多文体俳句集『三夏』

文語体俳句、口語体俳句、会話体俳句
の各作品で構成した俳句集です。

夏の作品を集めました。

各文体の俳句の強みと特徴を探りつつ作品をつくり分けました。

また会話体俳句について今回は独話・独語だけでなく、より会話的にもしました。

575の型・季語・切れ字の基礎、
個人的な俳句の目標にも取り組んでいます。

楽しんでご覧いただければ幸いです。

*作品はすべて既発表句です



『三夏』
多文体俳句集

第一部
〜文語体俳句〜

すいへいせん光る雲湧き立夏かな


鯉のぼり時代をおよぎはじめけり


ふねのみちすゑひろがりや河は夏


たけのこやせんたんの芽の二三本


そへられし富士の練切り新茶かな


風鈴のそらににほんを聴きゐたり


麦ぶえに麦ぶえを吹き添へにけり


つぎの門みえてをりけり薔薇の門


たかだかとかぜにゆがみし噴水や


オーデコロン人格のごと香りけり


せんまいをいちまいづつや初田植


おのが手を水にうつして田植かな


まんげつで観ること稀や梅雨の月


ふるあめにいくど打たれし蛍かな


羽抜鶏ふぶきのごとく吹かれをり


白日を聞きてをりけりせみしぐれ


デッサンのこまかき線や青りんご


釣りびとも鮎も四万十かがやきぬ


そのむかし作法のありし団扇かな


納涼船たまゆらの灯をともしけり


行くくものあらはれにけり滝の空


いちめんのかがみのうへや船遊び


田草取いまもつづきてをりにけり


あかん坊のやいやいやいや天瓜粉


ながきたこ岩礁いろにおよぎけり


海亀の羽ばたきおよぐこどくかな


よこぶえは見目よきふえや宵祭り


ひらひらと花のたゆたふ金魚かな


冷し西瓜終にひとりとなりにけり


住み替へてあたらしみあり夏の月



第二部
〜口語体俳句〜

そらよりもあおくて牧よ五月来る


こいのぼり尾鰭が空を打ちつづけ


ソーダ水きせつを肌でかんじだす


越えて行くひこうき雲よむぎの秋


カーネーション窓辺日の朝月の夜


来る川のながれ越しによ五月富士


溪谷よそらにほたるをふぶかせて


鹿がゆく子鹿ひとつについてゆく


箸のさき四季折り折りよ初がつお


月さしていんえいの夜よ紺ゆかた


透明層またかき回すアイスティー


梅雨入りよカフェの窓辺の人々も


香水のひとすじの香よ今朝を行く


瀬戸のうみこなごなのあか大夕焼


風鈴よそしてかぞくはちりぢりに


田にひとり麦わらぼうし郷土富士


けいだいよ掃きのこされて蟻の列


かたつむり伸びしろさがす枝の先


しぶく手よそでまで濡れて岩清水


あめんぼがゆらしてかがみ池の空


つめたさにとまるじかんよかき氷


茶のテーブル食のテーブル水中花


ひまわりよ下灘のうみきららかに


かお見えず見えていながら庭花火


葉かげでのことよ選り剪る初茄子


かまきりの糸引きながら生れるか


杉の幹木もれ日まみれほととぎす


黙落ちて黙落ちてそらせみのこえ


行く船よ夕焼けぞらはバロック調


うみの家そらごと夕日焼けおちて



第三部
〜会話体俳句〜

こいのぼり風の季節が来ていたか


麦笛に揺れやみません穂のそらが


いつ刈れる  週明けやろう  麦の秋


いちめんの空です箱根軒ふうりん


ちょっと今大事な所パセリ散らす


輪のようにふくよ噴水そらのいろ


次のバス二時間後ですつばめの子


灯しますれきしのかげを武者人形


指休めなよメーデーのキーボード


ソーダ水通りの果てはそらでした


うつります天地が水に田植えどき


こもれびのそら一点へたけのこが


聞いたのはここだが蛍ふぶきだす


栄華つぎつぎにふぶかす手花火が


雲の峰句碑読まれてはわすれられ


いま指を落ちてゆきます蜘蛛の糸


とかいにもなんにもないさ金魚鉢


葉陰ですみどりの淵にボート漕ぐ


ベランダに出て何がある黙がある


海の日の沖に問いかけられていた


田草取り背も夕空もさびしそうに


風鈴かさいげつ千々にふぶかせて


すっぱいね真昼をしぼるレモン水


竹林をかんじていますせみしぐれ


ほっとしました掻きくずすかき氷


飛込み板跳ね上がります水のおと


すぎた日がそらいちめんに大夕焼


かんがえるのをやめました冷し酒


ともったか祭一字のちょうちんが


ふぶかすよひとつ火で継ぐ庭花火

終わり



