新聞小説「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」(2) 作:福岡伸一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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朝日 新聞小説「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」 (2)

5/3(26) ~ 6/18(61)
作:福岡伸一 絵:岩渕真理

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感想
ドリトル先生がビーグル号より先回りするためのアイデアは「気球」に乗って行くこと。
だが空気より軽い水素は爆発するからダメ。それで情報を集めて水素ではない希ガスを見つけ出し、それを前提に準備を始めた。
希ガスというのはヘリウムが前提なのだろうが、洞窟から自然に噴き出すものとも思えない・・・
まあそれには片目をつぶろうか。
ただ、ガスは当然洩れて目減りする事を考えたら、補充用のガスボンベは必須。

そういう技術のバックボーンがない限りこういうモノは飛ばせない。
この辺りから行くと、やっぱ「子供向け」やなぁ。

水素気球で思い出すのはヒンデンブルグ号。


そしてゴンドラを準備し、搭載する荷物集め。

ガスを通すためのホース作りを経て、何とか気球は膨らみ、空の旅への出発準備は整った。

あらすじ
不思議な風船(26~29)
先生が最近やっている研究があり、それがプランBに関係しているかも知れません。
先生は例の実験箱を持って来て、と私に命じました。
そして持って行った箱から先生はリンゴほどの、白い紙で出来た風船のようなものを出しました。風船にはヒモが結ばれています
ドリトル先生が手を離すと、紙風船はふわりと浮き、ひもを離すとそのまま浮いて天井で止まりました。
魔法の様だというチープサイドに、先生はつついておいでと言います。


チープサイドが、言われるままに強くつついて穴を開けると、紙風船はゆっくり降下して床に落ちました。
この風船がガラパゴスとどんな関係があるのでしょう。

先生は、これがプランBだと言いました。

ここ数年研究している「空を行く船」スターシップの模型。
そして先生は、これまで私も一緒に取り組んで来た研究の成果を発表する機会を与えてくれました。
さて、書斎で準備が整い私は説明を始めました。
ドリトル先生の助手トミー・スタンピンズですと自己紹介。

エアーシップの研究についてのお話しを始めます・・・

ダ・ヴィンチの夢(30~33)
空を飛ぶことを最初に真剣に考えたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチです。科学者でもあり芸術家でもあります。
鳥の飛翔の研究を始めた彼は、大きな羽根の模型を作り羽ばたいて飛ぼうと考えましたが、人間の胸の筋肉は弱すぎで不可能。

別の角度から空を飛ぼうと考えたのが「気球」
空中に浮かぶシャボン玉のようなもの。
もし人工のシャボン玉を作るとしたら、薄くて丈夫な素材が必要、
それから浮き上がらせる方法。

さて、気球です。古い記録では、18世紀初め、ポルトガルのバルトロメウ・デ・グスマン神父が飛行船のような図面を残しています。
最初の本格的な気球の開発は1783年から始まりました。
フランスのジョセフ・モンゴルフィエが、乾燥のための火にあおられたシーツが吹きあがるのを見て気付いたのが発端。
彼は細い木材で立方体の骨組みを作り、底だけ開いて絹を貼った箱の中で火を燃やしました。

すると箱は持ち上がって天井まで行ったのです。
ジョセフは、弟のジャックと協力して実験を重ね、1783年に公開実験を行うと、2キロに亘って10分間気球は飛びました。
次の実験にはアヒル、ニワトリ、羊が乗せられました。
ベルサイユ宮殿で行われた実験にはルイ16世とマリー・アントワネットも出席。見事に成功して動物たちも生還。
一方、同じ気球でも別のアイデアで飛ぼうとした、イギリスのヘンリー・キャベンディッシュの説明を始めたドリトル先生。

勉強が追い付いていない私の説明はここまで。
キャベンディッシュは、貴族の生まれながら質素な暮らしでしたが、親の莫大な遺産を継いでから、好きな研究に打ち込みましだ。
その中で彼が発見したのは水素。鉄や亜鉛に塩酸、硫酸などをかけて発生させます。そして水素は燃える(爆発する)ことと共に、とても軽いという性質があります。普通の空気の1/10。

