書きなぐり。 -3ページ目

Kくんの性格

Kくんとは、なんとなくよく会うようになっていた。

新しい一人暮らしの家を探した時も不動産屋に付き合ってもらったし、仕事も手伝ってもらったりしてた。

 

仕事に関しては、Kくんがいなければ私はこんなに仕事もらえなかったと本当に思っている。なんとなく絵が上手い人と、お金をもらって仕事をするのでは天と地との差があるって分かるようになった。仕事をもらえるようになったのは本当にKくんのおかげだ。

 

ちなみにセックスはしていなかった。なんとなく、しなくても仲良くなれたのでまぁいつでも出来るだろうと思っていた。

 

私の家でよく二人で仕事をした。Kくんもイラストレーターをしていたので、同じ部屋でお互い仕事することが多かった。

 

でも私の家、男子禁制だった。

 

大きな玄関の鍵と、中には各自の部屋の鍵。二つの鍵があって、みんなの廊下には共同の洗濯機があった。私はよく、タオルを巻いたまま洗濯機まで走ったりしてた。人がいるかもしれないスリルはそれはもう恐ろしかったな。(じゃぁ服着ろよ)

 

そんな家にKくんを呼んでこっそり家に入れてた。

Kくんはそんなに外に遊びに行かない人だったので、家で寝たり起きたり仕事をしたりしていた。

 

私はよくKくんを家に置き遊びに行っていた。

どうしてもKくんが家を出なきゃいけない時は私も家に帰ってこっそり外へ送り出したりしていた。

 

一度、私が風邪で動けなくなった時、Kくんが一人で家を出たら隣の美容室を経営している大家さんに見つかり注意を受けた、ということもあった。

 

そんなこんなあって、なんだか半分監禁していたようなもんだった。(誠に申し訳ない)

 

Kくんは私の言うことはなんでも聞いてくれた。

仕事も手伝ってくれたし、なんでもしてくれた。

私はなにも考えずラッキーと思っていた。

 

しかし色々話してみるとKくんは、人に頼まれごとをされると断れないのだと言う。私に対してもそうだと言う。

「いやだって言ってよ!言えばいいじゃん!」

「言えるなら言ってるよ」

「いやだぐらい言えるでしょ!」

「言えないんだよ」

 

あと、飲み会がある時「行きたくないな〜!」と言いながら準備していた。

「飲み会行きたくないなら行かなきゃいいじゃん」

「行きたくないけど断るぐらいなら行く」

「行きたくない人に来てもらっても相手嬉しくないよ」

「行きたくない雰囲気は一切出さないから」

 

 

私には想像できないぐらい、Kくんは気が小さい。

人を優先し、自分を殺し、相手に合わせ、そうして今まで生きてきたようだった。

 

よく考えるとそれはまるで私と同じだった。

 

だけど私はフーゾクで働くようになり、自分にも価値があるとわかるようになり、いやな時はいや、痛い時は痛いと言えるぐらいまでは精神が健やかになっていた。

 

「Kくんにも価値があるんだからさ」

「そう思えるなら最初から思ってる」

半分キレながらKくんは言った。

 

私は、もしかして?と思った。

「Kくんのお父さんってどんな人?」

「ものすごく怖い。突然怒鳴ったりすることが多くて、気が利くおれはそれをなだめる係だった」

 

それだ。

「Kくん、それが原因だよ。お父さんを怒らせないためにずっと気を使うのが癖になってるんだよ。Kくんの性格はKくんが悪いんじゃないよ」

 

「違う!自分の性格は自分が作ったもので他の人は関係ない!」

Kくんは強く反抗した。

 

Kくんの気持ちはわかるけど、性格ができるのには環境が大きく影響していると私は思っていた。何度もKくんとKくんのお父さんの関係を説明してKくんの性格はお父さんの行動が大きく影響していることを説明した。

 

Kくんはずっと、周りの人を怒らせないように生きてきたんだ。

お父さんの怒りをなだめた昔のように。

いつ怒られるかビクビクしながら、生きてきたんだ。

 

Kくんが言った。

「そうかも…」

Kくんは泣いていた。

 

「性格は癖だから、原因が理解できればだんだん治っていくよ」

ゆっくり治そうねと言う話をした。

 

「うらんちん、なんでそう言うことわかるの??」

「なんでだろう。私もそうだったからかもね。」

 

でも私は気が利かないから、人を怒らせてばかりだった。怒られたくないし、人が怒られてるの見るの苦手だけど、そこまではKくんと同じだけど、気が利かないから私はそのばを収めることは出来なかった。

