攻撃的で、恐ろしい印象を受けることでしょう。

 ですが自然界には“切り裂く”“突き刺す”といった、
 武器を使うような攻撃を主とした生き物は、実はほとんど存在しません。
 “突き刺す”ことはあるかもしれませんが、それは毒液を注入したり、
 血液や体液を吸い取るための準備行動です。

 “自分の身を守ること”“エサを獲ること”…自然界の生き物が、
 それ以外でむやみに誰かを攻撃することは、まずありません。
 “捕食”と読んで字のごとく、エサを獲るのに求められるのは、
 相手を捕まえるパワーとスピードであり、頑丈さではありません。

 彼らは毒を持っていません。彼らの武器のように鋭い頑丈な体は、
 他の生き物を攻撃するためのものではありません。
 過酷な環境で生きていくためのものです。

 彼らはとても頭が良く、基本的には性格も穏やかです。
 マソサラスの平和な暮らしを守るため、まずは彼らのことをよく知って
 もらおうと思い立ち、このアミューズメントパークを立ち上げました。

 ようこそ! 怪物(クリーチャーズ)プラネットへ!


                        ジャック・ヒューマン CB(CopyBot) Ver.18.6.1
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 『怪物(クリーチャーズ)プラネット』広告発信衛星からの受信文より、一部抜粋


 新たなスタートを切ったアミューズメント惑星『怪物(クリーチャーズ)プラネット』が、
果たしてどうなっていったのか?ここからは、ほんの少しだけの後日談といこう。

 結論から言えば、地道な活動とちょっとした裏工作が奏功し、マソサラスたちの存在と共に
そこそこの知名度と、そこそこの人気を得ることには成功した。

 しかし明るい光源には多くの虫が集まるように、それはかつての債権者たちをも呼び寄せる
結果となってしまった。彼らは債権者としてこの星に関する権利を主張し、利益の一部からの
配当を要求した。しかし非営利の施設であることが判明すると、今度はマソサラスたちの勤勉
さに目を付けた。

 コピーボットの反対を押し退け、マソサラスの派遣事業を立ち上げた債権者たち。
 そしてそれは莫大な利益をもたらした。

 あらゆる星の環境に適応し、人間の言葉を解し、道具を操る高度な知性を備え、人間以上の
頑丈さで人間の何倍も働き、人間と競合を起こすことの無い自給自足の地下生活を営む異形の
奴隷たちはこの上ない繁栄をもたらし、マソサラスたちもその需要に比例して、あらゆる星の
あらゆる地域で、その個体数を爆発的に増大させていった。

 だが人間にとってどれほど都合のいい存在であったとしても、その本質はあくまで人間とは
異なる“絶対的他者”であり、決して人間のために生きているわけではない。
 資本主義経済が求める“無限の成長”の幻想と白昼夢から逃れることの出来なかった人類は、
愚かにも自らの手で『山椒魚戦争』の戦端を切り開いてしまったのだ。

 その星域から人類が駆逐されるのも、そう遠い話ではなかった。このように“駆逐”とは、
敵を追い払ったり、押し合いへし合いの勢力争いによる勝敗結果などに用いられるのであって、
どこかの憎い敵(かたき)を滅ぼす決意表明の言葉なんかではないのである。

〈第4話 終わり〉

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