Kくんの性格
Kくんとは、なんとなくよく会うようになっていた。
新しい一人暮らしの家を探した時も不動産屋に付き合ってもらったし、仕事も手伝ってもらったりしてた。
仕事に関しては、Kくんがいなければ私はこんなに仕事もらえなかったと本当に思っている。なんとなく絵が上手い人と、お金をもらって仕事をするのでは天と地との差があるって分かるようになった。仕事をもらえるようになったのは本当にKくんのおかげだ。
ちなみにセックスはしていなかった。なんとなく、しなくても仲良くなれたのでまぁいつでも出来るだろうと思っていた。
私の家でよく二人で仕事をした。Kくんもイラストレーターをしていたので、同じ部屋でお互い仕事することが多かった。
でも私の家、男子禁制だった。
大きな玄関の鍵と、中には各自の部屋の鍵。二つの鍵があって、みんなの廊下には共同の洗濯機があった。私はよく、タオルを巻いたまま洗濯機まで走ったりしてた。人がいるかもしれないスリルはそれはもう恐ろしかったな。(じゃぁ服着ろよ)
そんな家にKくんを呼んでこっそり家に入れてた。
Kくんはそんなに外に遊びに行かない人だったので、家で寝たり起きたり仕事をしたりしていた。
私はよくKくんを家に置き遊びに行っていた。
どうしてもKくんが家を出なきゃいけない時は私も家に帰ってこっそり外へ送り出したりしていた。
一度、私が風邪で動けなくなった時、Kくんが一人で家を出たら隣の美容室を経営している大家さんに見つかり注意を受けた、ということもあった。
そんなこんなあって、なんだか半分監禁していたようなもんだった。(誠に申し訳ない)
Kくんは私の言うことはなんでも聞いてくれた。
仕事も手伝ってくれたし、なんでもしてくれた。
私はなにも考えずラッキーと思っていた。
しかし色々話してみるとKくんは、人に頼まれごとをされると断れないのだと言う。私に対してもそうだと言う。
「いやだって言ってよ!言えばいいじゃん!」
「言えるなら言ってるよ」
「いやだぐらい言えるでしょ!」
「言えないんだよ」
あと、飲み会がある時「行きたくないな〜!」と言いながら準備していた。
「飲み会行きたくないなら行かなきゃいいじゃん」
「行きたくないけど断るぐらいなら行く」
「行きたくない人に来てもらっても相手嬉しくないよ」
「行きたくない雰囲気は一切出さないから」
私には想像できないぐらい、Kくんは気が小さい。
人を優先し、自分を殺し、相手に合わせ、そうして今まで生きてきたようだった。
よく考えるとそれはまるで私と同じだった。
だけど私はフーゾクで働くようになり、自分にも価値があるとわかるようになり、いやな時はいや、痛い時は痛いと言えるぐらいまでは精神が健やかになっていた。
「Kくんにも価値があるんだからさ」
「そう思えるなら最初から思ってる」
半分キレながらKくんは言った。
私は、もしかして?と思った。
「Kくんのお父さんってどんな人?」
「ものすごく怖い。突然怒鳴ったりすることが多くて、気が利くおれはそれをなだめる係だった」
それだ。
「Kくん、それが原因だよ。お父さんを怒らせないためにずっと気を使うのが癖になってるんだよ。Kくんの性格はKくんが悪いんじゃないよ」
「違う!自分の性格は自分が作ったもので他の人は関係ない!」
Kくんは強く反抗した。
Kくんの気持ちはわかるけど、性格ができるのには環境が大きく影響していると私は思っていた。何度もKくんとKくんのお父さんの関係を説明してKくんの性格はお父さんの行動が大きく影響していることを説明した。
Kくんはずっと、周りの人を怒らせないように生きてきたんだ。
お父さんの怒りをなだめた昔のように。
いつ怒られるかビクビクしながら、生きてきたんだ。
Kくんが言った。
「そうかも…」
Kくんは泣いていた。
「性格は癖だから、原因が理解できればだんだん治っていくよ」
ゆっくり治そうねと言う話をした。
「うらんちん、なんでそう言うことわかるの??」
「なんでだろう。私もそうだったからかもね。」
でも私は気が利かないから、人を怒らせてばかりだった。怒られたくないし、人が怒られてるの見るの苦手だけど、そこまではKくんと同じだけど、気が利かないから私はそのばを収めることは出来なかった。
それがKくんはどうだろう。いつも、その場で起こっていることを一番うまく気を利かせる。気が利くからいつもその役になっていたのだろうな。
Kくんには兄弟が二人いた。だけど二人とも気が強く、Kくんのようではないと言う。
家の中で、人の気持ちを察しなだめうまく回していたのは、Kくんだけのようだった。
そりゃつらいわ。そりゃこうなるわ。
電車などの大きい音も心臓がぎゅーっとなるぐらい苦手だと言うKくん。
そりゃお父さんが突然怒鳴る生活にいたならそうなるよね。
人が困ってるのを見てられない。
突然怒鳴られるお母さん見てたらそうなるかもね。
なんだか私自身も、考えたことで色々なことがわかった。
Kくんが私に心を開きだすようになったのはこのころからだった。
Kくんのネックレス
二週間後、またKくんと会う約束をしていた。
今度はファミレスで会うことになっていた。
今日こそセックスしてやるぞ!