 

それがKくんはどうだろう。いつも、その場で起こっていることを一番うまく気を利かせる。気が利くからいつもその役になっていたのだろうな。

 

Kくんには兄弟が二人いた。だけど二人とも気が強く、Kくんのようではないと言う。

家の中で、人の気持ちを察しなだめうまく回していたのは、Kくんだけのようだった。

 

そりゃつらいわ。そりゃこうなるわ。

 

電車などの大きい音も心臓がぎゅーっとなるぐらい苦手だと言うKくん。

そりゃお父さんが突然怒鳴る生活にいたならそうなるよね。

人が困ってるのを見てられない。

突然怒鳴られるお母さん見てたらそうなるかもね。

 

なんだか私自身も、考えたことで色々なことがわかった。

 

Kくんが私に心を開きだすようになったのはこのころからだった。

Kくんのネックレス

二週間後、またKくんと会う約束をしていた。

今度はファミレスで会うことになっていた。

 

今日こそセックスしてやるぞ!

私は力強くそう思っていた。

セックスをしたら人は人と仲良くなれる、当時の私は強くそう思っていた。でも自分からは恥ずかしくて誘えないから、どうにかKくんがそのきになってくれますように。。。

 

ファミレスで無事に再会した私、まずKくんの首にぶら下がっているネックレスに目が止まった。

 

 

…ダサい。ものすごくダサい。

 

イルカの石にヒモがついたようなそのネックレスのダサさに、私はKくんと目を合わせることができないぐらいの衝撃を受けた。

 

「久しぶり〜」Kくんは言う。

「…う、うん」私はしたを向いたまま言う。

 

しばらく何か話をした(全く覚えてない)私たち、突然Kくんが怒り出し言った。「なんで俺の顔見ないの?」

「なんだよ、なんかあるなら言いなよ」

「う、うん、あの…いや…」

 

ネックレスがダサすぎて恥ずかしくて顔が見れないなんて言えない。

今の私なら、違うネックレスでもプレゼントして

「こっちの方がいいと思うよ!」なんて言えるだろう。

だけど当時の私、激烈人見知りだし、人と話す能力が低すぎた。

だけどKくんのネックレスはダサすぎて目を見て話すことができない。

 

「もういいよ!なにも言わないならもう帰る!」

ついにブチキレたKくん。

 

焦った私、ついに口を開く。

「ネックレス…」

「え?ネックレス?これ?これがどうしたの?」

「ダサい…」

「なんて?今なんて?」

「ごめん、ネックレスダサすぎて顔見れない」

 

その後、Kくん、顔を真っ赤にして怒った。

怒鳴り散らして、私はずっとごめんなさいを繰り返した。

これはセックスどころではない。

失敗した。

しかしネックレスがダサすぎた。

 

その日はおもくそ怒られて帰った。

なにもせず。

 

今でも思う。あのネックレスはダサかった。

私ももっと言い方があったと思う。

 

プライドの高いKくんに、「ネックレスがダサい」は効いただろう。だからあんなに怒ったんだろう。

本当に申し訳ないことをした。

 

でも、ネックレスは死ぬほどダサかった。

 

 

そした私はまたもKくんとセックスをする機会を失った。

だけどなぜか次に会う約束もしていた。

Kくんは怒りながらも、イラストの描き方を教えてくれたし、次会う約束もしてくれた。

 

私は怒られながら次の約束をしてくれたKくんがなにを考えているのかわからなかったけど、また会いたいなって思ってた。

 

ネックレスをしていないのだとしたらだけど。

 

Kくん

店長との別れ話、初めての一人暮らし、バタバタとしていたその頃知り合った人がいた。Kくんである。

 

Kくんは、私に初めてイラストの仕事をくれた編集の人の紹介で知り合った。10個以上年齢が上の人で、仕事としてのイラストの描き方を教えてくれるとのことだった。私はKくんと高円寺の飲み屋で待ち合わせをして初めて会った。

 

Kくんは「ウィーす。どうもどうも」と店に入ってきた。

ウィーすという割に、どうもどうもと気さくに話しかけてくれる割に、どうも何かものすごい距離を感じた。

 

Kくんは挨拶もそこそこ、早速ノートとペンを出し、私に、イラストの描き方を教えてくれた。イラストは、雑誌に載るサイズより1、4倍大きく描くのが一番綺麗に出来上がること、漫画用のケント紙を使うとイラストのサイズを測るのに便利なこと、ロットリングペンを使うと、Gペンよりも楽なこと。

