むか~し、むかし。
ぼくがまだ小さかった頃、
近所に住んでいた隠居のじいさんは、
ぼくに色々な昔話を聞かせてくれました。
今年の夏も暑いですね。というわけでメイドイン怖い話のお時間です。
去年チラッと書いたときはコロナ以前の問題として熱中症の問題に触れる程度でしたが、
なんかもう次から次へともう完全に呪われてますね。
まぁそれでもgoogleのブラウザをポチると始まる期間限定のミニゲームが
アニメ含めてなかなか良いデキだったのは間違いありません。
さて今回はじいさんから聞かされた、とある不思議な人物についてのお話です。
まぁぶっちゃけますと今回はそんなに怖くありません。毎度のことですが(苦笑)。
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セミも鳴けない、うだるような暑さが続いていた、夏のある日のことだった。
男の目の前で、1匹の野良猫がブルブル震えながらうずくまっていた。
男がほんの少しだけ手を伸ばすと、猫は“短い”片足をプラプラさせた
ぎこちない動きで、すぐ近くにあった民家の柵をすり抜け、そのまま庭の奥にある
茂みの中へと逃げていった。
視線を落とすようにしながら茂みのあたりまで点々と続く赤いシミを辿っていくと、
ついさっきまで猫がうずくまっていた場所は、赤黒い血だまりになっていた。
石を放れば当たるくらいにまで数が増えてきた野良猫は、とにかくうるさかった。
毎夜毎晩と続く喧嘩の唸り声がとにかくうるさくて、男は苛(いら)ついていた。
とにかく、片足をなくした野良猫を、そのままにはしておけなかった。
♪ピンポン
『はい?』
「すいません、野良猫がお宅の庭へ逃げ込んだみたいで。そいつケガしてるんですよ」
『そうなんですか。ちょっと待っててくださいね』
おっとりした女性の声だった。少しして家のドアが開くと、細身の老婆が現れた。
まるで骨と皮みたいなしわくちゃの両手には虫取り網と、おそらく猫を入れるための
段ボール箱を抱え、柔和な笑顔で男を出迎えた。
男の指示で老婆が猫のいる茂みに近付くと、猫はまったく逃げる様子も無く、
それどころか自分から老婆の方へと向かっていき、箱の中にきれいに収まった。
「~~~~~~?」
「~~~~~~?」
男の位置からは、背を向けてしゃべる老婆の話し声が、最初よく聞き取れなかった。
猫の入っている箱の傍でしゃがみ込み、どうやら話しかけているようだった。
「~~~~の?」
…ニャー
「~~~~の?」
…ニャー
まだうまく聞き取れなかったが、猫を相手に話しかける文字通りの猫なで声に
応えるように、か細い声で猫が鳴き始めた。
「~どうしたの?」
ニャー…
「そう…チョッキンされたの?」
…ニャー
「~…誰なの?」
ニャー…
「そう…太ってたの」
ニャー…
「お腹に顔が描いてあったの?」
…ニャー
鳴き声のタイミングがあまりにも絶妙で、相づちを打っているようにも見えた。
注意深く聞き取っていくと、老婆が話しかけている内容も、やけに具体的だった。
うだるような暑さの中で、老婆と猫のやり取りを聞いていた男の全身からは、
いつの間にか滝のような汗が噴き出していた。
ニャー…
「鼻が三つあったの?穴が三つ?」
…ニャー
「そう~…黒いのが三つあったの。…大きなホクロがあったのね」
ニャー…
「……………………」
うだるような暑さの中、Tシャツにプリントされた美少女アニメの顔は、
男の太鼓腹で蛙みたいに引き延ばされた上、大量の汗で体にベットリ貼り付いていた。
男の鼻のすぐ横には、鼻の穴がもう一つ付いてるみたいに真っ黒い、大きなホクロがあった。
男の顔は、明らかに青ざめていた。
老婆はしゃがみ込んだまま顔だけ振り返り、低い声でポツリと呟いた。
「警察は呼んどいたよ」
間もなく駆け付けた警官に、男は連れていかれることになった。
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後に男の部屋で発見されたスコップやハサミからは血液反応が確認された…とのことなんですが、
なんか聞いてもないのに後付けでそんなコト言われまして、
おそらく物的証拠が無いのはマズいだろうってことで、話しながら慌ててこじつけようとしたに
違いありません。その辺のアドリブは素直に誉めてやろうと思います。
「ネコとお話できるネオオババか?」
とは漫画家の荒木飛呂彦先生(『ジョジョ』単行本44巻折り返しにて)の言でしたが、
おそらくじいさんの周りにも、それっぽい人がいたのかもしれません。
(“ネコオババ”の誤植だそうですが、コッチのが面白いのであえて使ってます)
ですがこれはあくまで純然たるフィクションであり、
これはあくまで隠居のじいさんから子供の頃に聞かされた、
今でもなんだかよく分からない、メイドイン昔話の怖い(?)話です。
〈終わり〉
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