私は力強くそう思っていた。
セックスをしたら人は人と仲良くなれる、当時の私は強くそう思っていた。でも自分からは恥ずかしくて誘えないから、どうにかKくんがそのきになってくれますように。。。
ファミレスで無事に再会した私、まずKくんの首にぶら下がっているネックレスに目が止まった。
…ダサい。ものすごくダサい。
イルカの石にヒモがついたようなそのネックレスのダサさに、私はKくんと目を合わせることができないぐらいの衝撃を受けた。
「久しぶり〜」Kくんは言う。
「…う、うん」私はしたを向いたまま言う。
しばらく何か話をした(全く覚えてない)私たち、突然Kくんが怒り出し言った。「なんで俺の顔見ないの?」
「なんだよ、なんかあるなら言いなよ」
「う、うん、あの…いや…」
ネックレスがダサすぎて恥ずかしくて顔が見れないなんて言えない。
今の私なら、違うネックレスでもプレゼントして
「こっちの方がいいと思うよ!」なんて言えるだろう。
だけど当時の私、激烈人見知りだし、人と話す能力が低すぎた。
だけどKくんのネックレスはダサすぎて目を見て話すことができない。
「もういいよ!なにも言わないならもう帰る!」
ついにブチキレたKくん。
焦った私、ついに口を開く。
「ネックレス…」
「え?ネックレス?これ?これがどうしたの?」
「ダサい…」
「なんて?今なんて?」
「ごめん、ネックレスダサすぎて顔見れない」
その後、Kくん、顔を真っ赤にして怒った。
怒鳴り散らして、私はずっとごめんなさいを繰り返した。
これはセックスどころではない。
失敗した。
しかしネックレスがダサすぎた。
その日はおもくそ怒られて帰った。
なにもせず。
今でも思う。あのネックレスはダサかった。
私ももっと言い方があったと思う。
プライドの高いKくんに、「ネックレスがダサい」は効いただろう。だからあんなに怒ったんだろう。
本当に申し訳ないことをした。
でも、ネックレスは死ぬほどダサかった。
そした私はまたもKくんとセックスをする機会を失った。
だけどなぜか次に会う約束もしていた。
Kくんは怒りながらも、イラストの描き方を教えてくれたし、次会う約束もしてくれた。
私は怒られながら次の約束をしてくれたKくんがなにを考えているのかわからなかったけど、また会いたいなって思ってた。
ネックレスをしていないのだとしたらだけど。
Kくん
店長との別れ話、初めての一人暮らし、バタバタとしていたその頃知り合った人がいた。Kくんである。
Kくんは、私に初めてイラストの仕事をくれた編集の人の紹介で知り合った。10個以上年齢が上の人で、仕事としてのイラストの描き方を教えてくれるとのことだった。私はKくんと高円寺の飲み屋で待ち合わせをして初めて会った。
Kくんは「ウィーす。どうもどうも」と店に入ってきた。
ウィーすという割に、どうもどうもと気さくに話しかけてくれる割に、どうも何かものすごい距離を感じた。
Kくんは挨拶もそこそこ、早速ノートとペンを出し、私に、イラストの描き方を教えてくれた。イラストは、雑誌に載るサイズより1、4倍大きく描くのが一番綺麗に出来上がること、漫画用のケント紙を使うとイラストのサイズを測るのに便利なこと、ロットリングペンを使うと、Gペンよりも楽なこと。
色々教えてくれるのだが、私はこの距離感に疑問を持っていて、イラストの話が頭に全然入ってこなくて、じーっとKくんを観察していた。
そして距離感の理由がわかった。
とにかく目が合わないのだ。
私はKくんがどうして私と目を合わせてくれないのか疑問でずっとKくんの動きを観察していた。
