俳句にご興味のあるアメブロのみなさまに俳句のさまざまなことについてご紹介していく記事です


現代語・口語俳句の切れ字候補
〜その使い方・説明・参考句〜

現代語・口語俳句を詠むときに使うことができる「切れ字候補」の語を18字集めてみました。

それぞれの大まかな使い方・説明・参考句を下記に短くまとめました。ご参考になれば幸いです。

詠む型のバリエーションを増やすためなどにもご活用ください。


▽現代語・口語俳句の「切れ字候補」▽
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ


次のような悩みがある方は、試しにいちどご使用になってみてください。

・現代語・口語俳句でも切れ字・切れを活かしたい
・切れ字がないとどれも似た句型になってしまう
・や・かな・けりの切れ字を使うことに抵抗がある

など。



現代語・口語俳句の「切れ字候補」
〜使い方・説明・参考句〜


◯俳句の切れ字【よ】
切れ字【よ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも終助詞・間投助詞などとして一般に広く用いられている語です。切れ字として、呼びかけ・肯定・強調・断定・詠嘆をふくませて幅広く使うことができそうです。

◇参考句◇
上五切れ

船旅よみなとみなとのはるかもめ

えどがわよぱらぱらしだれ大花火

再会よだまっていてもほしづき夜


中七切れ

無になってながめる花よ花のなか

空ほどにひろがる海よヨットの帆

明けるまで銀河の島よなみのおと


下五切れ

新幹線富士過ぎてゆくすずしさよ

さまざまななやみのこたえ朝顔よ

秋風鈴かぜになりつつあることよ

ヘッドフォン雪舞う空の静かさよ



◯俳句の切れ字【か】
切れ字【か】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも疑問・反語・命令・感動などをあらわす語として一般に広く用いられています。語気がつよく、疑問・肯定・断定の3つを同時にまた複雑にふくませて使うことができそうです。

◇参考句◇
上五切れ

若草か野はらから立ちあがるひと

たがやすか夕日のなかに影ひとつ


中七切れ

ふんえんのあれが浅間か朝ざくら

かげ落とし牛はあゆむか花すみれ

踏切りのおともしずかか秋のくれ


下五切れ

コンビニの一灯ふゆにまむかうか

この星をあたたかくするしら息か

冬かもめ花咲くように飛び立つか

いにしえの奈良のみやこの鐘か春



◯俳句の切れ字【ぞ】
どっしりとなるようになる年末ぞ
寒がらす人の世もっとさびしいぞ

切れ字【ぞ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。上記の2句ように2通りの使い方がありそうです。1つは特に名詞などに添えて強調・断定する使い方。もう1つは特に動詞などに添えて肯定・断定する使い方。より現代的なのは後者の方になりそうです。

◇参考句◇
上五切れ

とうといぞそだった家の花ふぶき


中七切れ

子どもらもだまってないぞ百千鳥

紫陽花に雨はげしいぞコーヒー店

部屋猫にまどあかるいぞふゆの月


下五切れ

八重桜世がながながとあかるいぞ

わらわらと五百羅漢がかげろうぞ

寒がらす人の世もっとさびしいぞ



◯俳句の切れ字候補【と】
切れ字候補【と】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。「切れ字」とは句を切る、終止の働きをする助詞・ 助動詞などの語のこと。強調・省略・詠嘆などのために使われます。【と】で留める、切る使い方は現代語で一般に広く用いられています。

◇参考句◇

生きてゆくふる里じゅうの春灯と

月あかりあすには道後去りゆくと

盆用意かぞくいつかはあつまると

にわにすむこおろぎも子々孫々と



◯俳句の切れ字【に】
切れ字【に】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。本来は「いかに」だそうです。現代語では「〜ならよいのに」「そこをまっすぐに」「すこししずかに」など軽く切る使い方もされています。切れが甘くなりがちで、どう使えばより明確に切れるのか実作と検証は必要になりそうです。

◇参考句◇

中七切れ

そうぞうがそのまま都市に春の月

神だなはいつも頭じょうに豊の秋

じぶんへのいのりしずかに星月夜


下五切れ

伊勢神宮おおきな春の日だまりに

自動運転木の芽の道をまっすぐに

海女ひとりふたり歴史の波の間に



◯俳句の切れ字【へ】
切れ字【へ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。過去には動詞の命令形語尾として用いられていたようです。現代ではもう1つの用い方の、動作の方向・場所などを表す助詞として強調・断定をふくませて使うことができそうです。