 

色々教えてくれるのだが、私はこの距離感に疑問を持っていて、イラストの話が頭に全然入ってこなくて、じーっとKくんを観察していた。

 

そして距離感の理由がわかった。

 

とにかく目が合わないのだ。

 

私はKくんがどうして私と目を合わせてくれないのか疑問でずっとKくんの動きを観察していた。

 

後で聞くと「うらんちん、全然俺の話聞いてないからスッゲー腹たったよ!何言っても無表情だし無反応だし。」と言っていた。

 

そりゃそうだろうな。私は自分の考えを否定されるのがいやでいつの間にか自分を表に出さない性格になっていたのだった。

ただ、可愛くしていれば人は好いてくれる、って思ってた。

 

Kくんは一人で喋ってた。作り物のテンションの高さでうまいこと人間関係築こうとして思いっきり不自然な空気を醸し出し、結果失敗している。

 

でもKくん、目がキラキラしていて、どうも悪い人には思えない。

もう少し仲良くなってからイラストの話をもう一度聞きたい。

 

おう、そうだ。一度寝てみよう。

なんと私は初めて会ったばかりのこのKくんとセックスを介して仲良くなろうと思ったのだ。

 

しかし私も当時20歳。フーゾク嬢だとは言え、自分に会いにきてくれるお客さんならまだしも、知らない人をセックスに誘うすべを知らなかった。Kくんのことを言えない。私も負けじと死ぬほど人見知りだった。

 

イラストの話、まだ終わらないかなぁ。早く普通の話して、セックスしようって言ってくれないかなぁ。

私のイラストへの興味のなさに、Kくんはものすごい腹を立て、もう二度と会うもんかこのくそったれと思っていたらしい。

 

私も人見知り全開ながら、「今夜はセックスはないらしい」と察したが、どうにかこうにか次会う約束を取り付けた。

 

それぐらいにはKくんは謎の魅力があったし(とにかく目がキラキラしていた)、それなのにどうしてこんなに生きづらそうにしているのか興味があった。

 

Kくんとは二週間後ぐらいにまた会う約束をして別れた。

 

次こそは寝てやる!

私は強く心に誓った。

 

本当は寝たいんじゃない。当時の私は、男性とは一度寝ないと、人とコミュニケーションが取れなかった。

だからやるしかなかった。

 

さて、Kくんとどうなることやら。

 

フーゾク。店長とセックスレスと。

店長と付き合ってて1番辛かったのはやはりセックスレスだった。セックスなしでは自分に自信が持てず、相手に好かれてると思えない卑屈なわたしにとって、セックスは本当に大事な行為だった。

だけど店長はセックスどころか、少々潔癖症なところがあり、私が接客したあとはキスもしてくれなかった。

最初は休めず週7日働いていたお店もだんだん落ち着き、あたらしい従業員も雇い(日給1万らしい)、女の子も増えた。

店長はたまに早めに家に帰ってくることも増えた。私は店長とセックスがしたかったので、ご飯の後それを言う。決まって店長はこう答えた。「疲れてる」

店長は、たぶん、私のことを性的な目で見れなくなっていたと思う。
お店で一日中男の人とイチャコラしてるのを考えるだけでも、気持ち悪かったんだと思う。
実際、接客後はキスもしてくれなかったし。イソジンでうがいしてるのに…!!

疲れたと繰り返す店長と、セックスがしたい私の攻防は長い間続いた。

ただの看板娘と思っているなら、ヤキモチは妬かないと思う。だけど店長は取材中、隣の部屋で聞き耳を立ててたぐらいヤキモチ焼きだった。

だから、私のことを好きではいたと思う。
私も店長が好きだった。

だけどセックスができない。
私から体触ったりしたことも何度かあるけど、彼のチンコは勃たなかった。悲しくて情けなくてトイレで泣いた。

私も理解がなかったとは思う。店長の立場で私を見たら、やる気にならない日々を送っていたことも想像できた。一日中お客さんのチンコをくわえているんだよ。俺も帰ったらヤロう!とは、やっぱならないよね。店長、繊細だし。

わたし、汚れてるんかな、とも思った。
やっぱりフーゾクってそういうもんかなって。

だからか分からないけど、店長はわたしを半年で引退させようとしてた。半年でがっつり稼いで引退。結婚。それが店長の望み。

本当にお店で稼いで欲しかったらそんなこと言わなかったと思う。できる限りいつまでも人気嬢を手放したくはないだろう。

わたしは店長に好かれているなぁと思う時と、セックスを拒まれ、受け入れてもらえない悲しみにくれるときと、交互にあって混乱した。

なんでセックスもできない相手と結婚するの?これからわたしはなんになるの?お手伝いさん?