後で聞くと「うらんちん、全然俺の話聞いてないからスッゲー腹たったよ!何言っても無表情だし無反応だし。」と言っていた。
そりゃそうだろうな。私は自分の考えを否定されるのがいやでいつの間にか自分を表に出さない性格になっていたのだった。
ただ、可愛くしていれば人は好いてくれる、って思ってた。
Kくんは一人で喋ってた。作り物のテンションの高さでうまいこと人間関係築こうとして思いっきり不自然な空気を醸し出し、結果失敗している。
でもKくん、目がキラキラしていて、どうも悪い人には思えない。
もう少し仲良くなってからイラストの話をもう一度聞きたい。
おう、そうだ。一度寝てみよう。
なんと私は初めて会ったばかりのこのKくんとセックスを介して仲良くなろうと思ったのだ。
しかし私も当時20歳。フーゾク嬢だとは言え、自分に会いにきてくれるお客さんならまだしも、知らない人をセックスに誘うすべを知らなかった。Kくんのことを言えない。私も負けじと死ぬほど人見知りだった。
イラストの話、まだ終わらないかなぁ。早く普通の話して、セックスしようって言ってくれないかなぁ。
私のイラストへの興味のなさに、Kくんはものすごい腹を立て、もう二度と会うもんかこのくそったれと思っていたらしい。
私も人見知り全開ながら、「今夜はセックスはないらしい」と察したが、どうにかこうにか次会う約束を取り付けた。
それぐらいにはKくんは謎の魅力があったし(とにかく目がキラキラしていた)、それなのにどうしてこんなに生きづらそうにしているのか興味があった。
Kくんとは二週間後ぐらいにまた会う約束をして別れた。
次こそは寝てやる!
私は強く心に誓った。
本当は寝たいんじゃない。当時の私は、男性とは一度寝ないと、人とコミュニケーションが取れなかった。
だからやるしかなかった。
さて、Kくんとどうなることやら。
フーゾク。店長とセックスレスと。
フーゾク。浮気
フーゾク。卑屈なセックス感。
フーゾク。店長の変化
1人でやって行くと決め、店長に勝手にしろと言われ、店長の考えが変わらないうちにと、わたしは早速一人暮らしの家を探した。不動産で安いワンルームを見に行き即入居を決めた。
フーゾク。店長との別れ。
店長と付き合って半年ぐらい経った時、わたしはイラストとフーゾクの仕事で昼よ夜もなく働き続けていた。
フーゾク。イラスト。
ある時名鑑の取材で、編集の人に「趣味は?」と聞かれた。私は「絵を描くことです」と答えた。普段ならそこで終わるんだけど、そのときの編集の人がメモ帳を出して「ここにイラスト描いてみて」といった。
私はいつも描いていたような女子高生のイラストをさらっと描いた。
「もし仕事でイラスト描くようになるとしたら描ける?」
え!それ、夢なんですけど!私は浮かれて言った。
「はい!描きたい!!」
数週間して、お店の電話にその編集の人から電話があった。
「うらんちゃんにイラストを描いて欲しい」と。私は浮かれた。イラストが雑誌に載るんだ!嬉しい!絵を描くことが大好きだったし、将来は漫画家になりたいって昔思ってた。フーゾクで働いて、まさかこんなチャンスがくるなんて!店長!描いていいよね!?イラスト!!
しかし店長は言った「エロ本の編集とかカメラマンなんて、くずばっかでロクなやついない。騙されるだけだからやめとけ」
でも、個室で取材してくれたその編集の人はいい人だったと私は思ってた。私の人を見る目には自信ないけど、イラストを描かせてくれてお金くれるなんてこんなチャンス逃したくない。私は店長に一生懸命お願いした。
「まぁ、わかったよ。好きにしなよ」
やったー!
店長のお許しが出た!
