銀河漂流劇場ビリーとエド 第4話『ようこそ!怪物プラネット』・⑤ | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第4話 ①、 ②、 ③、 ④、 ⑥、 ⑦、 ⑧、 ⑨(終)

 

 ビリーとエド、ロボとアルル…2時間後に合流する予定で、探索は二手に分かれて行われた。
ビリーたちの方は合流地点まで“歩いて”戻らなければならないが、ロボは最初からアルルの
瞬間移動(テレポーテーション)をアテにするつもりでいた。

 自分たちに出来ないことを平然とやってのける超能力少女がいれば、復路までの所要時間を
考える必要も無く、2時間をフルに探索に使い切ることが出来た。なので当然それぞれ場面を
切り替えながらでは同じ時間軸上で動いているように見えても、実際の両者の行動にはズレが
あったのだ。
「だからこうして我々はいきなり謎の巨大生物群に包囲されているわけですな」
「だからこうしてお前らはいきなり目の前に現れたわけだな」

 ビリーとエドは、地表から直下約400メートルの地下空間にて謎の巨大生物群に包囲され、
ロボとアルルは、その真っ只中へ乱入する形となった。目つきの悪い男と愛くるしい男の子は
壁にもたれかかりながら胡坐をかき、その間に超能力少女とポンコツロボットを挟んで彼らを
グルリ取り囲むおびただしい数の小さな点は、薄闇の向こうから2メートルほどの高さで赤く
光り、金属をこすり合わせるような不快な音の輪唱が、広大な地下空間に微かに響いていた。

(ギチギチ…ギチギチ…)

 能力使用の影響で眠り込んでしまったアルルと、文字通りの意味で血も涙も無いロボはとも
かく、常識的に見れば絶体絶命のはずの状況下でありながら、ビリーとエドの2人があくまで
悠然と構えていたのは、すでに安全が確認されていたからに他ならない。移動の所要時間を考
える必要の無かったロボたち同様、合流地点に戻り損ねたビリーたちもまた、探索の2時間を
フルに使い切っていたのだ。

「船長が一緒なら滅多なことにはならないだろうと踏んでましたが、これだけの数を手懐ける
のはさすがに大変だったのではありませんか?」
「そんなことしてないよ。向こうは最初から危害を加えるつもりなんかなかったんだから」
「しかも畑泥棒やっちまった俺たちにメシまで食わしてくれるってんだからな。ここは慌てず
騒がず紳士に振る舞うのが、知的生物としての最低限の礼儀ってモンだろうよ」
「食前の注文が多ければ逆に我々の方がご馳走にされるのかもしれませんが、そうでなければ
単なる親切心ということになりますか。むしろこの状況ではいきなり現れた我々の方が化け物
なのかもしれませんね。しかし一体何者なんです?」
「多分だがこの星の原住民ってとこだろうな。名前は…マサソラスだ。とりあえずな」
「じゃあマソサラスですね。そんなろくすっぽ中身を見たことも無い大昔のZ級怪獣映画から
その場のノリで適当に思いついたような名前をつけるなんて可哀想じゃないですか」
「その適当に思いついたような名前から適当にモジってるお前もどっこいどっこいじゃねーか」
「相変わらず口の減らない人間ですね、あなたは」
「それこそお前にだけは言われたかねーな」
 まさしくセリフの量が圧倒的に多いキャラクターには最も似つかわしくない発言である。
マサソラス
「話は通じるんだけどギチギチ言っててなんだかよく分からなかったよ。発音の仕方も僕たち
とはまるっきり違ってるみたいだったし…」
「なるほど。意思の疎通は可能であるが発音は極めて困難…と。ところで彼らは地上の廃墟に
ついて把握してるんでしょうか…何か聞いてませんか?」
「あぁ、それなら俺たちも気になってたんでな、さっき教えてもらったとこだ。詳しい話は…
女王(クイーン)の所に行って聞いた方が早いだろうな」
「女王(クイーン)…ですか?」
「エド、案内してもらえるように頼めるか?」
「うん!」
 元気よく立ち上がったエドワード船長が赤い眼の光る薄闇の向こう側に消えると、それから
間もなくして、1匹の巨大な外骨格生物を引き連れ戻って来た。

