このブログでも以前ちょっと触れましたが、8月に速記協会から「新訂用字用例辞典の解説」という小冊子が出て、速記協会の会員さんには自動的に届いたようなんですが、私は会員ではないため購入し、先日届きました。
中を見てみますと、用字用例辞典の転記が主体で、1ページに1項目程度は解説が少しあるというもので、今回の書き分けの高度さからしてみたら大分物足りない感じのものだったんですが、最後に見開きで2ページだけ、これまでに速記協会に寄せられた質問とその答えについての記載がありました。
そこでは、少数の問いに対してではありますが、ずばっとした答えが記載されていて、こういうのが全ページ載っているのを期待していたのにと思いつつ読んでみたところ、最後で手が止まりました。
それは、以前記事にした複合語の送り仮名の通則6に関して、「複雑になったが何か基準や法則性があるのか」という、私も心底思っていた問いでありまして、そしてそれに対する答えが、「基準や法則性はない」「抽象的で理解しにくいかもしれないが、割り切るしかない」という内容でした。
そのルール変更で何百も新しい表記を覚えなければならなくなったけれども、当然すぐは覚えられず、毎回毎回用字用例辞典のルールを確認しなければならないため、作業効率が非常に落ちてしまった身としては大分殺伐とした気分になったのですが、今日のお題もその変更に係るものです。
なお、文字数制限の関係でタイトルに入りきらなかったため略していますが、今日の正しいお題は
【新訂にて変更】「取り立て」or「取立」or「とりたて」 → 「取り立て」or「取立て」or「取立」or「取りたて」
です。
それで、上記冊子の通則6に係る使い分けについては、基本前に触れたとおり動詞のときは送り仮名ありの「取り立てる」でそうでないときに「取立て」になるんですが、今日のお題にしたのはその通則6のためではなくて、全く関係ない三つの変更によるものです。
まず一つは、「取立て」に含まれないものがあることです。
辞書で「取立て」の項を見ますと、意味が三つあり、「特に目をかけて登用すること。抜擢」「強制的に取ること。催促して徴収すること」「取って間がないこと。また、そのもの」(デジタル大辞泉より)となっていますが、「取立て」なのは前二つのみで、最後の「取って間がないこと。また、そのもの」については、用字用例辞典では別に項目があって、「取りたて」になっています。
これは前記事にしましたけれども、以前は項目がなく、収穫するの意の「とる」プラス、接尾語の「~したて」で「とりたて」と表記すべきものでありましたが、今回の改訂で「とる」が「取る」に変更となり「取りたて」という表記になったものです。非常に紛らわしいですが、用字用例辞典的には別の言葉カウントで、もちろん送り仮名の省略ルールも対象外です。
もう一つは、動詞「取り立てる」のうち以前のルールでは平仮名表記のものがあったのが、今回の改訂で全て漢字表記になったことです。
これも上記過去記事に記載していますが、具体的には「多くの中から特別に取り上げる」(デジタル大辞泉より)の意味のときで、意味を見ただけではちょっと分かりづらいですが、「取り立てて言うこともない」(デジタル大辞泉より)などと使うときです。今回の改訂で同じ漢字表記になりました。
最後の一つは、「て」の省略の例外のルールがひっそり変わっていることです。
用字用例辞典を見ると、以前の表記の例外の記載は「取立《金》」で、「《金》」の部分はほかの言葉で言い換えられる、つまり「取立手形」なんかも送り仮名を省略すべきものだったんですが、新訂の「取立て」の項を見ると、表記の例外が「取立金」「取立訴訟」に限定されています。
……記事を書いているだけでまた殺伐とした気分になってきました。
私たちは、こういう細かい変更が山ほどある上に、何のルールもなくどかんと何百も新しく送り仮名が省略された言葉を割り切って覚えないといけないのであります。しかも、この通則6よりももっと変更された言葉の多い通則7もあります。
ちょっと今回の改訂の担当者を恨んでもいい気がしてきました。少なくともここで恨み言を書き散らすのは許してほしいです。