患者さんにとって、医者は常に勉強して欲しいと願うのは、当然のことだと思います。
では実際に医者はどういう風に勉強しているのでしょうか。
そもそも本当に勉強しているのでしょうか。
その辺について今日は書こうと思います。
まず医者になるまでに医学部で6年間勉強することとなります。
しかし、その勉強というのはあくまで「テストのための勉強」です。
ここの内容はもちろん医学的な内容なのですが、それが実践で使えるかどうかは別問題です。
その一方で全ての診療科について一通り勉強する訳で、逆に言うなれば学生時代にしか専門から大きく離れた診療科についてはなかなか勉強出来ませんが、たまにそういう知識が必要になることがありますので、学生時代にそういう科の勉強をするのとしないのでは、大きく違います。
とはいっても、学生時代の勉強と医者になってからの勉強は全く異質なもの。
なぜなら、医者になってからは専門医試験を除いて、基本的にテストがないからです。
テストがないということはテスト範囲というものもないのです。
本当にビックリするくらい自主性に任されています。
ただ、当たり前ですが医学部での勉強だけで患者さんを診るなんて到底出来ません。
なので、研修医時代は色々と臨床に必要な実践的な勉強をします。
最近は分かりやすい参考書も増えましたので、そういうのを使って、輸液だったり薬だったり人工呼吸器だったり、さらには患者さんがこういう症状が出たらどうすべきかとか、そういったことを勉強する訳です。
ただ、それも勉強できるかどうかはローテーションしている診療科次第。
私の場合は結構暇な科を回っている時に一気に参考書とかを読んだりしていました。
そしてある診療科に入局した後はどうかというと。
多分最初の一年は張り切って専門的な内容の中でも教科書的なことを、本を読んだりして勉強すると思います。
その中で実践経験を積んでいく形であり、その点については1年もすれば意外とソコソコ知識が身につくようになります。
ここまではおそらくほとんどの医者の既定路線だと思います。
問題はそこからです。
多分誰でもそうだと思いますが、いわゆる後期研修医の時期である卒後4-5年目あたりは、非常に忙しくなり、勉強よりも日々の仕事に追われてしまうものと思います。
そうなった時に、勉強し続けることが出来るかどうか。
ここまではあくまで専門医を取得する前の後期研修医レベルであり、医者として一人前とはほど遠いレベルです。
そこで大きな差が生まれると思います。
ハッキリ言いますと、そのくらいの時期から数百ページという感じの本を最初から最後までコツコツ通読する勉強は、ほとんど不可能だと思います。
逆にやれる人は尊敬します。私は出来ませんでした。
たまに張り切って読もうと思っても、あるタイミングで忙しくなり、読むのも億劫になり、結局挫折してしまいます。
それにも増して、経験を積めば積むほど勉強しなければならないことが増えすぎてしまい、何をどう勉強すればいいかがよく分からなくなってしまいます。
そこで、医者が忙しい中で効率よく勉強することが出来るのが、学会や研究会です。
学会はその所属学会が主催する勉強の場で、小さいものでは県単位のものから、一ヶ所に全国から数千規模の人達が集まる非常に大きな学会、さらには世界中から数万規模で人が集まる国際学会まであります。
学会は基本的には各施設の研究発表から、ある領域の最新の内容についての講演、そしてポスター発表でポスターを見ながら発表者と直接ディスカッションしたりと、大きく分けてそんな所です。
学会関連については、日本リウマチ学会総会ではだいたい毎回発表していましたし、アメリカリウマチ学会でもポスターですが過去に2回発表しました。
自分が発表した学会では他の講演も色々聞いて勉強します。
そこで話される内容は間違いなくその領域の最新の内容なので、これは非常に重要です。
ただ、全ての講演を聴くことは不可能なので、自分が必要と感じた講演を聴く形となります。
そして、もう一つ重要なのが「研究会」です。
これはだいたい県単位で行われることが多く、私達リウマチ領域ではだいたい1-2週間に1回は埼玉のどこかのホテルで、何らかの研究会が行われます。
形式は研究会によって様々ですが、典型的な形式としては最初に2人くらい各施設の症例報告や研究報告を、1人だいたい10-15分くらい行い、その後特別講演という形でその領域の著名な先生が1時間くらい最新の内容などについて講演を行い、その後別の部屋で意見交換会という形でバイキング形式の食事を取りながら、参加した先生とお話をするという形です。
ただ、この研究会は製薬会社が主催することが多いため、講演内容がその主催する製薬会社の意向に沿った形となりがちなので、内容にバイアスが生まれるものの、研究会になれるとその辺も逆手にとった理解の仕方が出来るようになり、逆にいざ研究会に参加した時に、製薬会社の思惑に乗ってしまうことも防ぐことが出来ます。
大きな学会は1年に1回ですが、研究会は頻繁に行われていますし、実は私が得てきた知識のかなりの部分は、この研究会によって得てきました。
これは交流の場でもあり、実際に私が困っている患者さんに関して、リアルにその領域の専門の先生と相談して、結果的に患者さんの診断に至ったこともありました。
あとはたまに泊まりがけのセミナーみたいなものもあり、そこではより密な人間関係を形成することが出来ます。
さらにほとんどの病院では製薬会社が薬の説明会を行います。
それこそまさに宣伝なのですが、ただ単に会社の言っていることを鵜呑みにするのではなく、ちゃんと医者としてものを考えて聞くことが出来れば、かなり有益な情報となります。
あとは個々の患者さんに応じて、自分が不足している所に対して論文を調べたりします。
ただ、論文を検索し関連する論文を全て読むのは大変ですので、多くの場合は「総説(レビュー)」と呼ばれるまとめを読んで、最新の知識を得ようとします。
また、最近はup to dateという世界で最も愛用されているウェブサイトがあり、英語ですがこれを見ると最新のことはだいたい書いてあります。
気になった内容を調べて総説やup to dateを読むだけであれば、その気になれば1時間集中して勉強すれば、その領域の最新の知識をほぼ頭に入れることは出来ます。
もちろん、狭い範囲内ですが、その積み重ねにより大きな知識となるのです。
さらに、もっとも手軽な方法は他の先生に聞くことです。
結構いい論文とか教えてくれたりしますし、おそらくもっとも現実的な方法です。
そういう点では大学病院は非常に最新の情報が入りやすいですし、私の場合は大学院時代に結構勉強する時間に恵まれたため、それが今につながっているのだと思います。
実際に私が勉強しなければ、医者として本来やるべきことの大半を怠っていたと思います。
今でも正直まだまだ足りないと思っています。
昨日の記事にも書いたように、今は患者さんも自分で色々と調べてきます。
医者が普段から勉強していれば、そういう患者さんに対して普通にこちらの考えを答えることが出来ます。
それで苛立つような人は勉強不足というだけの話しです。
勉強しても知らないことは実際には沢山ありますが、普段から勉強していればすぐに調べることも出来ます。
医者になってからは個々の患者さんを診て、その都度勉強。
それが出来ないくらい医療現場が疲弊してしまうのは、非常に問題だと思います。
やはり医者は常に勉強すべきだということは、自分自身の経験から強く思いますし、そういう環境に医療現場はなって欲しいものと思います。
最後におまけ。
こちらは5年前の私。
写真を整理したら出てきました。
ダメですね(笑)。
前の発表者の関係でマイクの位置が低かったとは言え、マイクの位置を調節せずに猫背になっていますし、これはたまたまではなく、この時はずっとスライドの方ばかり見て、聴衆の方は全く見ていなかったと思います。
駆け出しの頃の懐かしい姿です。