◇ 前回までの作品集 ◇

『三春』
多文体俳句集

『春の題詠』
多文体俳句集

『花の雲』
多文体俳句集

『四季自選』
多文体俳句集



◯つくり分けについて

今回は自由詠をテーマに
各文体の俳句をつくり分けました

◇今回のテーマ等

・自由詠での各文体の作品の特徴と比較
・自然詠と人事詠
・俳句、一行詩の両側面を探る
・切れ字、切れ、季語の活用
・格調、機知、余情、間、深みなど
・会話体俳句について、より会話的に



◯作者の個人的な考え、見解

◇その目的

多文体での俳句づくりの目的は、単なるパフォーマンスや他との競争ではなく、

自分自身の俳句やそれぞれの文体表現の可能性をさぐり、深化させていくことだと捉えています

俳句をより学び、より楽しむことを大切にしています


◯多文体俳句の主な目的

1、俳句で使われる文体の整理

各文体と各仮名遣いがごちゃまぜに使用されている俳句の現状について整理を行う提案


2、俳句同士の対立の緩和

伝統的な俳句と現代的な俳句の対立等をその両方に取り組むことで緩和すること


3、各文体の俳句の共存

文語体俳句、口語体俳句、会話体俳句等を同等の俳句として扱い、取り組んでいくこと


4、各文体の俳句を互いに高めあうこと

各文体の俳句の特徴や強み、技法などを理解し、互いに高めあうこと


5、俳句の歴史と現在、未来をつなぐこと

伝統的な俳句と現代的な俳句に同時に取り組むことで俳句の歴史と現在、未来をつなぐこと

等々


現在の試みとして、

文語体俳句、口語体俳句、会話体俳句

の3つ方向性を
順次探究しています

◇文語体俳句
「古典語・歴史的仮名遣い・古典的切れ字」を基本にした俳句

◇口語体俳句
「現代語・現代仮名遣い」「現代的切れ字」を基本にした俳句

◇会話体俳句
「現代の話し言葉」やそのフレーズ、会話、対話、独話、セリフ等を活かした句

など、個人的に大まかに分けて取り組んでいます


各文体、仮名遣い、
切れ字について短くまとめます

◯文語体が基本の俳句

◇文語体
古典語法に基づく伝統的で格調高い文体

◇歴史的仮名遣い
古典的な仮名遣いのこと
・言ふ、けふ、ゐた、てふてふなど

◇古典的切れ字18字
や、かな、けり、よ、か、ぞ、に、へ、せ、
ず、れ、け、ぬ、つ、し、じ、らむ、もがな等


◯口語体が基本の俳句

◇口語体
現代語法に基づく日常的で自然な文体

◇現代仮名遣い
現代的な仮名遣いのこと
・言う、きょう、いた、ちょうちょなど

◇現代的切れ字 の候補
よ、か、ぞ、と、に、へ、せ、で、まで、
ず、れ、け、た、が、て、は、な、こそ等


◯会話体が基本の俳句

◇会話体
話し言葉をそのままに再現した文体

◇現代仮名遣い
現代的な仮名遣いのこと
・言う、きょう、いた、ちょうちょなど

◇主な語尾の候補(要検証)
です、ます、でした、〜だ、
だった、〜ません、〜の、〜ね、〜さ等

*仮名遣いについてなど一部例外もあるようです


下記は、俳句における
文語・口語の大まかな図です

◇文語=文語体=古典語=古い時代の文体

◇口語=口語体=現代語=書き言葉
                                    ∟==話し言葉

◇仮名づかい 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い


◯使用している切れ字について

下記は
現代的な切れ字の候補についての記事です

「現代切れ字 十八字(推奨)」
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ


◯俳句の目標

下記について、毎日の投稿などで
月日をかけて探っていければと思っています

「表現の新と万象の真」「驚きと感動の詩」

「一新一真」「都市詠の探求」「一句新世界」 

「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」

「三物一句」「風情の継承」「平明深遠の詩」



*作品は主にXに投稿したものです

*解説について至らない点、充分に書き尽くせていない部分もあると思いますがご容赦ください

*俳句については個人・団体によって様々な考え方や見解があります



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