新聞小説「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」(3) 作:福岡伸一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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朝日 新聞小説「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」(3)6/20(62~7/11(79)

作:福岡伸一 絵:岩渕真理
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感想
直径10メートルあまりの気球にゴンドラを付けて、ドリトル先生、トミー、ポリネシアの三名が空の旅に出発。
風任せと言いながら、高度によって吹く風の方向が異なるため、それを利用して希望の方向へ行く計画。
六分儀は弊ブログでもレビューしている「また会う日まで」にも出て来たのでお馴染み。
カツオドリから差し入れの新鮮な魚などをもらって、快適な空の旅を続けていたのが、激しい嵐に遭遇。
さて、どうなるか?
しかし>それがドリトル先生との最後の会話になりました。
とは穏やかじゃない。それじゃあガラパゴスは救えない・・・



あらすじ
気球飛行(62 ~ 77)
サルのチーチーにロープを外してもらい、先生と私は小石を少しづつ捨てます。ゴンドラが少しづつ浮き上がって行きます。
ゴンドラがゆっくり鍾乳洞の縦穴を上がり、穴の外に出ました。
夜は明けておらず、騒がれずに出発出来るのを先生は喜びました。
ゴンドラから首を出して、その高さにびっくりしました。


夜明けの光を見ながら先生は、方位磁石で東西南北を確かめました。
気圧と目視で今は高度600メートルと推定した先生は、千メートルまで上がれば東からの風に乗って西進出来ると言いました。
私は詳細の記録を取るよう言われました。
とうとう雲より高いところまで出て、先生は気球のバルブを少しだけ緩めました。
希ガスをほんの少し抜いて上昇を抑えた先生。

でもやりすぎるのは禁物。
雲がだんだん薄くなり、海が見渡せる様になりました。
コーンウォール半島、その向こうがパドルビー。

私たちは正しい方向に飛行している、と先生。
私たちの空の旅は順調に進みました。

まさに空を飛行する船、エアーシップです。

私たちは3交代で見張り番をしながら過ごしました。

食事は乾パン、チーズ、干し肉など。
洞窟を出発して五日目。

見渡す限りの海原の上にポツンと浮かぶゴンドラ。
何もない上に風もない、と先生。風を持つか高度を変えるか。

高度を上げるにも下げるにも問題がある・・・

「どうしましょう」不安になった私は聞きました。
先生に言われ、私は今日の日付け1831年12月12日と、方角、速度から現在地をイギリスの西南西2300キロほどだと伝えました。


オウムのポリネシアが、西の方から何か聞こえると言いました。
先生は双眼鏡でそれを見て、救援隊だと言いました。先生から渡されて見てみると、小さな点が散らばっており、次第に大きくなります。

それは鳥の群れ。先生は出発する前に、鳥たちのネットワークにお願いをしていました。今日のような無風状態になった時、どうすればいいかを教えてもらえます。
近づいて来たのはカツオドリの群れ。

そのリーダーがゴンドラの縁に止まりました。
先生に挨拶したのはラピス。イギリス海軍の船が、ここより南のカナリア諸島に寄港しようとして断られたとの情報をくれました。
イギリスではコレラが流行しているとの話です。
カナリア諸島のお役人たちが水際作戦で止めたそうです、とラビス。
ビーグル号もきっと太平洋を南下して、カナリア諸島近海を通るでしょう。彼らが南米に来る前にパナマに着きたいものだ、と先生。

気球の進路について、ラビスは当分無風だと言いました。もう少し南に行って西に向かう風に乗るまで曳航してくれるとの申し出。
こんな時のために、気球にはたくさんの紐が吊るされていました。
カツオドリの群れは、20羽ぐらいの数チームで順番に気球を曳いてくれました。


第一チームが10分ほど引っ張った後、第二チームが紐の輪っかを受け取って交代します。気球の速度が上がります。
リーダーのラピスは、こういうのはいったん動き出すとスムーズに動くと言いました。

鳥たちはすごいね、と地磁気を知る能力に先生は感嘆します。
ラビスは、海を渡る鳥にとってはごく普通の能力だと言いました。
地磁気は北が青っぽく、南が赤っぽく見えるとのこと。
話を変えてラビスは、毎日同じ食事では飽きませんか?と聞き、仲間の数羽を連れてゴンドラの下方へ飛んで行きました。