これを風船に詰めると浮くのです。
この水素を気球につめたところ、すごい勢いで浮き上がりました。
だが水素は、引火し易いのが最大の難点。

不思議な気体、求む(34~43)
ここからまた私が話を引きとりました。
ドリトル先生と私は気球の中に入れる、軽くて安全な気体がないか調べ始めました。
その方法は動物たちに「お尋ねメイル」を出すこと。

鳥、ネズミ、アナグマたちにその気体の特徴を教えました。
虫たちにも伝わるよう、出来るだけ多くの者に知らせて欲しい。
これは、地球の生命を守るために大切なことなんだ。

その後しばらく経ってから、コウモリのサファイアがドリトル先生に話を伝えに来ました。彼らが餌場にしているネオン川の河原で棲み分けをしているツバメからの情報。
ツバメがコウモリに、ドリトル先生が「新しい気体」を探していると話しました。鍾乳洞の奥で不思議な風が吹きますよね、とも。

それでコウモリは、最近洞窟のひとつが崩落し、倒れた石柱の跡の大穴から上昇気流が吹くのに気付き、そのことを教えに来たのです。
「それはすごいことだ。もっと詳しく話してくれないか」とドリトル先生。
サフィの話は続きます。その風を少し警戒しました。

毒ガスの可能性がある。
でもそれは無臭。ただ、それを少しのみ込むとヘンな感じ。

話をすると、アヒルみたいな声になってしまったのです。
ドリトル先生は大興奮。その風が普通の空気と性質が違うということ。
空気には窒素と酸素が4対1で含まれ、その前提で声が出ますが、ずっと軽い気体だと声が早く伝わるから高く聞こえます。
その場所を知りたいと言うドリトル先生。

その気体が貴重なものだと思った彼らは、その穴に石で蓋をして来たと言いました。完璧だと褒める先生。
その気体が爆発する恐れがないか聞いたドリトル先生。

サフィは水素の事も知っており、その危険はなさそうだと言いました。
その日から先生は大忙しで準備を進めました。
さて、先ほど先生が皆に見せた空飛ぶ風船にあの気体、希ガスが入っていました。
この希ガスを気球に詰めたエアーシップに乗って太平洋を越え、次に大西洋を渡ってガラパゴス諸島に行くのです。

ジップが、、どうやって西に進むのですかと聞きました。
先生は船と同じ様に風の力を使うと言いましたが、高度によって吹く風の方向が違うから、それを利用するとの事です。
気球には誰が乗るのですか?とオウムのポリネシアが聞きました。
これはとても危険な実験飛行。それから重さを極力抑えなくてはならない。なので私のほかは助手のスタンピンズ君とポリネシア、と先生は言いました。
私は嬉しさと同時に身が引き締まる思いがしました。

気球旅行を実行に移すための準備。

鍾乳洞の天井が崩落している場所まで長いホースを伸ばし、希ガスを充填した後の気球が浮かび上がれる様にする。
搭載する荷物類は鍾乳洞の穴から運び入れる。
行程を考えると水・食料は二十日分必要。

それからは気球、ゴンドラの製作が仲間との協力で始まりました。
私は食料と資材の調達係。必要なもののリスト化。
二十日、二人分として水、食料(乾パン、干し肉、レモン、干しブドウ、ナッツ類など)
大航海時代、船乗りが長旅で壊血病になった理由が、野菜や果実を摂らなかった事だと分かり、旅にレモン、干しブドウ、ナッツ類は必須。
それから毛布、コート、小型コンロ、燃料の木炭などなど・・・
ぼくは先生に聞きました。
ざっとした計算でも荷物は100キロ近くなり、そこに我々が乗り込むと合計200キロくらいになります。
果たして気球は浮かび上がるでしょうか。
ドリトル先生は、計算では直径10メートルの気球なら200キロぐらいは持ち上げられると言いました。

