Kくん | 書きなぐり。

Kくん

店長との別れ話、初めての一人暮らし、バタバタとしていたその頃知り合った人がいた。Kくんである。

 

Kくんは、私に初めてイラストの仕事をくれた編集の人の紹介で知り合った。10個以上年齢が上の人で、仕事としてのイラストの描き方を教えてくれるとのことだった。私はKくんと高円寺の飲み屋で待ち合わせをして初めて会った。

 

Kくんは「ウィーす。どうもどうも」と店に入ってきた。

ウィーすという割に、どうもどうもと気さくに話しかけてくれる割に、どうも何かものすごい距離を感じた。

 

Kくんは挨拶もそこそこ、早速ノートとペンを出し、私に、イラストの描き方を教えてくれた。イラストは、雑誌に載るサイズより1、4倍大きく描くのが一番綺麗に出来上がること、漫画用のケント紙を使うとイラストのサイズを測るのに便利なこと、ロットリングペンを使うと、Gペンよりも楽なこと。

 

色々教えてくれるのだが、私はこの距離感に疑問を持っていて、イラストの話が頭に全然入ってこなくて、じーっとKくんを観察していた。

 

そして距離感の理由がわかった。

 

とにかく目が合わないのだ。

 

私はKくんがどうして私と目を合わせてくれないのか疑問でずっとKくんの動きを観察していた。

 

後で聞くと「うらんちん、全然俺の話聞いてないからスッゲー腹たったよ!何言っても無表情だし無反応だし。」と言っていた。

 

そりゃそうだろうな。私は自分の考えを否定されるのがいやでいつの間にか自分を表に出さない性格になっていたのだった。

ただ、可愛くしていれば人は好いてくれる、って思ってた。

 

Kくんは一人で喋ってた。作り物のテンションの高さでうまいこと人間関係築こうとして思いっきり不自然な空気を醸し出し、結果失敗している。

 

でもKくん、目がキラキラしていて、どうも悪い人には思えない。

もう少し仲良くなってからイラストの話をもう一度聞きたい。

 

おう、そうだ。一度寝てみよう。

なんと私は初めて会ったばかりのこのKくんとセックスを介して仲良くなろうと思ったのだ。

 

しかし私も当時20歳。フーゾク嬢だとは言え、自分に会いにきてくれるお客さんならまだしも、知らない人をセックスに誘うすべを知らなかった。Kくんのことを言えない。私も負けじと死ぬほど人見知りだった。

 

イラストの話、まだ終わらないかなぁ。早く普通の話して、セックスしようって言ってくれないかなぁ。

私のイラストへの興味のなさに、Kくんはものすごい腹を立て、もう二度と会うもんかこのくそったれと思っていたらしい。

 

私も人見知り全開ながら、「今夜はセックスはないらしい」と察したが、どうにかこうにか次会う約束を取り付けた。

 

それぐらいにはKくんは謎の魅力があったし(とにかく目がキラキラしていた)、それなのにどうしてこんなに生きづらそうにしているのか興味があった。

 

Kくんとは二週間後ぐらいにまた会う約束をして別れた。

 

次こそは寝てやる!

私は強く心に誓った。

 

本当は寝たいんじゃない。当時の私は、男性とは一度寝ないと、人とコミュニケーションが取れなかった。

だからやるしかなかった。

 

さて、Kくんとどうなることやら。