新聞小説「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」(1) 作:福岡伸一 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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朝日 新聞小説

「ドリトル先生 ガラパゴスを救う」(1) 4/1(1)~5/2(25)
        作:福岡伸一 絵:岩渕真理

4月1日から生物学者の福岡伸一氏による本連載が始まった。


「ドリトル先生」シリーズは元々イギリスの小説家ヒュー・ロフティングによる児童文学作品であり、井伏鱒二はじめ多くの人が訳している。

福岡氏も「ドリトル先生航海記」を出しているが、ガラパゴス諸島で経験した事を、オリジナルとして小説化しようと思い立ったという。

(詳細はこちら

感想
作者はTV(例えば「ごはんジャパン」)等にもちょくちょく出て来る。
ダーウィンが進化論の着想を得たきっかけは「ビーグル号」でガラパゴス諸島を訪れた事だという。
だがそれが同諸島の自然を損なう要因になるだろうと危惧して、ドリトル先生たちが先回りし救おうという話にするようだ。
残念ながら少年期に「ドリトル先生・・・」には接していない。
物語はドリトル先生の助手トミー・スタビンズの言葉で進められる。
まだ今のところはプロローグであり、登場人物の紹介と、ビーグル号の脅威が語られる。そして、先回りのためのアイデアが開示され始めた。

この連載の想定年齢が微妙だが、氏がこの連載を始めるにあたっての思いを書いた最下段の文を読むと、けっこう難しい言葉が。

ロゴスとピュシスなんて言われても・・・
ただ、せっかくの連載なので何とかついて行こう。
*連載は土曜を除いた毎日

登場人物
‎ジョン・ドリトル     博物学者・医学博士
トミー・スタビンズ  助手
ポリネシア      オウム
ジップ           犬
ダブダブ        あひる
ガブガブ        豚
チープサイド     すずめ

あらすじ
ヒュー・ロフティングに捧げる
はじめに

ある日、ドリトル先生がスタンピンズ君に、ガラパゴスで起きた事を記したこの箱のメモを君に託すと言いました。公表するのは50年後

平和が訪れたと君が判断した時に公開してもらいたい。

この物語の読者の方の中には「ドリトル先生航海記」を愛読した人も多いでしょう。この物語と先の航海記はほとんど同時に起きたことですが、先の事情からガラパゴスの旅は封印されました。
なのでこれから進める話には多少矛盾を生じるかも知れませんが、それも含めて楽しんで下さい。それでは物語を始めましょう。


ドリトル先生と私(3~7)
ドリトル先生にひと目会った時に、求めていた人だと分かりました。
今とは違う世界に行きたいという願い。
私はトミー・スタンピンズ。父は靴職人で、学校には行っていません。
ここはイギリス西部の小さな港湾町パドルビー。
ドリトル先生は高台の一軒家に住む博物学者。

動物の言葉が話せ、彼らを家族として一緒に住んでいます。
オウムのポリネシア、犬のジップ、アヒルのダブダブ、ブタのガブガブ・・・
ドリトル先生はナチュラリストです。これは博物学者と訳されますが、このジョン・ドリトル先生はそんな古臭い人ではありません。

ドリトル先生は、生き物たちの声に耳を澄ませ、この自然がなぜかくも豊かなのかを知りたいと思っています。
自然を愛する人、つまりナチュラリストなのです。
私は意外な形でドリトル先生と出会い、弟子入りしたのですが、それは「ドリトル先生航海記」に詳しく書かれています。
先生は私を呼ぶ時はいつもスタンピンズ君、と呼んでくれました。

そして学歴も経験もない私と対等に接してくれました。
親でも、教師でも、上司でもない「斜め」の関係がとても気持ちがよいのです。

私はナチュラリストになりたいと思い先生に聞くと「もちろんなれるよ」

だが十分な勉強が必要。まずは読み書きと算数から始めました。
次いで先生は、算数の勉強のためには歴史の勉強が大事だと言いました。土地の広さを知るための幾何学、速度や移動距離を算出するための微分、積分など・・・


