フーゾク。店長の変化 | 書きなぐり。

フーゾク。店長の変化

1人でやって行くと決め、店長に勝手にしろと言われ、店長の考えが変わらないうちにと、わたしは早速一人暮らしの家を探した。不動産で安いワンルームを見に行き即入居を決めた。

 
店長が貯めていてくれたお金は500万ぐらいあったが、わたしは「どうせくれないだろうな」と思っていた。でも別れられるならそれでいい、お金はまた稼げばいいって思ってた。
 
だけど別れ話した後、「何かあったらまた頼ってきていいからね」と優しく言われ、店長は通帳とカードを返してくれた。
 
やったー!しばらくは貯金で暮らせる、フーゾクを止めることもしなくて良い、イラストも好きなだけ描ける!!
 
野方のワンルームは狭くて日当たりも悪く、いい部屋とは言えなかったけど、わたしのお城になった。
 
しかし、そううまくはいかないことになる。
店長が、ストーカーみたいになったのだ。
 
仕事で使っていた家電話が毎日鳴る。
店長からだった。
わたしは最初のうちは怖くて電話に出ていた。だけど、「やっぱり別れたくない」「戻って来い」「1人なんて君には無理だ」「心配させないでくれ」なんやかんや言っては、わたしを取り戻そうとする。そのうち電話に出るのをやめた。電話は1日に何回も何回も鳴った。
 
その頃持ち始めたケータイにも毎日毎日着信があった。どっちもわたしが出ないとわかった店長は、仕事で使っているFAXに手紙を書いて送ってくるようになった。
 
「君がいない生活が寂しい。戻ってきてくれ。どんなに愛されていたか今ならわかる。僕も愛している、きみしかいない」
 
FAX一枚びっしりと、そんな言葉が書いていた。
 
10分後、またFAXが届く。
「おまえのせいで俺の人生ボロボロだ。罪を償え。他のフーゾク店で働けないようにしてやる、覚悟しろ。イラストもかけない腕にしてやる」
 
10分後、またFAXが。
「君しか愛せない。はやくもどってきて」
 
あたまおかしくなったんじゃないかってぐらい交互にファックスが止まらなかった。最初は見てたけどそのうち怖いだけだから見ないようになった。それでもファックスは届き続けた。こっちのあたまもおかしくなるかとおもった。
 
他の店で働けなくなるのかな…そう思ったけど、池袋のイメクラに面接に行ったら即採用してくれた。1日35000円の保障付きで。
あ、なんだ。働けるんじゃん。脅されてただけなんだ。わたしはホッとした。
 
ファックスはだんだん届かなくなっていった。
しかしある時実家に帰ってた時、久々に店長から電話があった。何故かわたしは電話に出てしまった。
店長は言った。「いま、野方駅にいるから出てきて」
 
ゾッとした。約束も何もしてないのにわたしの最寄駅に来てる。
怖い。めちゃ怖い。
 
だけどわたしは実家にいたから駅にはいかなかった。もし自分の家にいたら、怖くて行っていたと思う。実家にいてよかった…。
 
それから店長からの連絡は無くなった。
 
よく考えると、店長とは言え、その時店長は25〜6歳だったと思う。今考えるとまるで子供。背が高くて黒いスーツに黒いシャツ着て違う世界の人に見えたけど、ただの、心の弱い若者だったんだなと思う。
 
さようなら。店長。
 
わたしの考えとは一致しなかったけど、店長に好かれたことは嬉しかったです。お店で指名が埋まるようになったのも、流されて本番する嬢にならなかったのも、全部店長のおかげです。ありがとう。でもさようなら。
 
二度と会いたくないです。