◇参考句◇
中七切れ

擦る墨はすずりのうみへ雪降る夜

電線は路地から路地へあきのくれ

露踏んで西へひがしへじんるい史


下五切れ

群燕おおさかへまたとうきょうへ

アイスコーヒー氷残してまた街へ

パスポートひとりのこらず初空へ



◯俳句の切れ字【せ】
切れ字【せ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも動詞の命令形語尾として「飛ばせ」「話せ」「出せ」など一般に広く用いられています。命令のほか強調・断定をふくませて使うことができそうです。

◇参考句◇
中七切れ

町じゅうがすがたあらわせ祇園祭

滑走路そらへとともせほしづき夜


下五切れ

応援団長天よりたかいこえをだせ

すすきはら夕空じゅうに絮飛ばせ

餅つきの臼出せ杵出せちから出せ



◯俳句の切れ字候補【で】
切れ字候補【で】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「もっとよく噛んで」「またあとで」「では東京で」など言い切って断定する使い方もされています。断定のほかに強調・省略・詠嘆をふくませて使うことができそうです。

◇参考句◇

たんぽぽ吹く表も裏もある路地で

虫のこえ星ぞらほどににぎやかで

盆踊りいまの世でまたのちの世で

平和デモ路じょうに残る雪踏んで



◯俳句の切れ字候補【まで】
切れ字候補【まで】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「言ってみたまで」「読みきるまで」「時間まで」など言い切って断定する使い方もされています。断定のほかに強調・省略・詠嘆をふくませて使うことができそうです。

◇参考句◇
中七切れ

この国の平和いつまでなつのうみ

渓流のおと夢にまでキャンプの夜


下五切れ

東京タワー灯が朝焼にかわるまで

秋夕焼町じゅうに灯がともるまで

水澄むということとおい湖国まで



◯俳句の切れ字【ず】
切れ字【ず】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。厳密には古語のあつかいですが、現代でも一般に広く用いられていて、詠む場合にも違和感なく使えます。打ち消しの切れ字として強調・断定をふくませて引きつづき使うことができそうです。

◇参考句◇
中七切れ

アフリカ象アフリカ知らず春の雪

来る河のながれは絶えず鮎がとぶ

なにおもうなにもおもわず大夕焼


下五切れ

花虻につねにいちりん揺れやまず

登山杖いっ歩いっ歩をはやまらず

あきの雲旅はなににもこだわらず



◯俳句の切れ字【れ】
切れ字【れ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。元は係り結びの「こそ〜なれ」、命令形の「〜ことなかれ」などの使われ方です。現代では動詞の命令形の語尾として「去れ」「光れ」「〜になれ」などと使うことができそうです。

参考句◇
上五切れ

風になれひとりでに飛ぶ草のわた


中七切れ

くるくると西瓜ころがれ水のうえ

あるだけの星を見て去れスキー場


下五切れ

花すみれ雲ぐんぐんととおくなれ

よさこいの踊子としてひるがえれ

大根煮湯気はふはふとあたたまれ

けさの雪ひとひらずつが幸になれ



◯俳句の切れ字【け】
切れ字【け】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも動詞の命令形の語尾として強調・断定に使えそうです。「行け」「聞け」「向け」や「つらぬけ」「たたけ」「つまびけ」、また「〜ておけ」など、様々な使い方がありそうです。

◇参考句◇
上五切れ

乗ってゆけ乗ったくるまの隙間風

沖をむけ風いっぱいのヨットの帆


中七切れ

ストーブに手かざしてゆけ北の駅

ねむらせておけねこの子と浅間山

水のうえにころがしておけ大西瓜



◯俳句の切れ字候補【た】
切れ字候補【た】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「来た」「見た」「聞いた」などの動作の完了をはじめとして幅広く用いられています。断定・強調とともに詠嘆もわずかにふくませて使うことができそうです。

参考句◇

山みちのあしあと凍りついていた

旅の能登はじめての雪降ってきた

花見して平和をしんじきっていた



◯俳句の切れ字候補【が】
切れ字候補【が】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「〜ならいいが」「〜のはずだが」「あいつめが」など終助詞としても一般に広く用いられています。句末において断定・強調に使うことができそうです。

