藤原定子 夜もすがら | わたる風よりにほふマルボロ

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一条院御時、皇后宮かくれたまひてのち、帳の帷(かたびら)の紐に結びつけられたる文を見つけたりければ、内にもご覧ぜさせよとおぼし顔に、歌三つ書き付けられたりける中に
 
夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき
 
藤原定子
後拾遺和歌集哀傷536
 
 
 
【現代語訳】
 
一晩中愛し合ったこと、
そしてその愛は永遠だと
約束を交わしたことを、あなたは
私の死後も
忘れずにいてくれる……。
もしそうならば、
私を恋うて流すだろう
あなたの涙の色が本当に
哀しみの血の涙の
赤色であるかどうか、
ぜひとも知りたい。確かめたい。
ねえ、あなた。
血の涙を流すのですよね?
 

(訳:梶間和歌)

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

夜もすがら:一晩中、夜通し。
 男女の仲を表す「世」も響かせる。
 
契りしこと:
 夫婦の交わりをしたことと
 永遠の愛を約束をしたこととの
 両義を匂わせる。
 
忘れずは:もしも忘れないならば。
 「ずは」は
 打ち消しの順接仮定条件を表す。
 
恋ひむ涙:(私の死後、私を)
 恋うて流すだろう涙
 
涙の色:ここでは
 哀しみの血の涙の赤色
 
ゆかしき:
 見たい、知りたい、確かめたい。
 「ゆかし」は「行かし」が語源で、
 心がその対象に向かって
 行きたくなる様子を表す。
 文脈によって
 「見たい」「会いたい」
 「知りたい」などと訳し分ける。
 ここでは係助詞「ぞ」の係り結びで
 連体形となっている。
 
 
 
一条天皇皇后定子の
辞世とされる3首中の1首。
 
後拾遺集』「哀傷」部の
巻頭歌に入集しています。
 
 
そういえば、
関係ないかもしれませんが、
定子の母である高階貴子の

忘れじの行末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな

 

『新古今集』「恋三」部の

巻頭歌ですね。

 

 
 
『源氏物語』の桐壺帝と
桐壺更衣の悲恋のモデルとして
 
一条天皇と皇后定子は
しばしば指摘されますね。
 
 
「いや、桐壺更衣と違って
 定子は皇后じゃないか」
と思う方も
おられるかもしれませんが、
 
定子はある時期以降
 
・父の早世
・兄弟の不祥事
・それに連座した定子の出家
・にもかかわらず再入内
・父の在世中は遠慮していた
 公家たちの娘の
 一条天皇への入内
・叔父である道長の娘
 彰子の入内、
 その後彰子が中宮になり
 定子はスライド式に皇后に
 
という
とんでもない不利を背負って
後宮生活を送っています。
 
 
清少納言が『枕草子』に描いた
いわゆる“定子サロン”は、
定子の父道隆の生前のイメージ
と捉えるとよいですね。
 
 
後見である父が早世しただけで
後宮での立場は弱くなるのに、
兄の伊周くんとか……
いろいろありましたからね。
 
 
もともと一条天皇は
年上で知的で明るい定子と
仲睦まじかったそうです。
 
そのたっての要請で
出家した中宮が再入内する、
という異常事態に
世間は冷ややかだったとか。
 
 
ほら、
桐壺帝を連想させますでしょう。
 
愛しているからこそ手放すとか
せめて距離を置くとか、
愛する人の立場を思いやった
そういう愛し方は
できなかったのですね、
 
若いころの桐壺帝にも
一条天皇にも。
 
 
 
道隆の生前は、
ほかの有力貴族の皆さんも
年ごろの娘を一条帝後宮に
入れることを
遠慮していたそうです。
 
それが、ある時期以降
どどっと続くのですって。
 
 
一条天皇の定子への
常識外れな愛情を考えると、
 
政治上やむを得ず
ということだったのでしょうね。
 
道隆の死後帝が好色になった、
または好色を隠さなくなった、
とかではなく。
 
 
賢い定子にも、
夫の愛が薄れたわけではない
とわかっていたでしょう。
 
むしろ、自分が
常識外れな形で愛されている
という自覚と後ろめたさが
あったでしょう。
 
 
それでも、どんな理由であれ
自分の夫に次々と
ほかの女が入内するさまを
見つめ続ける心境とは、
どういうものでしょうね。
 
 
というような事を考えながら、
定子の辞世の一首をもう一度
読み味わってみましょうか。

 

 

夜もすがら契りしことを忘れずは恋ひむ涙の色ぞゆかしき

 

 

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