銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・⑦ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑧、 ⑨(終)

 

 野菜に果物、キノコ、そして光る卵に家畜(昆虫)の分泌液…マソサラス(原住民)たちが
丹精込めて育て上げた豊かな実りに、ほんの少し紛れ込む得体の知れない食材と、マソサラス
(料理人)たちが振る舞う未知なる美味の世界は、ビリーたちを魅了した。

「なんでこんなにおいしいんだろう…」
「味付けも、しっかりしてるよね」
「まさかここまで人間の味覚に合うモンが作れるとはな…どこで覚えたんだ?」
「やっぱり、コピーボットのジャックさんからじゃないかな?そうだよね?」
(ギチギチ…ギチギチギチ…)
「…やっぱり何言ってンだかサッパリだな。まぁしょーがねーか」

 雑談を交わす間も、ビリーたち3人の手が止まることはなかった。味付けはもちろんのこと、
材料の切り分けや料理の盛り付け、用意された食器類の形状に至るまで、大き過ぎたり多過ぎ
たり、あるいは“使い道が分からない”などといった人間の食事にとっての不都合や不自由に
つながるものは何も無いまさしく“ご馳走”の数々は、マソサラス(昆虫型巨大生物)たちの
きわめて高度な知性と技術を、雄弁に物語っていた。

 ダメもとで始めた食料調達は、ついに彼らに最高の収穫をもたらしたのだった。

「宴も酣(たけなわ)、といったところですかね」
「おうロボ、戻って…きたのか?」
 ほんの一瞬だが、ビリーは言葉を詰まらせた。ロボのすぐ後ろ…から少し離れた場所にいた
コピーボットのことはすでに知っていたが、自分たちが会ったときよりもいくらか縮こまった
ような印象を受けたのは、物理的な距離だけの理由とは思えなかった。『三歩下がって師の影
踏まず』…ほんの一瞬だが、そんな言葉がビリーの頭をよぎった。

「酣(たけなわ)ってそう書くんだね。先に始めちゃってたよ、ロボ」
「別に構いませんよ船長、人間の食事は私には必要ありませんからね」
「じゃあ僕たちで全部食べちゃうよ?」
「どうぞ」
「…見てるだけになっちゃうけどそれでいいの?」
「いいですよ」
「本当に?」
「本当です。それにどのみち私は他にすることがありますのでね、参加出来ないんですよ」
「?何かあったっけ?」
「船に定時連絡でも入れンだろ」
「それは先に済ませておきました」
「だってさ、ビリー。他に何かあったっけ?」
「あとで手伝ってもらうかもしれませんので、今のうちに皆さん英気を養っておいて下さい」
「…何をやらせるつもりだ?」
「実はですね…」


「「「この星を立て直す!!?」」」


「いいリアクションですねぇ皆さん、まるで漫画みたいだ」
「誰がサザエさんだ、それより立て直すってどういうことだよ」
「文字通りの意味ですよ。地上の廃墟をもう一度アミューズメントパークとして再建させるん
ですよ。彼らの置かれた窮状は皆さんも聞いているでしょう?我々は決して正義の味方なんか
ではありませんが、せめて一宿一飯の恩義に報いようではありませんか」

 

↓俺たちは俺たちの味方だ

 

