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ある在宅ワーカーのつぶやき

みそっかす反訳者が、用字用例辞典(日本速記協会)の表記ルールにおける個人的な解釈についての記事を書いています。2020年4月半ばから新訂対応です。たまにテープ起こしについてのそのほかの話も。文中で引用している辞書はこちら→https://dictionary.goo.ne.jp/jn/

このブログでも以前ちょっと触れましたが、8月に速記協会から「新訂用字用例辞典の解説」という小冊子が出て、速記協会の会員さんには自動的に届いたようなんですが、私は会員ではないため購入し、先日届きました。

中を見てみますと、用字用例辞典の転記が主体で、1ページに1項目程度は解説が少しあるというもので、今回の書き分けの高度さからしてみたら大分物足りない感じのものだったんですが、最後に見開きで2ページだけ、これまでに速記協会に寄せられた質問とその答えについての記載がありました。

そこでは、少数の問いに対してではありますが、ずばっとした答えが記載されていて、こういうのが全ページ載っているのを期待していたのにと思いつつ読んでみたところ、最後で手が止まりました。

それは、以前記事にした複合語の送り仮名の通則6に関して、「複雑になったが何か基準や法則性があるのか」という、私も心底思っていた問いでありまして、そしてそれに対する答えが、「基準や法則性はない」「抽象的で理解しにくいかもしれないが、割り切るしかない」という内容でした。

 

そのルール変更で何百も新しい表記を覚えなければならなくなったけれども、当然すぐは覚えられず、毎回毎回用字用例辞典のルールを確認しなければならないため、作業効率が非常に落ちてしまった身としては大分殺伐とした気分になったのですが、今日のお題もその変更に係るものです。

なお、文字数制限の関係でタイトルに入りきらなかったため略していますが、今日の正しいお題は

【新訂にて変更】「取り立て」or「取立」or「とりたて」 → 「取り立て」or「取立て」or「取立」or「取りたて」

です。

 

それで、上記冊子の通則6に係る使い分けについては、基本前に触れたとおり動詞のときは送り仮名ありの「取り立てる」でそうでないときに「取立て」になるんですが、今日のお題にしたのはその通則6のためではなくて、全く関係ない三つの変更によるものです。

 

まず一つは、「取立て」に含まれないものがあることです。

辞書で「取立て」の項を見ますと、意味が三つあり、「特に目をかけて登用すること。抜擢」「強制的に取ること。催促して徴収すること」「取って間がないこと。また、そのもの」(デジタル大辞泉より)となっていますが、「取立て」なのは前二つのみで、最後の「取って間がないこと。また、そのもの」については、用字用例辞典では別に項目があって、「取りたて」になっています。

これは前記事にしましたけれども、以前は項目がなく、収穫するの意の「とる」プラス、接尾語の「~したて」で「とりたて」と表記すべきものでありましたが、今回の改訂で「とる」が「取る」に変更となり「取りたて」という表記になったものです。非常に紛らわしいですが、用字用例辞典的には別の言葉カウントで、もちろん送り仮名の省略ルールも対象外です。

 

もう一つは、動詞「取り立てる」のうち以前のルールでは平仮名表記のものがあったのが、今回の改訂で全て漢字表記になったことです。

これも上記過去記事に記載していますが、具体的には「多くの中から特別に取り上げる」(デジタル大辞泉より)の意味のときで、意味を見ただけではちょっと分かりづらいですが、「取り立てて言うこともない」(デジタル大辞泉より)などと使うときです。今回の改訂で同じ漢字表記になりました。

 

最後の一つは、「て」の省略の例外のルールがひっそり変わっていることです。

用字用例辞典を見ると、以前の表記の例外の記載は「取立《金》」で、「《金》」の部分はほかの言葉で言い換えられる、つまり「取立手形」なんかも送り仮名を省略すべきものだったんですが、新訂の「取立て」の項を見ると、表記の例外が「取立金」「取立訴訟」に限定されています。

 

……記事を書いているだけでまた殺伐とした気分になってきました。

私たちは、こういう細かい変更が山ほどある上に、何のルールもなくどかんと何百も新しく送り仮名が省略された言葉を割り切って覚えないといけないのであります。しかも、この通則6よりももっと変更された言葉の多い通則7もあります。

ちょっと今回の改訂の担当者を恨んでもいい気がしてきました。少なくともここで恨み言を書き散らすのは許してほしいです。

チャンネル」に引き続き、同じ英単語なのに表記を分けることになってしまったものです。

ただ、「チャンネル」と違い、以前は「プラットホーム」の表記一択でした。

 

