TVのコマーシャルに思いがけない方が出演されているのを観て嬉しくなった。

映画字幕翻訳者の戸田奈津子さんである。

 

1936年生まれの戸田さんが字幕翻訳者になりたいと思った時代、それは”狭き門”よりも更に難しい状況であったようで、夢が叶った時は40歳を過ぎていたという。

 

それまでの20年間、翻訳や慣れない通訳のお仕事をしながらも諦めることは一度もなかった。

 

「後悔はひとつもないです。映画が好きだから」

 

1970年代後半にフランシス・コッポラ監督と出会う。監督は「地獄の黙示録」の撮影の為にロケ地となっていたフィリピンを往復する途中、日本に立ち寄る。その時に、戸田さんがガイド兼通訳の仕事をし、フィリピンの撮影現場にも同行した。映画が完成すると、コッポラ監督はまだ無名の戸田さんを字幕翻訳者に推薦したのだという。そこから、戸田さんのご活躍が始まる。

 

これを戸田さんは「Lucky Break」という言葉で表現された。

〔成功への転機となるような〕思いがけない幸運。

 

通訳としては1000人以上の方々をお迎えしたとのこと、その中で5人くらいは「もう来るな」と

思われたそうであるが、でも、その人たちはスクリーンから消えていったとのこと。

興味深いお話である。

 

私は飛行機の中で映画を観るのが好きである。NYからの約13時間、眠らずに映画を観る。まだ日本で公開されていない映画や未公開の映画を観ることが出来る。まず、英語のオリジナルで、次に日本語

吹き替えで観る。同じ映画を2度観るのである。私の英語力では、細部を勘違いしていることがあるので吹き替え、日本語字幕は有り難い。ジャンルによってはお手上げの時がある。機内であるからこその贅沢な鑑賞方法だと思っている。

 

機内で上映される日本語吹き替えは独特である。

最初はものすごく違和感があった。ところが、NY―成田間を何往復もしていると、それに慣れる。

その独特感が良くなってくる(あくまでも、私個人のこと)。私にとっては、空旅の証である。

 

帰国してからはヨーロッパ映画を観ることが多くなり、100%字幕にたよる。

フランス語、イタリア語、その他、まったく言葉を理解しないのだけれども、字幕がしっくりこない

時がある。それは、私がヨーロッパ、他国のカルチャーを理解していないことが原因かと思う。

 

戸田さんのインタビュー記事やラジオなど聞かせて頂いたが、普通の翻訳と字幕翻訳の大きな違い、

日本語力の重要性がわかる。また、好きなことを諦めずに実現されたお話は、夢を追いかける人の

大きな励みになると思う。

 

私は戸田奈津子さんが字幕翻訳された映画を数多く観ている。

たくさんの映画を楽しませて頂いたことに感謝を申し上げたい。