「それがアミューズメントパークの再建と何の関係があるんだよ」
「アミューズメントパークの人気が出ればそれだけ人が集まります。人が集まればそれに比例
して知名度も上がります。その上で今度は彼らの生存権を主張するというわけです。いかにも
正義派ぶった話に聞こえるかもしれませんが、商売や政治経済の原理原則に縛られていない分、
地域の文化や時代に左右されない普遍性がありますし、使い方次第では人間の行動原理として
損得勘定よりよっぽど強力に作用してくれます」
「つまりどういうこと?」
「誰だって殺されたくないのは一緒じゃないですか、アルルさん。それにね…」
「…それに?」
「普遍性というものにはそれなりの“正しさ”が内包されているものです。大半の人間は大っ
ぴらに悪事を働けるほど図々しくはありません。自身や他者の行いに対する正当性や妥当性を
暗に求めている状態です。逆に言えば正しければ正しいほど行動にためらいが無くなるんです。
辺境の惑星に暮らす原住民たちのささやかな営みを自分たちの利益と都合だけで一方的に踏み
にじる…これほどの悪辣な行為が他にあるでしょうか?しかも彼らが人間社会との接点を一切
持たなかった異質の存在であることが、むしろ人間のヒューマニズムを増長させてくれます」
「だからどういうことなのよ」
「そういう“流れ”と“空気”を作ってしまえば、邪魔する連中を悪者扱いして容赦無く排除
出来るというわけです」
「なるほど。性悪説基準で考えてる分もっともらしく聞こえるけどな、どうやって人気を出す
つもりだ?どっかの巨人か大正ロマンの鬼退治みてーにサジェスト汚染でもするのか?あとは
グチャグチャ人が死んで思わせぶりな謎で引っ張るのをビミョーに上手くない絵で描いてりゃ、
大声張り上げながら尻馬に乗っかるだけしか能がねーイキリオタクどもの拗(ねじ)けた承認
欲求ブッ刺すのも簡単なお仕事だよな」
「漫画だったらそうやって検索エンジンで『s』とか『し』とか『o』とか入れるだけで候補に
出て来るようにでもしたらはした金で雇ったネット工作員にテンプレの提灯記事でも書かせて
いるところですがね、そんなやり方では後が続きません。二作目のジンクスどころかあれじゃ
もう二度と漫画なんか描けませんよ、あんな異常な持ち上げ方なんかされたらね」
「だから連載が終わったあと田舎に帰っちゃったんだよね」
「あれはもう完全に作品がオタクとマスコミとネットの玩具にされてますよね、彼女の場合。

それともう一つ念のために『サラマンダー・ウォー作戦』というのも考えてあります」
「…念のために聞いておこうか」
「彼らをですね、マソサラスの皆さんを労働力として各地に派遣するんです。これほどまでに
広大な地下空間を作り上げるだけの勤勉さがあればどこへ行っても重宝されるはずです。そう
して人間社会が彼らに深~く依存するようになったところで反旗を翻す、というものです」
「それで『山椒魚戦争』か…名付け親(ゴッドファーザー)リスペクトが効いてるな」

 

↓作者は“ロボットの名付け親”とも謂われるカレル・チャペック(実際は兄の方らしい)

 

「とはいえ2つ目の作戦は彼らの環境への適応力が前提となる上に、そこがまったくの未知数
ですからね。うかつには始められません。なのでここは事業再生を進めていくのが無難かと」
「とりあえずは正攻法でいくつもりか…興行なんか俺たちにどうしろってんだよ」
「難しく考える必要はありませんよ。細かい部分の調整は経験者にお任せするとして、我々は
ネタ出し担当ということで。我々に出来ることはせいぜいそれくらいしか無いでしょう」
「そんなんで事業再生とか言ってンのかよ…いよいよもってどうするつもりだ?」
「そこなんですがね…この際ですから彼らにも協力を仰ぎましょう」
「…マジかよ…」

 ロボが視線を移した瞬間、遠巻きに眺めていたマソサラス(仮)たちの間にどよめきが走り、
例の金属をこすり合わせるような不快な音が、広大な地下空間で一斉に鳴り響いた。つい先刻
までとは声のトーンも調子も明らかに違っていたのが、ビリーたちにも容易に察せられた。

(ギチギチ…ギチギチ…!)

「連中も不安がってるじゃねぇか。念のために聞くがどこまでやらせるつもりだ?」
「そりゃあもう、施設の建設や管理維持なんかの裏方はもちろん、接客まで、ですね。最終的
には運営に関わるすべてを任せたいと考えています」

(ギチギチ…ギチギチ…)

 マソサラス(聴衆)たちは、明らかに不安そうだった。

〈続く〉

 

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