第66回角川短歌賞応募作50首詠 「新・建礼門院右京大夫集「白波の花」」【第3章】 | わたる風よりにほふマルボロ

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2020年5月提出

第66回角川短歌賞応募作50首詠

「新・建礼門院右京大夫集「白波の花」」

梶間和歌

 

 

全50首は【第1章】を、

語釈の前半は【第2章】

ご覧ください。

 

 

 

【本歌、参考歌、本説、語釈】

 

 

夢やいかに五月雨くだす雲暗み花橘の匂ひまされば

さつきまつ花橘のかをかげば昔の人の袖のかぞする

詠み人知らず 古今和歌集夏139

 

夢やいかに:

 夢なのか、どうして?

 

雲暗み:雲が暗いので

 

 

ねやの風に起き出でゝみれば雲ゐには野分と紛ふ夕立のこゑ

 

雲ゐ:空

 

野分:のわき、またはのわけ。

 秋に吹く激しい風、

 現在の「台風」に当たる。

 

 

日に添へて増すかなしびと思ひしが生きてむかふやつゆしもの秋

 

日に添へて:日の経つに従って

 

思ひしが:思ったのに

 

むかふ:「迎ふ」「向かふ」を掛ける

 

つゆしもの:

 露や霜の降りる季節「秋」、また

 露霜に関連する動詞を導く枕詞。

 「かなしび」の「涙(の露)」を暗示。

 

 

初風の空に吹き交ふ草枕そのたび思ふ秋の別れを

 

初風:その季節の最初に吹く風、

 特に秋の最初の風

 

草枕:旅先において

 草を結って枕としたことから

 「旅」や同音の「度」などを

 枕詞として導く。

 

秋の別れ:

 平家都落ちは寿永二年七月、

 七月は旧暦で秋。

 

 

月を待つならひを思ひ出づる夜はひとしほしげき荻の上風

 

月を待つならひ:

 恋人を待つかつての習慣

 

ひとしほしげき荻の上風:

 恋人の訪れを錯覚させる

 荻の上風の音が

 ひとしお激しく聞こえる意。

 

 

まだ生きてありあけの月を振り仰ぐ秋風雲を吹き払ひたり

なげきわびわがなからましとおもふまでの身ぞわれながらかなしかりける

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集243(242)

 

またためしたぐひもしらぬうきことをみてもさてある身ぞうとましき

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集205(204)

 

ありあけの月:

 夜が明けようとするころに

 まだ空に残っている月。

 夜を過ごした男女が別れる

 時間帯なので、多く

 恋のせつなさや恨みを

 連想させる。

 ここでは

 「まだ生きてあり」を掛ける。

 

 

ぬばたまの夜風ふけゆく浅茅生に人待ちがほに鳴くきりぎりす

きりぎりす夜さむに秋のなるままによわるかこゑの遠ざかり行く 西行 新古今和歌集秋下472

 

さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫 藤原定家 新古今和歌集秋上420

 

ぬばたまの:ぬばたま(ひおうぎ)

 黒い実から、枕詞として

 「黒」「髪」「夜」などを導く。

 

夜風ふけゆく:「夜更けゆく」と

 「夜風吹きゆく」を掛ける。

 参考歌でもわかるように、

 掛詞では、語の活用が

 本来と異なることも

 ある程度許容される。

 

 

憂きものと宮こを出でゝ行く関のひとに逢坂あふみあづま路

うきことはところがらかとのがるれどいづくもかりのやどときこゆる

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集246(245)

 

逢坂あふみあづま路:

 京から順に遠ざかる。

 それぞれ「逢ふ坂」

 「逢ふ身」「吾妻路」を響かせる。

 

 

いづくにも置きどころなき露の消ゆる草ばを求む山を越え越え

うき身世にやがて消(きえ)なば尋ねても草の原をばとはじとや思ふ

『源氏物語』「花宴」 朧月夜

 

 

草枕旅ぢの空に見るものか都に涙せし月の影

うきことはところがらかとのがるれどいづくもかりのやどときこゆる

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集246(245)

 

 

やすらひてねやの窓より仰ぎ見れば高くぞ月のさしのぼりたる

いりあひのこゑする山の影くれて花のこのまに月出でにけり

永福門院 玉葉和歌集春下213

 

やすらひて:(寝入ることを)躊躇って

 

 

いなこれは星の冴ゆる夜ながらふる身には馴れざるものゝあはれを

月をこそながめなれしかほしの夜のふかきあはれをこよひしりぬる

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集252(251)

 

 

けふ星を初めて見たるこゝちして言問ふひとにつらなるか空

月をこそながめなれしかほしの夜のふかきあはれをこよひしりぬる

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集252(251)

 

言問ふ:尋ねる

 

 

山鳥のしだり尾長き夜を越えてかはらぬ影ぞさむしろを訪ふ

葦引の山鳥の尾のしだりをのながながし夜をひとりかもねむ

柿本人麻呂 拾遺和歌集恋三、778
 

ひとりぬる山鳥のをのしだりをに霜おきまよふ床(とこ)の月かげ

藤原定家 新古今和歌集秋下487

 

さむしろ:「狭筵」、筵のこと。

 「寒し」を響かせる。

 

 

寄せかへるかたもなぎさの浜千鳥のあしあと洗ふ志賀の浦波

よりくべきかたもなぎさのもしほ草かきつくしてし若の浦なみ

藤原定家 拾遺愚草上1298 内裏百首

 

かた:「潟」「方」を掛ける

 

なぎさ:「渚」「無き」を掛ける

 

 

かき曇る空に霞を紛へつゝひと夜の春を立つる夕暮れ

あしのはに一夜(ひとよ)の秋を吹きこしてけふより涼し池の夕かぜ

伏見院 玉葉和歌集夏446

 

 

我がおもふひとにあふみの海を背にあらたまの年を又や迎ふる

こひしのぶ人にあふみのうみならばあらきなみにもたちまじらまし

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集259(258)

 

あふみの海:

 建礼門院右京大夫の旅した

 近江の琵琶湖のこと。

 「ひとに逢ふ」を掛ける。

 

 

世の常もさかしら言もさもあらばあれひとゝ我れとのとこしへの夢

 

さもあらばあれ:どうとでもあれ、

 そうあるというならば好きにせよ

 

 

のちの世は忘れそ誰れかみづぐきのあとは煙と消え果てぬとも

われならでたれかあはれとみづぐきのあともしすゑの世につたはらば

建礼門院右京大夫 建礼門院右京大夫集1

 

のちの世は忘れそ:

 この先の世は

 この悲劇を忘れないでおくれ

 

みづぐき:筆跡を意味する「水茎」に

 「見」を掛ける。

 

消え果てぬとも:

 消え果ててしまうとしても

 

 

見しこともはた見しひとも面影も寿永四年もさはれうつせみ

見しこともみぬ行(ゆく)すゑもかりそめの枕にうかぶまぼろしの中(うち)

式子内親王 式子内親王集97

 

 

 

続きはまた明日。

 

 

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