私が双眼鏡で鳥たちを見ると、水面にダイブしていました。

カツオドリは魚を取ってくれているのだ、と先生。


そして先生は暖房用のコンロに火をつけるよう私に命じました。
そのうちにカツオドリたちが次々と戻って来て、プレゼントをくわえています。イカ、タコ、エビ・・・彼らは優秀な漁師。
木炭が赤くなったコンロをゴンドラの真ん中に置き、ナイフでイカやタコをさばいてから金網に乗せました。一気に立ち込める香ばしい匂い。
焼けたものを分配しつつ、ラビスに少し味見しますかと聞きました。
私たちはいつも丸飲み。お腹の中でゆっくり消化しながら味わいます。
それぞれの流儀だ、と言って先生は人間のひ弱さについて語りました。
私はあることを思い出して、先生に革袋のカップを渡しました。

ピノ・グリージョの白ワイン。ドリトル先生は大喜びです。
私たちは久しぶりに楽しい食事のひとときを過ごしました。
一晩の飛行のあと、爽やかな風が吹く地帯に到達。

私たちはカツオドリにお礼を言いました。
お役に立てて光栄です、とラビス。

また何かあれば、先の島々の鳥が助けますと言って、カツオドリたちは去って行きました。
ゴンドラの床はとても狭く、私はドリトル先生のお家の部屋を思いました。でも先生は私よりずっと窮屈な筈なのに、そんな事は一言も言いません。
そもそも先生が何かに文句を言うのを聞いたことがありません。

私たちの気球は貿易風に乗って進みます。先生は星の位置を測る道具(六分儀)で気球の場所を調べています。


先生の計画は、パナマに着いたら太平洋側へ抜け、船を探すとの事。
ガラパゴスに着いてからのことを聞きました。
ガラパゴスは、そこに棲息する生き物たちのもの。

彼らがどうしたいかによる。
長い年月で、彼らはうまくバランスを取って自然を守って来た。
人間が入り込むと、異種の動物持ち込みなどでバランスが崩れる。

またガラパゴスゾウガメなどはどんどん狩られるだろう。
だから、この危機を島の動物たちに知らせて奥地に逃げ込むように言う。ガラパゴス諸島があまり利用価値がないように思わせる。
それをビーグル号が来る前に整えなくてはならない。

だが入植が始まったら止められない。根本的な方法が必要、と先生。

明け方、雨の音で目覚めた私。大雨が来そうだと言う先生。
気球を伝って落ちる雨水を受けて革袋に詰める作業を、先生と行いました。

遭難(78、79)
吹き込んで来る雨に対しては油紙とゴム引きのシートで万全ですが、用心のため記録ノート等を入れたリュックをお腹に抱えました。
風雨はますます強くなり、先生に言われてロープにつかまりました。
これは熱帯性の低気圧だと言う先生。大風に吹き飛ばされる前に、希ガスを抜いて高度を下げようと先生が言った時、ものすごい突風。
強い勢いで気球が空高く持ち上げられました。横倒しになるゴンドラ。


貯めた水の革袋もいくつか飛び出しました。
「あぶない!ロープにつかまりまさい」と先生。
気球は強風に翻弄され左右、上下にあおられ続けました。
先生は万一のことを考え、体をロープでゴンドラに縛り付けるよう指示しました。
先生もしてくださいとのお願いに、もうしばらくバルブの調節があると言って立っていた先生。

それがドリトル先生との最後の会話になりました。
ものすごい大風が私たちを吹き上げました。


福岡伸一のドリトル的平衡(6/30掲載)
伊藤豊雄主催の建築塾で「生命とはなんだろう?」とのテーマで話した。生命の最も核心的は特性は「自己破壊
それに小学生が質問

「ウイルスは増える一方で自分を壊せないから生命ではない?」
恐るべき鋭さ「君は全く正しい」
壊して作り直す、死と生が表裏一体だから生命は生命たり得る。
種々AIの未来が語られるが、これらは履歴を蓄積するだけで自らを破壊できない。
もしそんな事が出来るAIが誕生したら?
それはもはやインテリジェントではなく、スロットマシンやルーレットに近い何者かになるだろう。