ただあまり余裕がなく、持ち上がらない時は水を捨てざるを得ない。
足りなくなったら雨水を集めれば何とかなる、と先生。
この旅が困難と危険に満ちている事を知った私。
でも先生となら、どんな困難も乗り越えられる。
毎晩ベッドに入っても目が冴えて眠れません。でも魚釣りの浮きを実家に取りに、と思った時、あっと声を出してしまいました。

チャンスは準備された心に舞い降りる(44~49)
お父さんとお母さんに、まだ何も言っていませんでした。
私はこのチャンスに全部の運を賭けるつもりですが、両親は腰を抜かすでしょう。
両親が弟子入りを許してくれたのは、読み書き計算を学ぶため。
この話を聞いたら大反対するのは間違いありません。

でも嘘はつきたくない。
一方で、旅の支度は着実に進めなければなりません。
フランスの科学者ルイ・パスツールの言葉。
チャンスは準備された心に”だけ”舞い降りる。

物資買出しの助っ人、猫肉屋のマシュー・マグのこと。
猫肉屋とは、クズ肉や余り肉を市場から安く仕入れて、犬や猫を飼っている家に売る仕事。
私はマシューの後について、動物たちがエサを貰う様子を見るのが好きでした。マシューは、時には私にエサやりをさせてくれました。

彼が人からは下に見られるこの仕事をしているのは、若い頃やんちゃして何度も警察の世話になったから。
でも私にはマシューが悪い人だとは思えません。
マシューは、口は悪いですが気安く付き合ってくれます。

街の噂、ゴシップにも詳しい。
マシューはドリトル先生とも、とても仲良しでした。

先生もマシューを下に見るようはことはせず、頼りにしていました。
自然の循環について教えてくれる先生。
人間の息の中の二酸化炭素を養分に出来るのは植物。

空気中の窒素を栄養物に変えるのは微生物。
人間は、他の生物に感謝する事はあっても、好き勝手に搾取したりする権利はない、と先生。
マシューはいつもドリトル先生への、動物たちのリスペクトを話します。
そんなマシューに、私は食料調達の話を相談しました。
売掛(あと払い)の事も承知して引き受けてくれたマシュー。
食料の調達リストを見せた後、丈夫な新しい革袋を20枚と、その中の一つにピノ・グリージョの白ワインを入れる様に頼んだ私。

その日の夕方、先生は私の疲れ気味を指摘しました。
そこで懸案だった、今回のことについての両親への説明をどうしたらいいか、話したのです。
先生の言葉。まず第一に必要なことは、全てを正直に話す。

君さえ正直に話せば、あとは相手の問題になる。
それから、生物学者になるという、その気持ちは話す事だよ。
心の霧が晴れたようでした。そうなのです。それは私の決断です。
その日の夜、私は実家に帰って両親にガラパゴス諸島への旅の事を話しました。
最初は驚いたもののお父さんは、ドリトル先生を助けて世界を救っておくれと言い、お母さんはただ一言言っただけでした。
「身体に気をつけてね」
その晩は自分の部屋で寝ました。何ひとつ変わっていない私の部屋。

洞窟へ出発(50~61
急ピッチで準備は進み、荷物は荷車一杯分ぐらいになりました。
いよいよ出発が出来たのは1831年12月。

ビーグル号の出発準備も進んでいるようです。
夜に出発。同行はサルのチーチー、オウムのポリネシア、犬のジップ。更に荷車を運ぶ馬。
洞窟の入り口に着いたのは明け方近く。
コウモリのサフィの案内で、地下の洞窟の天井にあたる、穴が開いた場所まで辿り着きました。

この穴が地下の鍾乳洞に繋がっているのだね、と先生。
お弁当を食べているうちに、朝の光があたりを照らし始めました。
朝食も終わり、穴の底に荷物を降ろす作業の開始です。

材木で組んだ足場に滑車をつけ、ロープで降ろします。
ゴンドラのカゴを利用して往復させながら降ろしました。

私がろうそくの火を灯すと、コウモリのサフィが来て希ガスの穴の場所を教えてくれました。

その後最後にドリトル先生が、馬にロープを引いてもらいながらゴンドラのカゴで降りて来ました。皆で全部の荷物をゴンドラに積み込みます。
そしていよいよ気球へ希ガスを入れることになります。
先生は犬のジップに指示して革袋に水を詰めさせました。
皆それぞれの仕事を進めます。一連の作業が終わると、いよいよ希ガスの引き込みです。その前にゴンドラの係留。その上でゴンドラの周囲に重りの小石を詰めた革袋をくくり付けました。
私たちは10メートルのホースを10束用意していました。

