ニッチな「特許事務所経営」職 | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

 ぺーぺー弁理士さん、中堅(?)弁理士さん、コメントをありがとうございました。
 私が忘れ勝ちになっている新鮮な感覚をいただきました。



 ペーペー弁理士さんに書いていただいたこの考えは、おっしゃるとおりと私も思います。
>「リーダーシップさえもっていれば3要素が低くてもよい」というのは、これからの時代通用しないような気がします。勿論、既存の事務所の「後継者」に求められる能力としては正しいと思いますが。少なくなくとも新規に事務所を立ち上げ成長させるには、実務面における魅力が不可欠なのではないでしょうか?

 その線に乗って考えますと、私が今までにやりましたのは「ひとり3役」ではないかなあ、と思えています。ただし、3役同時にということではなくて、1役ずつをシリーズで。

 事務所が成長していく過程で、組織としての節目にぶつかりました。私の経験では、1ダースの壁、1クラスの壁というのがありました。いずれも所員数が基準です。

 所員数が1ダースまでだと、狭く深い思考だけで事務所を運営していても回ります(第1役)。しかし、それでお客さんの評判が上がって仕事が増えてきて増員すると、所内がギクシャクしてくるのです。所長はまじめに一所懸命やっているのに、所員は不満だらけで、結局はお客さんからの信用を失います。マネージング方法がここで変わらなければ、お客さんから望まれているサービスを提供できなくなります。
 そこで私は仕事のスタイルを変えました(第2役)。

 同様のことが1クラス(35~40人程度)のところで起こりました。ここでもマネージング手法が変わらないと、クライアントの要望を満たすために規模拡大が必要なのに、所員は不満だらけになり、お客さんからの信用も失う結果を生んでしまいます。
 再度、私は仕事のスタイルを変えました(第3役)。

 ということで、私は3役をシリーズでこなしてきたのですが、どうやら100名あたりにももうひとつ壁があることがわかってきました。これを私は「除夜の鐘の壁」と自分でよんでいます。この3つ目の壁をどうするのか?これは、今の私の最大の課題といってよいです。

 もちろん、規模拡大が正しいとは限りません。
 1ダースの範囲内ですばらしい特許事務所を維持することは可能でしょう。1クラスの範囲内ですばらしい特許事務所を維持することも可能でしょう。

 「除夜の鐘」の範囲内でも同様のはずです。規模はこのあたりに収めた方がよいのか、突き抜けていくことを目指すべきなのか?突き抜けるとすると、どうしたらよいのか?
 悩みは尽きませんが、今以上の規模拡大を目指すことの是非は、どちらがより多くの「所員の幸せ」をもたらすのかで決まるのだとは思っています。

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 需要を半歩先取りしたサービスを目指して、ここまでやってきました。事務所開設からすでに20年が過ぎました。

 1人の人間に与えられている時間は限られています。その限られた時間を、何にどれだけ配分するのか?「実務面における魅力」を作るために使えば、視野を広げる活動に割く時間は少なくならざるを得ません。
 また、実際にやってみるとわかりますが、狭くて深い思考をする頭と広い視野を持つ頭とを頻繁に切り替えることは大変に困難です。人間ワザではないと少なくとも私には思えています(笑)。

 新規開業に反対する気持ちは毛頭ありませんし、新規開業がありえる業界でなければ将来は暗いと思っております。しかし、私が開業した20年前と今とでは、弁理士の環境はぜんぜん違います。
 狭くて深い思考で業務をするのが得意な弁理士でなければ新規開業はできないでしょう。が、そこから何十年という年月をかけて徐々に自己の体質改善をしていく形で、これから成功するのはなかなか困難ではないかというのが私の正直な気持ちです。もしやられるなら、遅くとも1ダースの壁に来たところで、リーダーシップに秀でた弁理士をよんできて「所長」職に採用し、共同経営の形をとるべきなんではないかと思いますね。

 「深くて狭い思考」を好む理系オタク(弁理士)を相手にした「経営」職を私はやっているのだと思います。
 普通の会社と同じ側面もあるでしょうが、たぶんそれとは相当に違うのだろうとも思っております。理系オタクが自分の才能を最大限に有効利用できかつ自分の才能を伸ばしていける環境を作っていくのが特許事務所経営担当の役目です。世間一般の「チームワーク」手法ではうまくいかないはずです。
 そう考えてきますと、「人間の職業」の概念の中に、極めてニッチな「特許事務所経営職」というものが存在しているように思えますね。