(ギチギチ…ギチギチ…)

「…全然違うじゃないですか」
 大昔のZ級怪獣映画とは比べ物にならないクオリティはもちろん、水棲系の半魚人と昆虫系
外骨格とでは、生物としての系統もまるっきり違っていた。金属光沢の装甲に覆われた体高約
2メートル超の巨体は全身が武器のように尖った刺々しい異様を誇り、4本の脚が支える体は
胴体部分からほぼ直立し、ひときわ大きく幅広い手甲のような2本の前脚の間から覗いた先で、
顔の前方から側面にかけて2×2の配置で4対ある複眼のうち下半分が、薄明かりを反射板の
ように跳ね返して赤く光り、ビリーたち4人(?)を見下ろしていた。

 

「お願いね」
(ギチギチ…)
 暗がりで出くわせばまず間違い無く誰もが恐怖を感じるであろう異形の巨体は、自身の脚に
そっと手を添える男の子の愛くるしい笑顔を見つめながら、返事をするように上半身をほんの
少しだけ前に倒した。そして1匹だけで、他の仲間たちが集まっていた場所とは明らかに違う
方向へと歩き出し、ロボはその後に続いた。
「僕たちはもう聞いてきたから、ここで待ってるね」
「アルルのことは俺たちが診てるから置いてきな」
「分かりました。では行ってきますね」

 マソサラス(道案内)に従い、地下空間…もとい巣穴の奥へ奥へと歩を進めるにつれ、単に
地面の下を掘り進んだだけのものに見えていた無機質な洞穴は、それ自体が緻密に構築された、
きわめて高度で複雑な調整機能を持つ、巨大な生物拠点としての様相を呈してきた。

 地面のあちこちに空いた穴から突き出たピンク色の突起物は絶えず何かを吐き出し噴き出し、
それをひと回り小さなマソサラス(労働者)たちがせっせと回収し、より分けたものをさらに
別の場所へと運んでいく…その巧みな連携と運動の“流れ”は、どこか雑然としながら一切の
淀みも無く繰り返され、ロボたちのいる場所を綺麗に避けながら通り過ぎていった。

「…まるで巨大なアリの巣の中にでも迷い込んだみたいですね」

 さらに奥へと進んでいったその先にある部屋に通されると、中ではマソサラス(道案内)の
全長の4、5倍はあろうかという巨大なマソサラス(顔面)が、正面の壁いっぱいに張り出し
ていた。顔から後ろが一体どうなっているのか気になるところではあったが、おそらく途中で
見かけた突起物がその一部なのだろうと、ロボは推察した。

「あなたが…クイーンですか?」
 目の前の巨大な顔面に一礼し、ロボは慎重に話しかけた。
(……………………)
「言葉、分かりますか?」
(……………………)

 クイーンとの対面は、さながら『宇宙刑事シャイダー』のクビライか、あるいは『機界戦隊
ゼンカイジャー』のボッコワウスのようでもあるのだが、これで果たして伝わる人がどれだけ
いるかはさておき、とにかくロボの呼びかけに対しクイーンからは何の反応も得られなかった。

「…やはり船長を連れてくるべきでしたね」
「待ってください!」
 これでは話を聞けそうにも無いと踵を返したその瞬間、背後からの声がロボを呼び止めた。
しかもそれは金属をこすり合わせるような不快な“音”ではなく“言葉”として、ハッキリと
その意味が聞き取れるものであった。ロボは足を止め、ゆっくりと後ろを振り返った。

「…あなたは…」
 物陰から現れた声の主の正体に、ほんの少しではあるがロボは驚きを隠せなかった。

〈続く〉

 

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