多文体俳句集『三春』

文語体俳句、口語体俳句、会話体俳句
の各作品で構成した俳句集です。

春の作品を集めました。

各文体の俳句の強みや特徴を探りつつ、それぞれにテーマをもうけてつくり分けました。

また575の型・季語・切れ字の基礎、個人的な俳句の目標も意識しました。

楽しんでご覧いただければ幸いです。

*作品はすべて既発表句です
*随時作品を追加します



『三春』
多文体俳句集

第一部
〜文語体俳句〜

梅の香や春告げぐさの名のとほり

しろき梅あかき梅えだまじへけり

はるかなる嶺早や日なた春立ちぬ

あはれまた雪かむりけりふきの薹

うすらひの割れぬ雀のかろさかな

うぐひすやひがし山またみなみ山

東風吹きて末ひろがりの大河かな

海もまた揺れてをりけり菜の花忌

島じまは海よりあをき木の芽かな

残雪やひだふかき嶺々遠ゆふばえ

引く波の果てにかぎろふ入日かな

いけよりも濡れてをりけり蛙の目

盆梅のたいぼくのごと咲きにけり

恋猫や鳴きあふいのちすさまじき

そして今玉のほぐるるつばきかな

すいへいせん引きて琵琶湖や遠霞

にはとりの影のびてゐる遅日かな

芽吹きては空ふるはすやえだの先

はらみ鹿あかき鳥居をあふぎけり

富士山をうつして五湖やのこる鴨



第二部
〜口語体俳句〜

たかみつつ吹かれつつ野の初蝶よ

草木の芽歓喜のうたをうたいだす

うめの枝よあかい空またしろい空

嶺々はかげ瀬々はひかりの早蕨よ

ふりつつむ一灯ずつをはるのゆき

子のすがたひとつに和して雛飾り

一生よ千々に見あげてしゃぼん玉

日がそらをまっしろにして卒業か

ふりそそぐきょうの日ざしが初桜

あるほどを耕してこそ父祖の土地

花見して時代はいまもかぜのなか

舞うさくら尊くさきをあらそわず

うるわしいのが長命寺さくらもち

こなごなに日のさす海よ野に遊ぶ

ぼんぼりがすべてきえても夜桜よ

春月よいま見えるもの見つめつつ 

かえるの目池と一つということか

落ちつばき池の水輪の日にいくえ

野のそらよ吹き遥かしてひばり笛

灯台よあかるくくらくはるのやみ



第三部
〜会話体俳句〜

摘みのこすとき平和です土筆の野

みる人をみおろしません山ざくら

ねこの子の一生むねに抱きとめた

ボートレースぎんいろに川輝くね

のこる人のこる鴨間を詰めません

鈴しゃんしゃん太鼓でんでん春祭

うちゅうですほとけ小さな花御堂

ほたるいか酒もあかるむ夜でした

めざめるよ島一つずつ春あけぼの

猫の恋夜明けてけりがつきました

春帽子日に日にあさくかぶります

燕の巣駅がひとつに見あげている

いけた花ふぶきだしますかすみ草

独身さ一の字に盛るアスパラガス

しじみ汁殻がうれしいではないか

目つむればおおひなたです春炬燵

行くふたりひとつでしょうか山霞

さいごまでにんげんでした春の月

日永ですふねすぎてなみ寄せる浜

来たみちはかえりみちです花遍路

終わり



◯つくり分けについて

各文体の俳句の強みや特徴を探り活かすため、今回は次のことに基づいてつくり分けました。

◇文語体俳句について

・自然詠中心
・より伝統的に
・「自然讃歌」というテーマ
・俳句としての側面を活かす
・切れ字、季語の活用
・格調の高さをより重視


◇口語体俳句について

・自然詠と人事詠
・より現代的に
・「自然の美と暮らしの真」というテーマ
・俳句、一行詩の両側面を活かす
・切れ字、季語の活用
・余情の深さをより重視


◇会話体俳句について

・人事詠中心
・より現在的に
・「人間讃歌」というテーマ
・一行詩としての側面を活かす
・切れ、季語の活用
・機知の鋭さをより重視


◯作者の個人的な考え、見解

◇その目的

多文体での俳句づくりの目的は単なるパフォーマンスや他との競争ではなく、

自分自身の俳句やそれぞれの文体表現の可能性をさぐり、深化させていくことだと捉えています。

俳句をより学び、より楽しむことを大切にしています。


現在の試みとして、

文語体俳句、口語体俳句、会話体俳句

の3つ方向性を
順次探究しています

◇文語体俳句
「古典語・歴史的仮名遣い・古典的切れ字」を基本にした俳句

◇口語体俳句
「現代語・現代仮名遣い」「現代的切れ字」を基本にした俳句

◇会話体俳句
「現代の話し言葉」やそのリズム、フレーズ、対話、独話、セリフ等を活かした句

など、個人的に大まかに分けて取り組んでいます

切れ字などについて短くまとめます

◯文語体が基本の俳句

◇文語体
古典語法に基づく伝統的で格調高い文体

◇歴史的仮名遣い
古典的な仮名遣いのこと
・言ふ、けふ、ゐた、てふてふなど

◇古典的切れ字18字
や、かな、けり、よ、か、ぞ、に、へ、せ、
ず、れ、け、ぬ、つ、し、じ、らむ、もがな等

◇特徴
格調の高さをより作品に活かしやすい


◯口語体が基本の俳句

◇口語体
現代語法に基づく日常的で自然な文体

◇現代仮名遣い
現代的な仮名遣いのこと
・言う、きょう、いた、ちょうちょなど

◇現代的切れ字 の候補
よ、か、ぞ、と、に、へ、せ、で、まで、
ず、れ、け、た、が、て、は、な、こそ等

◇特徴
余情の深さをより作品に活かしやすい


◯会話体が基本の俳句

◇会話体
話し言葉をそのままに再現した文体

◇現代仮名遣い
現代的な仮名遣いのこと
・言う、きょう、いた、ちょうちょなど

◇主な語尾の候補(要検証)
です、ます、でした、〜だ、
だった、〜ません、〜の、〜ね、〜さ等

◇特徴
機知の鋭さをより作品に活かしやすい

*仮名遣いについてなど一部例外もあるようです

下記は、俳句における
文語・口語の大まかな図です

◇文語=文語体=古典語=古い時代の文体

◇口語=口語体=現代語=書き言葉
                                    ∟==話し言葉

◇仮名づかい    歴史的仮名遣い    現代仮名遣い


下記は
現代的な切れ字の候補についての記事です

「現代切れ字 十八字(推奨)」
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ


下記について、毎日の投稿などで
月日をかけて探っていければと思っています

「表現の新と万象の真」「驚きと感動の詩」

「一新一真」「都市詠の探求」「一句新世界」 

「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」

「三物一句」「風情の継承」「平明深遠の詩」



*解説について至らない点、充分に書き尽くせていない部分もあると思いますがご容赦ください

*俳句については個人・団体によって様々な考え方や見解があります


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