ある日のスーパー・マーケットでのこと。
80歳代くらいの女性ふたりの会話。
「あら、久しぶり!私のこと、覚えている?」「あれ、どなたでしたっけ?」
「覚えていないの? 幼稚園の時によくエミちゃんとさあ〜」
声をかけられた女性は懸命に思い出そうとしているが、なかなかピンと来ない様子。
私はすぐにその場を立ち去ったので、その後どうなったかはわからない。それにしても、幼稚園と言えば70年以上も前のことだと思うのだが、まだ当時の友達を覚えていることに驚いた。顔のどこかに面影がのこっていたのだろうか。それとも、以前に何度か会っているのだろうか。
10年前、妹が入院中の母を訪ねて帰省した時のこと。ある日の夜、妹は町の中にある温泉へ行った。ふと見ると、昔よく遊んだ近所の幼馴染のお母さんがいる。思わず「キリちゃんのお母さん!」と声をかけた。すると、その人は一瞬驚いたように振り返り「キリちゃんのお母さんじゃなくて、キリちゃんですよ!」と言い返し、妹はあまりにそっくりだったので仰天してしまったという。
私も数年前に故郷の商店街で似たような経験をした。通りの向こう側を歩いているのは、中学1年の時の同級生。当時の彼女の母親とそっくりで驚いてしまった。服装、歩き方からしてお母さんではない、同級生本人である。
先月、久々に会った従兄弟に「おまえ、おばちゃんにそっくりな」と言われ、複雑な気持ちになった。子供の頃から母と似ていると言われたことは1度もないのである。でも、最近は鏡を見ると自分でも母親に似てきたと思う。
子供の頃や若い頃はあまり似ていなくても、年齢と共に似てくる。本当に不思議である。
これは多くの人が感じることらしいが、遺伝子だからしょうがないのだという。自分ではどうすることも出来ない。若い頃は、化粧や洋服によって親には似ていないように見えていたらしい。
スーパー・マーケットで久しぶりの再会をしていた女性ふたり。声をかけた方は、もしかしたらお友達のお母さんの面影をそこに見たのかも知れない。