日々そう思ってた。

優しいお客さん(指名のお客さんは基本優しい)との接客中の方が、店長といる時より楽しかったし嬉しかったな。

その時からもう、終わりは見えてたようなもんだよね。

フーゾク。浮気

フーゾクでめちゃ忙しくお店も休めなかった時、店長も忙しく家に帰ってこれない時がよくあった。
前の初彼氏が1日3回セックスする人で、彼氏が変わったら急にセックスをしなくなって、わたしはどうしてもセックスがしたくて困ったなぁと思っていた時があった。
わたしのセックスは性欲によるものではなく、他者に受け入れてもらうことで自分の価値を確認する作業だった。だからやってないとどんどん卑屈に自己評価が低くなってしまう。
わたしはやるしかなかった。
だけど店長は家にも帰ってこない。
たとえ家に帰ってきても、疲れてると言ってセックスしてもらえなかった。

ある時取材できたカメラマンの人に取材後「外で会おうよ」と言われた。取材は夕方仕事が終わる頃にあったから、もうすぐ仕事終わるから外で待っててくださいとお願いした。
会っちゃいけないのはわかっていた。しかも店長の嫌いなエロ本系カメラマン。わたしは店長に内緒でその人と会うことにした。

店長にバレたらどうなるかわからない。だけど、誰かにセックスしてもらえないとわたしは自分に自信がなくなって卑屈になってしまう。それは何をしてもどう考えても変わらない事実だった。その時は。
ごめんなさい店長。わたし浮気します。

仕事が終わり、外で待ち合わせしてたカメラマンと合流。わたしの家に行くことになった。わたしの家と言っても、ほんとは店長の家。人んちに、おとこを連れて帰る(しかもその日出会った人)。わたしも相当頭おかしいけど相手のカメラマンもよくきたなと思う。「本当に帰ってこないの?」って何度も言われた。「うん。帰ってこないから」何度も言った。

部屋に入ったら「服脱げ」と言われた。突然のことで「は?」ってなった。だけど相手は本気だった。「脱げよ」
それから、乱暴にセックスされた。お店の優しい人に慣れてたから怖かった。だけど人に求められてるって思えてありがたいと思った。

男の人はわたしより偉いと思っていた。男の人がいないと(セックスしてもらえないと)わたしは自分の価値を知ることができないし自信を持つことが出来なかった。だから乱暴なことも耐えた。ありがたいありがたいと思って、した。

終わってシャワーに入ろうと言われた。あ、優しくなった。と思った。男は必要と言えどもやはり優しい方が良い。わたしは嬉しくなってシャワー室に行った。

「飲めよ」男の人はわたしにおしっこを飲ませようとした。今なら「バカヤロウお前が飲め」ぐらい言えるんだけどその時は言えなかった。言えなかったけど、飲めなかった。「ごめんなさい」と言いながら体におしっこをかけられて情けない気持ちになった。自信を持つためにセックスしてるのになんでこんな情けないことになってるんだろう。って思いながら、終わるのを待った。

またしてくれる、そう思っていた。この人はわたしとセックスしてくれるんだからまたデートしてくれるはず。そう思ってた。

シャワーから出て服を着て、彼は帰っていった。よく考えたら、連絡先も知らなかった。もう二度と会うことはなかったのだ。

セックスすれば自信満々で元気になれるわたしも流石に落ち込んだ。なんだったんだ今のセックス…。

だけど、誘ったのはわたしだし、家に連れてきたのもわたし。セックスしたら人はまた会おうとかデートしよっていってくれると思ってたし、優しく抱いてくれて好きっていってくれるのが普通と思ってたから、悲しかった。

心がズタズタになって、その日は寝た。
取材でまた会えるかな?とも思ったけど、その人と二度と会うことはなかった。

フーゾク。卑屈なセックス感。

 
イラストの仕事はどんどん増えていた。月に10本の連載と他に単発のイラスト、取材、コラム、など。店にはもう毎日行くことができなかった。二日三日にいっぺんは締め切りがあるのだ。その他に取材や打ち合わせがある。
もう、毎日お店に行くなんて絶対に無理。
 