コウモリのサフィの導きで希ガスが噴き出す穴に向かいます。

犬のジップがゴンドラの場所でホースの端を押さえています。

先生はカンテラに火を点けました。


ホースをほどきながら穴の奥に進みます。

一本が終わると先生は竹の継ぎ手で次のホースを繋ぎます。
でも希ガスの噴き出す穴までもう少しというところで、最後の一巻きを伸ばしても数メートル足りません。
私は唇を噛みました。余分に持って来ればよかったのです。
どうすればいいかを考えようと言う先生に、ホースを冷やすか引っ張ってはと提案しましたが、万一破れたりしたら一大事です。
先生はコウモリのサフィに、ホースの代わりになるものはないか尋ねました。
難しいですね・・・とサフィ。

サフィは石筍の話を始めました。石灰石が含まれた地下水が滴り落ちる時にタケノコの様に成長するもの。
成長しかけのものには中が空洞のものもあり、それを重ねれば伸ばせるかも知れない、と先生。
サフィの案内でその場所に行きました。

石碑のようで怖くもありましたが、その美しさに見とれました。
サフィが自ら出す超音波で空洞の石筍を見つけ、それを博士が蹴ると折れて、中の空洞が先まで続いていました。
頭に穴を開ければ天然のホースになります。
すき間を塞ぐものがないか聞く先生に、別の通路に粘土層がありますと答えるサフィ。完璧だ、と喜ぶ先生。
先生と私の共同で石の先に穴を開け、それを重ねてスキマを粘土で固めます。
ようやく希ガスのパイプラインが出来ました。

ホースの先端が穴に届きます。
先生はホースの先にファネル(漏斗:じょうご)をつけました。

これで効果的にガスを集めます。

先生の掛け声で穴を塞いでいる岩が除かれ、私はファネル付きのホースを押し込み、小石で押さえました。

更に先生は粘土で残りのすき間を塞ぎました。
私たちは気球のところまで急ぎました。

戻るとジップがホースを咥えて待っていました。
指示されて実験用の小型風船を出すと、先生はそこにホースの先を差し込んで膨らませました。
そして手から離れると、風船はどんどん上昇して行きます。
「まちがいなく希ガスだ」先生はホースの先を気球に繋ぎました。
その部分はねじ式で、密封も徐々に放出する事も出来ます。
希ガスが充満するまではしばらく時間がかかるため、ダブダブが作ってくれたもう一つのお弁当を食べました。
横になってもいいという先生の言葉に、毛布にくるまって横になると、私はすぐに眠りにつきました。


ハッと目を覚ますと、そこにはパンパンに膨れた気球が立ち上がり、ゴンドラに結ばれたロープがピンと張っています。
私が寝過ごした事も意に介さない先生は、一緒に乗り込むよう言いました。全員の重みでさすがにゴンドラが地面まで沈みました。
重りの石を少しづつ捨てれば浮く筈です。
残して行く動物たちにいろいろと指示をする先生。
残される皆は、ご無事と健闘を祈ります、と最後の挨拶をしました。


福岡伸一のドリトル的平衡(5/31掲載)
ドリトル先生一行は、いよいよ気球に乗ってガラパゴスを目指す。

乞うご期待。
コロナ問題。スタンピンズ君の言葉を借りて先生に聞いてみた。
人類と病原体とのせめぎあいは、過去繰り返されて来た。一方が他方を完全に滅ぼすことはない(そんな事をすれば自分が滅びる)
病原体と宿主との理想的な関係は?→ほどよいバランス。
更に言えば、宿主に気付かれないまま居候すること。

それが流行が「終息」すること。
短兵急に戦うと逆襲される。病原体が「共存体」になるまで待つ・・・