フーゾク。イラスト。 | 書きなぐり。

フーゾク。イラスト。

ある時名鑑の取材で、編集の人に「趣味は?」と聞かれた。私は「絵を描くことです」と答えた。普段ならそこで終わるんだけど、そのときの編集の人がメモ帳を出して「ここにイラスト描いてみて」といった。

私はいつも描いていたような女子高生のイラストをさらっと描いた。

「もし仕事でイラスト描くようになるとしたら描ける?」

え!それ、夢なんですけど!私は浮かれて言った。

「はい!描きたい!!」

 

数週間して、お店の電話にその編集の人から電話があった。

「うらんちゃんにイラストを描いて欲しい」と。私は浮かれた。イラストが雑誌に載るんだ!嬉しい!絵を描くことが大好きだったし、将来は漫画家になりたいって昔思ってた。フーゾクで働いて、まさかこんなチャンスがくるなんて!店長!描いていいよね!?イラスト!!

 

しかし店長は言った「エロ本の編集とかカメラマンなんて、くずばっかでロクなやついない。騙されるだけだからやめとけ」

でも、個室で取材してくれたその編集の人はいい人だったと私は思ってた。私の人を見る目には自信ないけど、イラストを描かせてくれてお金くれるなんてこんなチャンス逃したくない。私は店長に一生懸命お願いした。

「まぁ、わかったよ。好きにしなよ」

やったー!

店長のお許しが出た!

私は編集の人と連絡を取り合って、初めてイラストの仕事をすることになった。雑誌にイラストを描くことは生まれて初めて。やり方も描くペンも紙もサイズも、何もかもがわからなかった。

だけどその編集の人は優しく教えてくれた。最初は「好きな紙に好きな大きさで女子高生を何人か描いてみて。あとはこっちでやるから。」

わたしはいつも描いているように女子高生の絵を描いて編集部に持っていった。

 

一ヶ月後、雑誌の読み物ページに私のイラストが載っていた。感動した。フーゾクで働くことも好きだったけど、イラスト描いたときの感動はすごかった。嬉しかった。

それがきっかけになって私はもっとイラストを描きたいと思うようになった。私は名刺を作って取材に来てくれた人に営業をかけるようになった。編集部に遊びに言っていいですか?って許可もらって後日編集部に遊びに言っていろんな雑誌の人を紹介してもらって名刺交換した。

私はフーゾク誌では有名人になっていた。編集部に行くと「うらんちゃんだ!」ってよく言われた。名刺交換するのは簡単だった。相手がもうすでに私を知っているから。

 

イラストの仕事が、どんどん増えていった。フーゾク嬢としての日々を描いたマンガやイラストを書き出したのが初めで、そのうちコラムや全然フーゾク関係ないイラストも頼まれるようになった。

私は昼はお店、夜は家でイラストを描くというめっちゃくちゃ忙しい生活をしだす。

店長はそのことを面白く思っていなかった。

半年したら結婚してフーゾクやめるんだから、それまでは好きなことしていいけど、あんまり本気になるなよという感じだったし、まず私が編集部に行ったりカメラマンと飲みに行くとかそういうのもすごく嫌がってて、結構そのことで喧嘩するようになっていった。

 

何にもないワンルームから、私たちは2LDKの大きな家に引っ越しをしていた。お店も少し安定し出して他の従業員もいたので店長は夜1時ぐらいには家に帰ってくるようになっていた。

だけど私がイラストの締め切りを抱え家でイラストを描いていると帰ってきた店長に怒られた。

「俺が帰ってきてるのにまだ何してんの?」

「帰ってくるまでに終わらせといてよ」

だけど締め切りもあるし私はギリギリまでイラストを描きたいと思っていたから、店長が帰ってきてもまだ仕事してるということが増えていって、だんだん店長のことを一番にできなくなっていった。

喧嘩になると店長は自分がすごく可哀想な子供時代を過ごしたんだという話をよくした。母親とおばぁちゃんに手を引っ張られ、こっちへ来い、いや、こっちだと引っ張り合いっこされたと。そういう話をしながらよく泣くのだった。

私はできれば店長を怒らせたり嫌な気持ちにさせるのは嫌だなと思ってた。だけど、締め切りがある。やっぱりイラストを優先させないといけないから、店長のことがだんだん嫌になっていった。