第66回角川短歌賞応募作50首詠 「新・建礼門院右京大夫集「白波の花」」【第2章】 | わたる風よりにほふマルボロ

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2020年5月提出

第66回角川短歌賞応募作50首詠

「新・建礼門院右京大夫集「白波の花」」

梶間和歌

 

 

全50首は【第1章】をご覧ください。

 

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

 

あらたまの春風淡きはる霞よし野山より立ち初めぬべし

 

あらたまの:

 「年」「春」などを導く枕詞

 

 

行くすゑも去りしむかしもはるかなり寿永四年の春を思へば

 

寿永四年:元暦二年を指すが、

 都落ちした平家政権は

 改元を認めず「寿永」を使い続けた。

 壇ノ浦の戦いは元暦二年、

 寿永四年三月二十四日。

 作中主体の心が

 平家政権に近いことを

 「寿永四年」という語で表す。

 

 

あさみどり野べの若草萌え初めて露さへ匂ふ春のあけぼの

 

あさみどり:

 「野べ」を導く有心の枕詞。

 「浅緑」は薄い緑色、浅葱色。

 

 

野原には草のかをりすをち方にさへづり交はす百千鳥哉

 

野原:元は

 「野」「野辺」「野中」等と比べて

 格式の落ちる言葉だったが、

 新古今時代に

 『源氏物語』の再評価などを

 きっかけに歌語に昇格した。

 

百千鳥:さまざまな、たくさんの鳥

 

 

ひらけ添ふ梅のひと枝にさしかゝる少しおくるゝ春の夜の月

 

ひらけ添ふ梅:咲き加わる梅

 

 

朝霞八重に二十重に立ちわたる峰の雲ゐを花と定めよ

 

朝霞:幾重にも立つことから

 「八重」などを導く有心の枕詞


立ちわたる:

 補助動詞「わたる」の働きは、

 空間的、または時間的に

 その動詞が継続するイメージ

 

峰の雲ゐ:峰の桜の比喩、または

 雲のことを峰の桜に見立てて

 伝統的に歌に詠まれてきた。

 

 

をちこちの梢にいましみ吉野ゝ花のはつ花すべき曙

 

み吉野:「見よ」を響かせる

 

はつ花すべき曙:

 初花が咲いても

 おかしくないような曙、

 初花の咲くべき曙、

 初花にふさわしい曙

 

 

春嵐やがて凪ぎゆくけはひすればけふ咲く花のおとぞ聞こゆる

 

やがて:すぐに、そのまま

 

けはひすれば:

 様子がして、様子がすると

 

 

あづま路は知られ馴れぬるうつせみの世に逢坂の関の杉むら

川舟のうきて過行く波の上にあづまのことぞしられなれぬる

式子内親王 式子内親王集192

 

あふ坂やこずゑの花を吹くからに嵐ぞかすむ関の杉むら

宮内卿 新古今和歌集春下129

 

あづま路:「東」

 「吾妻(我が愛しい人、性別を問わない)

 を掛ける。

 「東」は表向きは東琴の響き、

 裏側には頼朝蜂起をはじめとした

 東国の異変の報を指す。

 

知られ馴れぬる:

 (知ろうとしてではなく、おのずと)

 知られ、

 その状態に馴れてしまった

 

うつせみの:「うつせみ」は

 この世の人、またはこの世。

 そこから「世」「人」「命」などを

 導く枕詞として働く。

 

逢坂の関の杉むら:

 「逢ふ」を掛ける。

 「杉」と取り合わせて

 詠まれることも多い。

 

 

あふさかの関のみどりのまばゆさにほのかに添へる山桜かな

あふ坂やこずゑの花を吹くからに嵐ぞかすむ関の杉むら

宮内卿 新古今和歌集春下129

 

添へる山桜:添うている山桜

 

 

関越えて行き交ふ花のあふさかのうつろふ色とゝこしへの色

 

あふさかのうつろふ色とゝこしへの色:

 移ろう桜の色と常緑の杉の色

 

 

こゝろだにこゝろのまゝにならぬ世に吹けば吹かれて花沈みゆく

 

こゝろだに:心さえ

 

 

言はじたゞものゝふとして死に()ふ人の心は白波の花

 

言はじ:言うまい、言うものか

 

白波の花:「知らず」を掛けるが、

 建礼門院右京大夫の恋人が

 都落ちした一族とともに

 海を漂っていること、

 また壇ノ浦で沈む運命も暗示。

 

 

いま来むと言ひしことなきひとのうへに春の暮れとは祈るばかりぞ

今こむといひしばかりに長月のありあけの月をまちいでつるかな

素性法師 古今和歌集恋四、691

 