私は編集の人と連絡を取り合って、初めてイラストの仕事をすることになった。雑誌にイラストを描くことは生まれて初めて。やり方も描くペンも紙もサイズも、何もかもがわからなかった。
だけどその編集の人は優しく教えてくれた。最初は「好きな紙に好きな大きさで女子高生を何人か描いてみて。あとはこっちでやるから。」
わたしはいつも描いているように女子高生の絵を描いて編集部に持っていった。
一ヶ月後、雑誌の読み物ページに私のイラストが載っていた。感動した。フーゾクで働くことも好きだったけど、イラスト描いたときの感動はすごかった。嬉しかった。
それがきっかけになって私はもっとイラストを描きたいと思うようになった。私は名刺を作って取材に来てくれた人に営業をかけるようになった。編集部に遊びに言っていいですか?って許可もらって後日編集部に遊びに言っていろんな雑誌の人を紹介してもらって名刺交換した。
私はフーゾク誌では有名人になっていた。編集部に行くと「うらんちゃんだ!」ってよく言われた。名刺交換するのは簡単だった。相手がもうすでに私を知っているから。
イラストの仕事が、どんどん増えていった。フーゾク嬢としての日々を描いたマンガやイラストを書き出したのが初めで、そのうちコラムや全然フーゾク関係ないイラストも頼まれるようになった。
私は昼はお店、夜は家でイラストを描くというめっちゃくちゃ忙しい生活をしだす。
店長はそのことを面白く思っていなかった。
半年したら結婚してフーゾクやめるんだから、それまでは好きなことしていいけど、あんまり本気になるなよという感じだったし、まず私が編集部に行ったりカメラマンと飲みに行くとかそういうのもすごく嫌がってて、結構そのことで喧嘩するようになっていった。
何にもないワンルームから、私たちは2LDKの大きな家に引っ越しをしていた。お店も少し安定し出して他の従業員もいたので店長は夜1時ぐらいには家に帰ってくるようになっていた。
だけど私がイラストの締め切りを抱え家でイラストを描いていると帰ってきた店長に怒られた。
「俺が帰ってきてるのにまだ何してんの?」
「帰ってくるまでに終わらせといてよ」
だけど締め切りもあるし私はギリギリまでイラストを描きたいと思っていたから、店長が帰ってきてもまだ仕事してるということが増えていって、だんだん店長のことを一番にできなくなっていった。
喧嘩になると店長は自分がすごく可哀想な子供時代を過ごしたんだという話をよくした。母親とおばぁちゃんに手を引っ張られ、こっちへ来い、いや、こっちだと引っ張り合いっこされたと。そういう話をしながらよく泣くのだった。
私はできれば店長を怒らせたり嫌な気持ちにさせるのは嫌だなと思ってた。だけど、締め切りがある。やっぱりイラストを優先させないといけないから、店長のことがだんだん嫌になっていった。
フーゾク。取材。
ストーカーになった元カレは、私に初めて話しかけてくれた異性だった。話しかけてくれる人がこの世にいるんだと驚き、おしんのように献身的に尽くした日々。約2年。
ストーカーになったその元カレから逃げるように家を出てフーゾクの店長と付き合いながら仕事をすることになったんだけど、よく考えるとそれも、個室で優しく話しかけてくれたから好きになったようなもんだった。私を落としたかったら、優しくすればすぐだった。ちょろい女だ。
あと、日々お客さんと会うことで、卑屈さが少なくなっていったように思う。男の人はセックス(本番なし)を提供すれば優しくしてくれてお金もくれる。これは私の人生にとって大発見だった。
10代は男の人とまともに喋れなかったけど、20歳になりフーゾクのおかげで私は男の人を克服することに成功した。セックスがあれば、だけど。
だけど女の子と普通に喋るのが苦手だった。女の子はセックスを求めてくれない。与えても受け取ってくれない。私はどうしたらいいかわからなかった。
取材は定期的にあった。基本的にお店の部屋の中で編集の人とカメラマンが来て写真を撮ってくれる。
たまに、いろんな店の女の子を集めて写真を撮る取材もあった。撮影場所に行って、みんなで裸になってきゃっきゃきゃっきゃと写真を撮る。
雑誌に載る子は、自分が写った雑誌をチェックするがてら、他のお店の可愛い女の子をチェックする。この子かわいい〜!憧れる〜!ってことがよくある。そんで、私がその対象になることも増えていった。
スタジオの着替え室で声をかけられる。
「〇〇(店名)の、うらんちゃんですかぁ?」
「うん、そうだよー」
「いつも見てます!嬉しい〜!本物だぁ!」
「え!〇〇の〇〇ちゃん??わぁ〜初めて生で見た!」
そんな会話が着替え室で繰り広げられる。
「一緒に写メ撮ってもいいですかぁ?」なんてこともあった気がする。
「今度お店行ってもいいですか?お金払うから!」なんてのも。
私は女の子が苦手だったけど、私のことを認めてくれる女の子とは喋れるようになっていった。うらんちゃんうらんちゃんと言われて、まるで有名人のように(ある意味、その世界では有名人だったけど)接してくれるとき私は、引っ込み思案な自分から普通の女の子に変わることができた。
お客さんのおかげで男の人を克服し、他のお店の女の子のおかげで女の子とも喋れるようになった。私はフーゾクのおかげで今までできなかったことをぐんぐん吸収していった。