だけどフーゾクを辞めることは考えられなかった。わたしを生かしてくれたのはフーゾクだった。1人で暮らせるようになったのも、イラストを描くようになったのも、フーゾクのおかげだったし、何よりお客さんと過ごす時間がかけがえのないありがたい時間だった。
 
お店に行けば誰かがわたしを求めてくれる。お店の人も優しかった。お客さんはもっと優しかった。取材で会う女の子もみんな可愛くて優しかった。この世界で一生生きていきたい、そう思った。どんなにイラストが忙しくなっても、フーゾクは絶対やめないぞ、と思っていた。
 
セックスは好きだった。何故なら人が喜んでくれるから。男の人はわたしを受け入れてくれるからただそれだけで大好きだった。
 
そのころ、お客さん以外の人に知り合って誘われたらすぐ寝た。
だって相手が喜んでくれるから。
わたしが拒む選択肢はなかった。せっかくセックスしたいって思ってくれる人に「いやだ」なんて言えなかったし、そう思っては失礼だと思っていた。誘われ次第寝た。誘ってくれなかったら誘って寝た。
 
だが、だんだんと、誘われては寝るを繰り返していたら「あ、こりゃキリがないわ」と思うようになった。それで、だんだんそういう誘いを断ることも考え始めた。だけど、相手の望みを断ることがなかなかできなくて悩んだ。わたしなんかが断るなんて何様だよ、って考えが頭から消えなかった。断りながらもモヤモヤしてごめんなさい…ごめんなさい…ってつらくて、結局やったほうが早いんじゃないか?とも思ったりした。
 
その頃は流されてやることが多く、そんな自分がいやだったし、断る自分もいやだったしどうしたらいいかほんと悩んだ。
 
だけど、人生で1番気持ちが楽になるのはセックスしている時だけだった。その時だけは何もかもから解放された。
 
わたしは、人に求められることにどっぷり依存していた。自分自身は自分のことが好きではなかった。人がわたしを認めてくれることでしか自分の価値を感じられなかった。
 
卑屈オブ卑屈である。
 

フーゾク。店長の変化

1人でやって行くと決め、店長に勝手にしろと言われ、店長の考えが変わらないうちにと、わたしは早速一人暮らしの家を探した。不動産で安いワンルームを見に行き即入居を決めた。

 
店長が貯めていてくれたお金は500万ぐらいあったが、わたしは「どうせくれないだろうな」と思っていた。でも別れられるならそれでいい、お金はまた稼げばいいって思ってた。
 
だけど別れ話した後、「何かあったらまた頼ってきていいからね」と優しく言われ、店長は通帳とカードを返してくれた。
 
やったー!しばらくは貯金で暮らせる、フーゾクを止めることもしなくて良い、イラストも好きなだけ描ける!!
 
野方のワンルームは狭くて日当たりも悪く、いい部屋とは言えなかったけど、わたしのお城になった。
 
しかし、そううまくはいかないことになる。
店長が、ストーカーみたいになったのだ。
 
仕事で使っていた家電話が毎日鳴る。
店長からだった。
わたしは最初のうちは怖くて電話に出ていた。だけど、「やっぱり別れたくない」「戻って来い」「1人なんて君には無理だ」「心配させないでくれ」なんやかんや言っては、わたしを取り戻そうとする。そのうち電話に出るのをやめた。電話は1日に何回も何回も鳴った。
 
その頃持ち始めたケータイにも毎日毎日着信があった。どっちもわたしが出ないとわかった店長は、仕事で使っているFAXに手紙を書いて送ってくるようになった。
 
「君がいない生活が寂しい。戻ってきてくれ。どんなに愛されていたか今ならわかる。僕も愛している、きみしかいない」
 
FAX一枚びっしりと、そんな言葉が書いていた。
 
10分後、またFAXが届く。
「おまえのせいで俺の人生ボロボロだ。罪を償え。他のフーゾク店で働けないようにしてやる、覚悟しろ。イラストもかけない腕にしてやる」
 
10分後、またFAXが。
「君しか愛せない。はやくもどってきて」
 
あたまおかしくなったんじゃないかってぐらい交互にファックスが止まらなかった。最初は見てたけどそのうち怖いだけだから見ないようになった。それでもファックスは届き続けた。こっちのあたまもおかしくなるかとおもった。
 
他の店で働けなくなるのかな…そう思ったけど、池袋のイメクラに面接に行ったら即採用してくれた。1日35000円の保障付きで。
あ、なんだ。働けるんじゃん。脅されてただけなんだ。わたしはホッとした。
 