 

さゞなみや比良の水面に敷く花も吉野ゝ花もうたかたの夢

花さそふひらの山かぜ吹きにけりこぎ行く船のあと見ゆるまで

宮内卿 新古今和歌集春下128

 

さゞなみや:「楽浪(ささなみ)」は

 琵琶湖南西沿岸一帯のこと。

 「さざなみや」「ささなみの」などで

 「志賀」「比良」などを導く

 枕詞として働く。

 「細波(さざなみ)」も響かせる。

 

比良:琵琶湖西岸の山。

 「比良の水面」で

 琵琶湖の西側の水面を表す。

 

うたかたの:

 泡のようにつかの間の

 

 

さりともと思ふこゝろも絶え果てゝ木の芽春雨つひの日を知る

さりともとまちし月日ぞうつり行く心の花の色にまかせて

式子内親王 新古今和歌集恋四、1328

 

さりとも:

 そうだとしても、いくらなんでも

 

木の芽春雨:

 木の芽の張る春の春雨に

 

 

ありて逢はぬ世とあらぬ世の隔てなり寿永四年の春の夕暮れ

 

ありて逢はぬ世:

 生きて逢わない仲、関係性、

 またそんな世。

 「世」は「世の中」また

 「男女の仲」など広い意味を持つ。

 

あらぬ世:あの世、

 また生きていない世

 

 

薄く濃き霞を分けてふる雨の静かなるこゑに濡れ尽くしたり

うすくこき野辺のみどりの若草に跡までみゆる雪のむら消(ぎえ)

宮内卿 新古今和歌集春上76

 

 

うちなびく春の川風去りぬらしいつか梢に匂ふさ緑

 

うちなびく:なびく様子から、

 「草」「春」などを導く有心の枕詞

 

去りぬらし:去ってしまったようだ、

 というのも……。

 「ぬ」は完了の助動詞。

 助動詞「らし」は必ず

 その推定の根拠の表現を伴う。

 ここでは

 下の句がその根拠に当たる。

 

 

こゑやしぬるひさかたの雲飛び分けて死出の山より来よほとゝぎす

ゆふだちの雲とびわくるしらさぎのつばさにかけてはるる日のかげ

花園院 風雅和歌集夏413(403)

 

ひさかたの:天空に関する

 「雲」「空」などの語を導く枕詞

 

来よ:「来(く)」の命令形。

 「来い」の意。

 

ほとゝぎす:境を越える鳥として、

 あの世とこの世を越える

 という詠み方もなされた。

 

 

影追へばつれなく覚むる夢なれや昼のたちばな夜半の橘

たちばなのにほふあたりのうたたねは夢もむかしの袖のかぞする

俊成卿女 新古今和歌集夏245

 

つれなく:元は「連れなし(連れなく)」。

 こちらの想う気持ちと

 もし連動するならば

 永遠に覚めることはなかろうに、

 連動せず、無情にも覚める夢を

 「つれなく覚むる」と表す。

 

夢なれや:夢なのか。

 「夢であれ」という意味の場合も

 あるが、文脈から判断する。

 

 

夏木立その下陰をゆく風に紛るゝ夢の果てぞゆかしき

夜もすがらちぎりしことをわすれずはこひむなみだのいろぞゆかしき

藤原定子 後拾遺和歌集哀傷536

 

果てぞゆかしき:

 果てが知りたいものだ。

 「ゆかし」は元々「行かし」、

 「行きたい、知りたい、

 確かめたい」などの気持ちを表す。

 

 

夢を見てあはれと思ひ嘆きわび死なるれどなほ生き夢を見る

なげきわびわがなからましとおもふまでの身ぞわれながらかなしかりける

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集243(242)

 

またためしたぐひもしらぬうきことをみてもさてある身ぞうとましき

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集205(204)

 

夢を見て、なほ生き夢を見る:

 無明長夜を目覚めることなく

 生きる意

 

あはれ:元は「ああ」というため息、

 そこから

 ため息の出るような事を表したり

 そのような意味の形容詞や

 動詞に派生したりした。

 

 

死は等しなべてさだめと言はゞいへさかしらごとを言ふ人はされ

かなしとも又あはれとも世のつねにいふべきことにあらばこそあらめ

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集224(223)

 

さかしらごと:

 かしこぶった言葉、綺麗事

 

言ふ人はされ:言う人はそうあれ、

 言う人は好きにせよ

 

 

 

いつものことですが、長すぎると

アメブロさんに怒られるので、

語釈の続きはまた明日。

 

 

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