使い分けの仕方としては、「電車・列車への乗客の乗り降り、貨物の積み下ろしのため、線路に沿って築いた駅の施設。ホーム」(デジタル大辞泉より)のときのみ「プラットホーム」で、それ以外が「プラットフォーム」です。具体的には、私が請けている仕事でよく使われるのは「商取引や情報配信などのビジネスを行うための基盤」(デジタル大辞泉より)のときのように思います。

 

恐らくこれも、チャンネルと同様に既に日本語として定着している駅に関してだけ「プラットホーム」の表記となったものと思われます。実際そのほかに関しては一般的に「プラットフォーム」と発音、表記されているのをよく見聞きしますし、現実に表記が近づいたものであると言えるでしょう。

 

前に「かける」の変更については既に記事にしているんですが、そのときは全く触れなかった「架ける」について、ちょっと悩んだ部分があったので、改めて記事にしておきます。

 

新訂用字用例辞典の「架ける」の項を見ると、用例「橋・電線-を架ける」とあり、さらに例外表記として「かけ橋」が記載されています。速記協会の「日本の速記~臨時増刊号~新訂標準用字用例辞典の解説」も同じです。

用例を見れば「ああそういうことか」と分かったような気がしていたこの「架ける」と記載する場合ですが、具体的にはじゃあどういう場合なのかについて調べてみました。

 

いつもどおりデジタル大辞泉を見ると、動詞「カける」は、ほかの「掛」なんかで表記できる場合とまとめて一緒くたに記載されており、たくさん意味があるんですが、その中に一つだけ、「物を一方から他方へ渡す」の中に、「(「架ける」とも書く)またぐように渡す。かけわたす」というものがあります。用例も「歩道橋を架ける」となっているので、用字用例辞典で「架ける」と表記すべきとされているものはこれで間違いないでしょう。

さらに、文化庁の「言葉に関する問答集(総集編)」を見ますと、「「架」は、木と加を合わせた字で、木を交互に組み立てることである。そこから二つの物の間にまたがらせる、かけわたすの意味となり」とあり、さらに用例として「ロープウェイ」(※用字用例辞典的には「ロープウエー」と表記する)が示されています。
 
文化庁の記載が分かりやすくて、「へえ~」ボタンを連打したくなりました。(余談ですが、ちょっとだけ元が取れた気がしました)
 
それはさておき、冒頭に書いた私がちょっと悩んだものは「足場」なんですが、全体を見ると足場は建物を取り囲むように組み上げられていて「架ける」ではなさそうなんですが、細かく見ると、立てた柱と柱の間に網のようなものを渡して歩けるようにしているという意味では「架ける」でよいのではないかなという気もします。
 
結論としては、皆さん速記協会か会社に確認してください。(答えは出なかった……)

今年はとりわけひどかったように思えた猛暑も台風と共に去り、私の住む地域では朝晩薄着では肌寒さを感じるようになりました。

もうしばらくしたら、私の住んでいる地域では山が色づき始めてきます。今年は紅葉関連のイベントは縮小や中止されたものが多くて残念ですが、皆様のお住まいの地域ではいかがでしょうか。

 

その「紅葉」は、用字用例辞典の旧ルールで漢字表記するのは読みが「コウヨウ」のときのみでしたが、それが今回のルール変更で「もみじ」も漢字表記することになりました。意味が同じで文脈からどちらか判断ができないことが多かったもののですから、ちょっと表記が楽になったと言えます。

 

ただ、これまでこのブログで取り上げた「酔っ払う」などの楽になった表記を加えても、どう考えても「やめる」or「止める」の出現頻度に比べたら桁が違いますからね……。トータルで考えると今回の変更はやはりつらいです。

 

※そもそも「やめる」「止める」も表記を間違えなければいいのではという突っ込みは受け付けません。

「いる」という動詞はいろいろあって、そのうち「居」及び「煎」「炒」で表記することができる意味のときと補助動詞のときは平仮名表記であると、前のルールのときに記事にしたことがありますけれども、今回の改訂にて、もともと平仮名表記だったもののうち、「煎る」「炒る」で表記できるものが「煎る」で表記するルールとなりました。

 

とはいえ、これも一つ前の記事と同様、通常の会議にて「煎る」単体で用いられることはほとんどないです。あるとすれば、これも旧ルールのときに記事にしたことがありますが、「肝煎り」のときです。

相変わらず「入り」で表記したくなりますが、用字用例辞典的な解釈では旧ルールに引き続き「煎り」表記なようで、「煎る」の表記変更に伴ってこちらも「煎り」に表記が変わっています。辞書を見ると日本語的には「入り」でも間違いないようですが、用字用例辞典のルールはそうなので間違えないようにしたいです。