ファックスはだんだん届かなくなっていった。
しかしある時実家に帰ってた時、久々に店長から電話があった。何故かわたしは電話に出てしまった。
店長は言った。「いま、野方駅にいるから出てきて」
 
ゾッとした。約束も何もしてないのにわたしの最寄駅に来てる。
怖い。めちゃ怖い。
 
だけどわたしは実家にいたから駅にはいかなかった。もし自分の家にいたら、怖くて行っていたと思う。実家にいてよかった…。
 
それから店長からの連絡は無くなった。
 
よく考えると、店長とは言え、その時店長は25〜6歳だったと思う。今考えるとまるで子供。背が高くて黒いスーツに黒いシャツ着て違う世界の人に見えたけど、ただの、心の弱い若者だったんだなと思う。
 
さようなら。店長。
 
わたしの考えとは一致しなかったけど、店長に好かれたことは嬉しかったです。お店で指名が埋まるようになったのも、流されて本番する嬢にならなかったのも、全部店長のおかげです。ありがとう。でもさようなら。
 
二度と会いたくないです。
 

フーゾク。店長との別れ。

店長と付き合って半年ぐらい経った時、わたしはイラストとフーゾクの仕事で昼よ夜もなく働き続けていた。

 

どんなにイラストが忙しくても店長はお店を休ませてくれなかった。
 
店長とケンカするたびに「俺は子供時代父親がいなくて祖母と母に手を引っ張りあいをされた。」「こっちへこい、いやこっちだ」「俺は傷ついた、悲しかった」そんなことを毎回言っていた。
 
最初は「なんてかわいそうなんだろう」と同情したが、ケンカするたびに同じことを言うので「あ、これって、同情してケンカに勝とうとして言ってるだけだ」と思うようになった。
 
イラストは月に何本もレギュラーの仕事が決まっていた。
 
フーゾクをやりながらイラストを描いて暮らしたい。
でも店長といると、好きなイラストが好きなだけかけない。
わたしは困ってしまった。
 
だけど店長無しで一人暮らしなんて出来るだろうか。わたしは店長に依存していた。最初の彼氏にそうだったように同じように相手に依存していた。店長がいないところで生きて行く自信もなかった。だからしばらくはイラストとフーゾクの掛け持ちで店長とケンカしながらなんとかやっていた。
 
家では私はご飯を作る係になっていた。わたしは店長が帰ってくるまでにイラストの仕事を終えてご飯を作らなきゃいけなかった。それでもわたしは店長が好きだと思ってたし店長もわたしのことを1番に考えてくれていると思っていたから頑張ってご飯を作った。
 
店長はご飯を出しても、いつも「いただきます」も「おいしい」も「ごちそうさま」も何も言わなかった。それらを言うのが当たり前だと思っていたわたしは、親に教えてもらってないのかな?と思った。
 
「ねぇ、ご飯美味しい?」お代わりを要求された時、ふと聞いてみた。わたしだってせっかく慣れないご飯作ってるんだから「美味しい」ぐらい言われたい。美味しくないならそれはそれで改善したい。
 
店長は言った。「美味しくないならお代わりしないでしょ。それぐらい分かってよ」
 
わたしは悲しかった。ご飯を作ってあげてるとは思わなかったけど、「美味しい」とか「ありがとう」ぐらい言われたかった。普通そう言うだろ、とも思った。人に普通を求めるのは当たり前だと思っていたんだあの時は。
 
ごちそうさまも言わずリビングに戻ってテレビを見る店長。何も言われず、食事の片付けをするわたし。
イラストの締め切りは明日だった。だけど店長のいる時間はイラストを描くと怒られる。
 
わたしは、店長が眠ってからイラストの仕事をするようになった。わたしが睡眠時間を削ればいいだけの話。付き合ってくれてるのに何もかも求めるのはいけないことだ。人を不快にさせちゃいけない。そう思い込んでいた。
 
いつものように夜中1人でイラストを描いていたら店長がトイレで起きてて言った。「まだやってんの?」
一生懸命仕事をしているのに、やりたいことをがんばっているのに、そんなこと言われるとは思ってなかった。わたしは何も言い返せず黙っていた。なんか、よく分からないけど悲しくて泣きそうだった。
 
もうだめだ、そう思った。
 
結婚のためのフーゾク引退の話も着々と進んでいた。わたしのいないところで。店長だけがそれを決め、それに向かって動いていた。
 
フーゾクで人とコミュニケーションとれるようになったわたしはフーゾクと離れられなくなっていた。接客は大好きだったしお客さんはみんな優しかった。わたしは悪魔になるためにフーゾクに入ったはずなのに、みんなに「天使だ」「女神だ」言われ、気分も良かった。嬉しかった。みんな大好き!そう思っていた。
 