こうしてある程度の勉強が進むと、先生は私に記録係を命じるようになりました。
先生自身が書き切れないこと、ちょっとした思いつきなどを全て日時と共に記録する・・・

先生からは、今まで溜めた膨大なメモ類の整理も指示されました。
中には葉っぱの裏や蝶の翅、石などに書かれたものまで。

とにかくメモはその場で取らないとだめだという持論。
かのレオナルド・ダ・ヴィンチも多くのメモを残した。

最も尊敬するナチュラリスト。彼の残したメモ類はコーデックスと呼ばれ、その思想を知る重要な資料となっている。

世の中にはいくらでも知るべきことがある。それが私を待っている。
先生はこのメモもドリトル・コーデックスとして、あとの歴史のため記録に残す、と説明しました。
なのでスタンピンズ君にもいろんな言葉の使い方を学んで欲しいと言われました。私の記憶が確かなうちに記録をキチンと整理したい。
ドリトル・コーデックスの記録係になる光栄。

先生の冒険の追体験できる。

毎日のチョア(ルーチンワーク)(8~11)
ドリトル先生の資料部屋の多くの箱の中に、大きな頑丈な木箱があります。錠前が付いて「NP-1825」と書かれています。


すごく大事なものが入っていると思います。
お仕事については、質問にはいつも丁寧に教えて下さいますが、時期が来たら教えてくれるというのを待ちます。

いずれはあの箱を調べる時が来るでしょう。
ある日の午後、家のチョアも終わり、先生や私と動物たちで昼休みを過ごしていました。

チョアというのはエサやり、掃除洗濯などのルーチンワークの事です。

私の読み書きの先生は、オウムのポリネシアです。
優れたナチュラリストになるためには注意深くなる必要があると言って、庭の地面を見るように言われました。
何も見えませんでしたが、しばらくしてアリが動いているのを見つけました。そうするとあちこちで動いているアリがたくさん。
ポリネシアは頷き、自然とは手がかりを掴むと突然世界が変わって見えると言いました。

もう少し観察を続けてと言われ見ていると、忙しそうにしているのや、ただ忙しいフリをしているアリもいる様です。それを褒めるポリネシア。

サボっているか、別の意味があるのかも知れない・・・
いざという時の要員かも知れないが、仮説に過ぎない。
確かめるには実験が必要。だがそういった事は、あなたが自分の研究に取り組めるようになってからでいいと言うポリネシア。
僕が先生と冒険の旅に出たいと言うと、意外に早く実現するかも知れない、と言ったポリネシア。

チョアの休憩時間、先生は懸案になっている旅の資料の記録整理をしたいと話しました。

私の話すことを一つ残らず書き留めて欲しいのだ、とも。
その時、応接間の窓ガラスを叩く者がいました。そこには小さな鳥が。
先生が窓を開けて招き入れます。

それはスズメのチープサイド。ロンドンからはるばる飛んで来ました。
家族全員がその周りに集まります。
「どうしてこんな時期にあわてて来てくれたのかな?」

チープサイドがもたらしたニュース(12~14)
お耳に入れたいニュースを仕入れたとのこと。

それはガラパゴスに関わること。
食べ物の話と間違えて興奮するブタのガブガブ。
チープサイドは以前ロンドンで息子の脚を治してもらった縁で、先生を慕っています。
チープサイドはセントポール大聖堂に住んでいます。
お客が落とすパンくずが朝食になります。

そんな時に客が新聞を読みながら話し会うのを聞きました。
イギリス政府がビーグル号を出帆させるとのこと。

 

いやな予感がしました。あのガラパゴス諸島にも行くかも知れない。
そこが生物にとって天国だという事を鳥たちは知っています。
胸がざわざわします。人間たちが考えることに、碌なものはない・・・

もっと詳しい情報が欲しい。チープサイドは、普段は仲の悪いカラスにあの新聞をかすめ取る事を頼みました。

ドリトル先生のためならと引き受けるカラス。
そしてチープサイドは、第一報のために飛んで来たのです。
ロンドンからパドルビーまでは200キロもあります。

二日かけてチープサイドは飛んで来ました。

イギリスの野望(15~22)
それはなかなかおおごとになるかもしれん、とドリトル先生。
そしてイギリスが今、産業の大革命の只中にあることを説明。

移動は鉄道になり、織物は機械で動く。
それで困ったのが労働者。機械に仕事を取られてしまう。

機械をハンマーで壊す「ラッダイト運動」も起きた。

だがこの産業革命の先に、どんどん品物を作るための資源調達の問題が起きる。石炭含めみな自然から取ったもの。
そして商品を売りつける相手も必要。
スタンピンズ君、イギリスの人口は?と聞かれ、どきっとしながらも約1,400万という数字を言えた私。さりげないテストだったかも・・・
大半はお金のない人。ではどうやって工場主は儲けるか?

