式子内親王 河舟の | わたる風よりにほふマルボロ

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河舟のうきて過ぎ行く波の上にあづまの事ぞしられ馴れぬる

式子内親王
式子内親王集192

 


 
 
【現代語訳】

河舟のように頼りない憂き身で
世の流れのなすがまま
波の上に浮き、過ぎ行く命。

そのように生きていると、

「あづまのこともしられざりけり」

と詠んだ匡衡と異なり、私は
逢坂の関を越え、

もの珍しい和琴(あづまのこと)

よく弾くようになり調べ馴れ、

「我妻(あづま)」と呼ばれること、

男女の事も

身に知られ馴れてしまった。

(訳:梶間和歌)
 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

和琴緩調臨潭月 唐櫓高推入水煙

和漢朗詠集721 「遊女」 源順

 

四弦一声如裂帛 東船西舫悄無言

「白氏文集」巻十二 「琵琶行」

 

逢坂の関のあなたもまだみねばあづまのこともしられざりけり

大江匡衡 後拾遺和歌集雑二、937

 
うきて:

 「浮き」に「憂き」を掛ける

あづまの事ぞしられ馴れぬる:

 「あづまの事」は本歌を踏まえ、

 「東(東国)の事」と

 「東の琴(和琴)」とを掛ける。

 「東国の事を知る」とは、

 「逢坂の関(逢瀬の困難)を越えて

 男女関係を知る」という意味。

 本歌より、「しられ」は

 「調べ(演奏し)」を掛ける。

 「知り馴れぬ」ではなく

 「知られ馴れぬ(る)」なので、

 知ろうとして知り

 それに馴れたのではなく

 おのずとそれを知る立場、状況に

 なったというニュアンスを表す。

 「ぬる」は

 完了の助動詞「ぬ」の連体形で、

 強意の係助詞「ぞ」を受けた

 連体形の係り結び。

 

 

 

錦仁編『式子内親王全歌集』の

この歌には

あづまの事―頼朝蜂起など東国の状況のことをいうか。和琴のことか(略)

と頭注があります。

 

 

東国の反乱を含めた

社会不安が、歌の雰囲気に

影響してはいるでしょう

 

が、

 

これは東国の反乱を暗示して

詠んだ歌だ

 

という読み方は

すべきでないでしょうね。

 

 

作者の実感を込めることが

比較的許されている

雑の歌とはいえ、


経験している戦乱や社会的混乱を

そのまま歌に詠むということを

式子内親王がした

とは考えられません。

 

西行ではあるまいし。

 

漢詩や物語の世界を

自身のなかで咀嚼し、

さらに押し広げて歌にした

式子内親王、

 

また題詠や百首歌に打ち込んだ

式子内親王の

歌の詠み方を考えると、ね。

 

 

言うまでもなく、別に

式子のほうが歌人として上で

西行のような詠み方は下等だ

という意味ではありません。

 

ただ、西行のような歌の詠み方を

式子はしなかった

という事実を言っているだけです。

 

 

 

「河舟の」は、

建久五年(1194年)五月二日に

近い時点で詠まれたと考えられる

「B百首」の雑歌の6首目。

 

「B百首」の雑歌の詠み方、

そして読み方については

奥野陽子著『式子内親王』が

かなり参考になります。

 

 

この数年前に詠まれた

「A百首」の雑歌6首目

つたへきく袖さへぬれぬ浪のうへ夜ふかくすみし四つの緒の声
式子内親王集91

との対応関係、

 

「B百首」自体の

連作としての性格、

 

そのなかで「河舟の」を

いかに読むか、

 

などなど……。

 

 

下手に私が要約したものを

読むより

実物をお読みになったほうが

おもしろいかと思います。

 

私は最初図書館で借りたのちに

古本を求めましたので、

 

お近くの図書館で探したり

都道府県内の相互貸借を

依頼したり、

というのもオススメですよ。

 

 

 

この歌に関して書かれた

最後の部分だけ引用しましょうか。

 

「琵琶行」を本説とした九一「つたへきく」のこと)では、詠歌主体はその詠歌する現在に身を置いたまま、「伝へ聞く袖さへぬれぬ」と詠み、本説を外から対象的に見て詠んでいる

しかし、B百首一九二(「河舟の」のこと)は、歌中の遊女その人の立場で詠んでおり、遊女を詠歌主体とする表現である

B百首の詠歌主体はそれだけ遊女の運命を自分のものとして内から見ているといえよう。

このことは、B百首の詠歌主体のあり方を考える上で注意すべきことである。

 

改行と下線、括弧は

恣意によります。

 

 

河舟のうきて過ぎ行く波の上にあづまの事ぞしられ馴れぬる

 

 

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