「引退したくないな…」
「イラストの仕事!もっと頑張りたいな…」
毎日そう考えるようになった。
店長が帰ってくる時間が憂鬱になった。
 
ちなみに、店長とはもうずっとセックスレスだった。多分店長は毎日毎日セックスのある環境の中で過ごし、セックスが嫌になっていたんだと思う。あと、わたしが接客した後はわたしに触りたがらなかった。汚いって思ってたんだと思う。
 
わたしは店長と仲良くするためにセックスしたかったけど、店長はそれを拒んだ。「疲れてる」と言われて、わたしがまるで性欲お化けみたいじゃん、って毎日悲しくなった。
 
「もうだめだな…」
わたしは店長と別れる決意をした。
 
それは、これから1人で生きて行く決意と同義だった。もう誰も守ってくれない。困った時店長に甘えられない。1人で家賃を払って生きて行くんだ。やったことないしまるで自信がない。だけどもうこのままではいられない。
 
ある時店長と2人リビングにいる時「別れたい」そう言った。
店長はティッシュの箱を壁に投げつけた。
バコン!と音がしてわたしの心が縮こまった。
怖かった。人にそんな敵意を向けられたことが初めてだった。その後店長はいつもの自分の小さい時の話をしながら泣いた。
 
まただ。。だめだ、それに同情してはいけない。わたしはこのままではイラストもやめフーゾクもやめ、専業主婦になることになっている。そんな人生嫌だ。自分のやりたいことやりたい。わたしが悪魔ならそれで良い。わたしは1人で生きて行く。
 
「どうやって暮らして行くの?1人で家賃払って生きていけるわけないじゃん。君がそんなことできるわけないよ」
わたしの心が揺らぐ。「そうだよな。」
 
だけどもうダメだった。このまま店長の思い通りにはわたしはなれない。
「1人でやって行く」
「勝手にしろ」
 
そうしてわたしは店長と別れることになった。

フーゾク。イラスト。

ある時名鑑の取材で、編集の人に「趣味は?」と聞かれた。私は「絵を描くことです」と答えた。普段ならそこで終わるんだけど、そのときの編集の人がメモ帳を出して「ここにイラスト描いてみて」といった。

私はいつも描いていたような女子高生のイラストをさらっと描いた。

「もし仕事でイラスト描くようになるとしたら描ける?」

え!それ、夢なんですけど!私は浮かれて言った。

「はい!描きたい!!」

 

数週間して、お店の電話にその編集の人から電話があった。

「うらんちゃんにイラストを描いて欲しい」と。私は浮かれた。イラストが雑誌に載るんだ!嬉しい!絵を描くことが大好きだったし、将来は漫画家になりたいって昔思ってた。フーゾクで働いて、まさかこんなチャンスがくるなんて!店長!描いていいよね!?イラスト!!

 

しかし店長は言った「エロ本の編集とかカメラマンなんて、くずばっかでロクなやついない。騙されるだけだからやめとけ」

でも、個室で取材してくれたその編集の人はいい人だったと私は思ってた。私の人を見る目には自信ないけど、イラストを描かせてくれてお金くれるなんてこんなチャンス逃したくない。私は店長に一生懸命お願いした。

「まぁ、わかったよ。好きにしなよ」

やったー!

店長のお許しが出た!

私は編集の人と連絡を取り合って、初めてイラストの仕事をすることになった。雑誌にイラストを描くことは生まれて初めて。やり方も描くペンも紙もサイズも、何もかもがわからなかった。

だけどその編集の人は優しく教えてくれた。最初は「好きな紙に好きな大きさで女子高生を何人か描いてみて。あとはこっちでやるから。」

わたしはいつも描いているように女子高生の絵を描いて編集部に持っていった。

 

一ヶ月後、雑誌の読み物ページに私のイラストが載っていた。感動した。フーゾクで働くことも好きだったけど、イラスト描いたときの感動はすごかった。嬉しかった。

それがきっかけになって私はもっとイラストを描きたいと思うようになった。私は名刺を作って取材に来てくれた人に営業をかけるようになった。編集部に遊びに言っていいですか?って許可もらって後日編集部に遊びに言っていろんな雑誌の人を紹介してもらって名刺交換した。