◇参考句◇

世をつつむ春夕焼けのあんしんが

ハンモックわかる地球の大きさが

とおくなる街をわたってゆく鳥が

ひややかに満ちゆく明けの明星が



◯俳句の切れ字候補【て】
切れ字候補【て】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では文末にあって断定をしたり、ずばりと言い切る使い方もされています。強調・断定・省略をするかたちで使うことができそうです。

参考句◇

嶺に雪死ぬも生きるも身をもって

寒つばき島とひとつに日あたって

だれも行くマスクの白を盾として

銀天街灯のすずしさのきわまって



◯俳句の切れ字【は(ば)】
切れ字【は】は、古来の俳句の「切れ字22字」の1つです。古文でも文末にあって詠嘆をあらわす使い方はあったようです。「〜ありけるは」「〜とは」など。文末などで詠嘆をあらわす語として現代でも活かしていくことはできそうです。

◇参考句◇

夜明け空咳がこんなにひびくとは

大夕焼け西果てしなく染めるとは

わたり鳥眺めるところふるさとは

さるすべり馬鹿にせず花赤ければ



◯俳句の切れ字候補【な】
切れ字候補【な】は、現代語・口語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「〜するな」「うれしいな」「〜だな」「〜しなさいな」など終助詞・間投助詞などとして一般に広く用いられています。強調・命令・詠嘆をするかたちで使うことができそうです。

◇参考句◇
上五切れ

灯向けるなりりりりりりと虫の闇


中七切れ

あおぐ空何も変わるなしゃぼん玉

さきをゆく雲遠のくなすすきはら


下五切れ

今年酒酔えばこんなにあたたかな

那智の滝夜も白じろと見えそうな

遍路杖じぶんじしんにおくれるな



◯俳句の切れ字【こそ】
切れ字【こそ】は、古来の俳句の「切れ字22字」の1つです。元は係り結びの係りとして「こそ〜なれ」、強調の意を表す「〜こそ」などと使われていたようです。現代では後者の使い方で強調・断定ができそうです。

◇参考句◇
上五切れ

生きてこそかずかぎりない冬の星


中七切れ

写生紙をはみ出してこそ富士は夏

都市たかく灯ともってこそ流星群


下五切れ

スカイツリーふぶく桜の上にこそ

腹わたにとどろく滝であってこそ

白菊がまっしろに咲く日なたこそ

いちりんの冬のすみれの一途こそ



全編、短くわかりやすくを重視してまとめました。

これらの他にも現代語・口語俳句の「切れ字候補」となる語は少なからずあるのではないかと思います。

それぞれの語について、より細かいこと・詳しいことは、今ではネット辞書などでも調べられますのでご興味のある方はそちらもご覧になってみてください。


今回書いたり調べたりして感じたことは、文法は必ずしも絶対ではないということです。

文法は基本であり、それを土台として言葉は時代とともに生き生きと変化しつづけていくもののようです。

そうした変化が、後に文法にあらたに書き加えられるということも多々あったようです。


さいごに、古来の和歌や連歌・俳諧の切れ字が実作とともに長い年月をかけて1つ1つ生まれ、定まり、変化してきたことを思えば、

現在の現代語・口語俳句の切れ字もまたこれから長い年月をかけて1つ1つ生まれ、定まっていく可能性もあるのではないかと、おぼろげながら感じました。



いつも
ご覧いただき
ありがとうございます


*この記事でいう現代語俳句と口語俳句は同一のものです

*これらの切れ字候補の語についてはひとつひとつ十分な使用と検証が行われる必要があります

*古来の「切れ字18字」にならって、あえて18字にまとめたものです

*至らない点、充分に書き尽くせていない部分もあるかと思いますがご容赦ください

*俳句については個人・団体によって様々な考え方や見解があります


◇筆者の活動内容
現代語・口語俳句で、俳句の基本である「575のリズム」「四季折々の季語」「切れ字」をはじめ、切れ、間、格調、機知、余情、深み、重厚さなどを大きく失うことなく詠んでいくための工夫や挑戦をつづけています。


「古来の切れ字18字・切れ字22字」

切れ字 十八字
鎌倉~室町時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・に・へ・せ・
ず・れ・け・ぬ・つ・し・じ・らむ・もがな

切れ字 ニ十ニ字
安土桃山時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・は・こそ・
し・ぬ・じ・む・を・さぞ・いさ・いつ・
いく・いかで・いづれ・もなし・もがな・げぢ

等々


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