作ったものを外国に売って儲けようとします、と社会科が得意な犬のジップが答えます。


そのとおり、と先生。だがイギリスは他国に領土を見つけて自分のものにする作戦に出遅れた。先行したスペイン、ポルトガル、オランダ。
負けじと北アメリカに人を送ったが、それが逆にアメリカ合衆国を作ってしまった。

それでイギリスはインド、中国、その先の日本を狙っている。
だがそのおかげで迷惑を被るのが人間以外の生き物たち。
だから今回の知らせは気になる。

もしビーグル号がガラパゴス諸島に行ったら・・・

そこは生き物たちの楽園。
先生はビーグル号がどんな船か尋ねました。チープサイドは、その証拠資料を手に入れる手筈を整えて来たと言いました。

カラスがかすめ取った新聞を、遠距離飛行が可能なミヤコドリに託したとのこと。ちょうどその時、先生の庭にミヤコドリが降り立ちました。
丸めた新聞を受け取る先生。

新聞を受け取って先生が、見出しから読み進めます。H.M.S ビーグル号の表記。His Majesty's Ship の略で国王陛下の艦隊、つまり軍艦。
先生の顔が険しくなります。この船の表向きの目的は調査や測量です

が、艦長以下軍人も多数おり、砲まで装備している。立派な軍隊。
調査や測量だけのためにこんな軍隊を出すはずがない。

ビーグル号の出航には軍事的な意図かありますか、と尋ねる私。
それを肯定し、この旅が領土や軍事拠点を探す旅だと言う博士。
ガラパゴス諸島は、どの国もまだ領有権を主張していない。
だからこそ残されたおおらかな自然。

だがもしビーグル号の軍隊がここを見たら、戦略的価値にすぐ気付く。
アメリカ大陸から東南アジアに行く中継点。またパナマに臨む位置。

いっときパナマ帽談義。
パナマとガラパゴスの接点が分からないみんな。
それはさておき、書斎の世界地図帳を持って来るようダブダブとガブガブに指示する先生。そして地図が置かれました。

先生が大西洋のところを開いて皆を集めます。

今ここの場所がパドルビーと言って印を付けました。

大西洋に出るにはいい場所。
そしてビーグル号が出発するのがプリマスの港。

それはコーンウォール半島を挟んだ南側。
ビーグル号は大西洋を南下して太平洋に出るしかない。

途中マゼラン海峡をぐるりと回る。
だから彼らがガラパゴス諸島に立ち寄るには一年以上かかる。
我が方にもチャンスはあるというものじゃないか。

ネバー・トゥー・レイト(23~25)
つまり彼らの先回りをしてガラパゴスの生き物を安全な場所に移し、そこがイギリスに占領されるのを防ぐ、と言うドリトル先生。


犬のジップは不安そう。ビーグル号は速いし航海技術も上。

こっちは船もないしお金もない・・・
どうすれば出来るかを考えるのが大切。

ネバー・トゥー・レイト(never to late)だよ。
近道を行けばいい、と先生はパドルビーからガラパゴスまで一本の直線を引きました。

先生が引いた線の途中には北米大陸と南米大陸をつなぐ部分があり、一番狭いパナマでも80キロあります。
もしビーグル号が行くとしたら2万3千キロ。

そのスキに我々が先回りすればいい、と先生。
まずはプランAだと言う先生。

船でパナマまで行き、地峡を横断する。急げば2、3日。

太平洋に出ればそこから先はすぐ。新しい船で10日もすればガラパゴスに行ける、と先生。
だがオウムのポリネシアが反論。これだと2艘の船が必要。


そこで私は先生に、先ほどのプランAの言葉を思い出し、プランBがあるのですかと尋ねました。


福岡伸一のドリトル的平衡(4/29掲載)
今回「新・ドリトル先生物語」の経緯について語る。
昨年、コロナ禍の寸前、ガラパゴス探検を行った。
夜、満天の星を見上げ「ロゴス」について考えた。ロゴスは人間としての思考。その対義語がピュシス(生、性、病、死の恣意性)。
ロゴスの力で世界を制御したいと希求する一方で、ピュシスからは逃れられない。
その間で揺れる人間の進化について見つめ直したい。
ガラパゴスは、チャールズ・ダーウィンが進化論の着想を得た場所。

その時ふと気づいた。ダーウィンがここに来た時代は、ドリトル先生の時代と同時期。
二つを重ね合わせたら、生き生きとした会話が始まった!
それを形にしたのがこの連載。