私はフーゾク誌では有名人になっていた。編集部に行くと「うらんちゃんだ!」ってよく言われた。名刺交換するのは簡単だった。相手がもうすでに私を知っているから。

 

イラストの仕事が、どんどん増えていった。フーゾク嬢としての日々を描いたマンガやイラストを書き出したのが初めで、そのうちコラムや全然フーゾク関係ないイラストも頼まれるようになった。

私は昼はお店、夜は家でイラストを描くというめっちゃくちゃ忙しい生活をしだす。

店長はそのことを面白く思っていなかった。

半年したら結婚してフーゾクやめるんだから、それまでは好きなことしていいけど、あんまり本気になるなよという感じだったし、まず私が編集部に行ったりカメラマンと飲みに行くとかそういうのもすごく嫌がってて、結構そのことで喧嘩するようになっていった。

 

何にもないワンルームから、私たちは2LDKの大きな家に引っ越しをしていた。お店も少し安定し出して他の従業員もいたので店長は夜1時ぐらいには家に帰ってくるようになっていた。

だけど私がイラストの締め切りを抱え家でイラストを描いていると帰ってきた店長に怒られた。

「俺が帰ってきてるのにまだ何してんの?」

「帰ってくるまでに終わらせといてよ」

だけど締め切りもあるし私はギリギリまでイラストを描きたいと思っていたから、店長が帰ってきてもまだ仕事してるということが増えていって、だんだん店長のことを一番にできなくなっていった。

喧嘩になると店長は自分がすごく可哀想な子供時代を過ごしたんだという話をよくした。母親とおばぁちゃんに手を引っ張られ、こっちへ来い、いや、こっちだと引っ張り合いっこされたと。そういう話をしながらよく泣くのだった。

私はできれば店長を怒らせたり嫌な気持ちにさせるのは嫌だなと思ってた。だけど、締め切りがある。やっぱりイラストを優先させないといけないから、店長のことがだんだん嫌になっていった。

フーゾク。取材。

ストーカーになった元カレは、私に初めて話しかけてくれた異性だった。話しかけてくれる人がこの世にいるんだと驚き、おしんのように献身的に尽くした日々。約2年。

ストーカーになったその元カレから逃げるように家を出てフーゾクの店長と付き合いながら仕事をすることになったんだけど、よく考えるとそれも、個室で優しく話しかけてくれたから好きになったようなもんだった。私を落としたかったら、優しくすればすぐだった。ちょろい女だ。

 

あと、日々お客さんと会うことで、卑屈さが少なくなっていったように思う。男の人はセックス(本番なし)を提供すれば優しくしてくれてお金もくれる。これは私の人生にとって大発見だった。

 

10代は男の人とまともに喋れなかったけど、20歳になりフーゾクのおかげで私は男の人を克服することに成功した。セックスがあれば、だけど。

 

だけど女の子と普通に喋るのが苦手だった。女の子はセックスを求めてくれない。与えても受け取ってくれない。私はどうしたらいいかわからなかった。

 

取材は定期的にあった。基本的にお店の部屋の中で編集の人とカメラマンが来て写真を撮ってくれる。

たまに、いろんな店の女の子を集めて写真を撮る取材もあった。撮影場所に行って、みんなで裸になってきゃっきゃきゃっきゃと写真を撮る。

 

雑誌に載る子は、自分が写った雑誌をチェックするがてら、他のお店の可愛い女の子をチェックする。この子かわいい〜!憧れる〜!ってことがよくある。そんで、私がその対象になることも増えていった。

 

スタジオの着替え室で声をかけられる。

「〇〇(店名)の、うらんちゃんですかぁ?」

「うん、そうだよー」

「いつも見てます!嬉しい〜!本物だぁ!」

「え!〇〇の〇〇ちゃん??わぁ〜初めて生で見た!」

 

そんな会話が着替え室で繰り広げられる。

「一緒に写メ撮ってもいいですかぁ?」なんてこともあった気がする。

「今度お店行ってもいいですか?お金払うから!」なんてのも。

 

私は女の子が苦手だったけど、私のことを認めてくれる女の子とは喋れるようになっていった。うらんちゃんうらんちゃんと言われて、まるで有名人のように(ある意味、その世界では有名人だったけど)接してくれるとき私は、引っ込み思案な自分から普通の女の子に変わることができた。

 

お客さんのおかげで男の人を克服し、他のお店の女の子のおかげで女の子とも喋れるようになった。私はフーゾクのおかげで今までできなかったことをぐんぐん吸収していった。