狐頭 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 春のやわらかな日差しがプラットホーム上に降り注いでいた。私が長椅子に着座して電車の到着を待っていると、隣に鳥頭を被った人間が腰を下ろした。

 その日の私は買ったばかりの狐頭を被っていたので身近に肉の温かみを感じ取ると急激に腹が空いてきた。しかしながら、鳥頭の中身はあくまでも人間なので補食するわけにはいかなかった。本能に従って噛み付けば違法行為になるのだった。

 罪を犯したくないので私は巨大な食欲を組み伏せようと努めたのだが、それはとても困難な試みだった。鳥頭は派手な色彩の仮面なので視界の片隅に入るだけでも存在感があった。そこで、私は目を固く閉じた。

 やがて電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえてきたので私は瞼を開けて長椅子から立ち上がった。すると、プラットホーム上には鼠頭や兎頭などを被った人々の姿があった。それらの仮面も私の食欲を猛烈に刺激した。そして、彼等も同じ電車に乗り込もうとしていた。

 彼等と同じ車両に詰め込まれるという状況を想像してみると目的地まで理性を保っておける自信を持てなかった。それで、私はその電車を見送った。駅近くのスーパーへ行って生肉を買おうと思った。たらふく食べて空腹を満たしたかった。


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