「この辺りなんだけど」
泉が足を止めたのは、森の一角だった。小さな広場のようになっているが、それ以外に特徴はない。
大輔は全体を見回した後、パートナーに聞く。
「ブイモン、友樹達の臭いが残ってないか?」
「えーっと……って俺は犬じゃない!」
「悪い悪い。冗談だよ」
のんきな会話をしながら広場に踏み込んでいく。
「おーい、友樹ー!」
「じゅんぺーい!」
拓也と泉も大声を出しながら広場を回る。
ふと気づくと、ネーモンが大輔の服を引っ張っている。
「ねー、アーマー進化したら探せたりしないのー?」
「いや、そう便利なものでもないんだけど……」
大輔が頬を掻く。
ブイモンもサポートに回る。
「あのな、アーマー進化っていうのは戦うための進化であって、人探しはできないんだよ」
「なんだ、不便だね~」
「いや、だからさ……」
大輔とブイモンは揃ってため息をついた。
ボコモンが驚きの声を上げたのはその時だった。
「大変じゃ! 拓也はんと泉はんまでおらんぞ!」
さっきまでその辺にいたはずの二人が見当たらない。その代わりにあったのが。
「こんな穴、さっきまでなかったよな?」
人が二人余裕で入れそうな縦穴だった。のぞいてみると、下の方にクッションになりそうなおがくずが積もっている。
下からは人の声らしき音も聞こえてくる。拓也達か、それとも友樹達か。
そうなれば選択は一つ。
「行くぞ、ブイモン!」
大輔は返事も待たずに穴に飛び込んだ。ブイモンも続く。
残されるボコモンとネーモン。
「ほら、わしらも行くんじゃ!」
ボコモンがネーモンの股引きをつかんで、そのまま地下に飛び降りた。
地下は巨大な機械室になっていた。
その奥から悲鳴や大声が響いてくる。拓也達は見当たらない。
ひとまず悲鳴の聞こえる方へ一直線に走った。
そこで見たのは球体の広間とヘドロの塊のようなデジモン。
そしてデジモンに追い詰められる子ども達の姿だった。拓也達四人の他に、少年が一人増えている。大輔と同じエレベータに乗っていた、青いバンダナの少年だ。
が、それを気にしている場合ではない。五人は縦穴のふちに追い込まれていた。穴の下は深く暗い。落ちたらひとたまりもないだろう。
「拓也達に手を出すなー!」
大輔は駆け出しながらデジヴァイスを掲げた。
「デジメンタル・アップ!」
「ブイモン、アーマー進化!」
「燃え上がる勇気、フレイドラモン!」
「《ファイアロケット》!」
炎をまとった体当たりに、ヘドロデジモン――レアモンがうめく。生ゴミのような臭いが煙と共に立ち込めた。
その隙に大輔は五人の元に走る。
「みんな、無事か!?」
大輔の進路が突如大量のデジモンにさえぎられた。
ウパモンを紫色にしたようなデジモンだ。意地悪い笑みを浮かべて大輔を見上げている。
「お前らがパグモンか! 邪魔すんな!」
大輔が一喝するがひるまない。
それどころか口々に反論し始めた。
「そっちこそ邪魔すんな!」
「今いい所なんだよ!」
「そうそう! お菓子をくれないから仕返ししてるところ」
「お楽しみを邪魔するやつはこうだ!」
パグモン達が一斉に泡を吐いてくる。
大輔はとっさに顔をかばったが、服が溶けて湯気を上げた。
「げっ!」
「大輔!」
フレイドラモンがとっさに駆けつけるが、逆に大輔ともどもパグモンに囲まれてしまった。
このチャンスを逃すレアモンではない。
五人に向かってヘドロを吐き、一人が穴に落ちた。
「!」
大輔は名前を呼ぼうとして、何も言えなかった。
落ちた少年の名前を知らなかったからだ。
名前も呼べない、話をしたこともない少年。
しかし大輔にとって、それは見捨てる理由にはならなかった。
「よくもやってくれたな!」
フレイドラモンがパグモンを蹴散らし、レアモンに炎を浴びせる。
無事でいてくれ。そう願いながら、大輔は穴へと走った。
その願いは、思いがけない形で果たされた。
少年の落ちた穴から、光の柱が立ちのぼった。
その場の全員が呆然とその光を見つめる。
やがて下から一体のデジモンが浮かび上がってきた。
人間のような体を白と薄紫の鎧が覆っている。顔に狼を模した面をつけ、首のマフラーが波打っている。
「あれは一体……?」
大輔のつぶやきにはボコモンが答える。
「伝説の闘士、光のヴォルフモンじゃ!」
人型デジモン――ヴォルフモンは光の柱から飛び出し、光の剣でレアモンに切りかかった。
まさか、さっきの少年のパートナーなのか。
大輔の予想は純平の言葉に砕かれる。
「すげえ! あいつ、デジモンに進化したぞ!」
「僕見たよ! 人もデジモンになれるんだね!」
友樹のはしゃいだ声も聞こえる。
「あいつって……まさか!」
大輔は目を見開いてヴォルフモンを見た。
初めて見るデジヴァイス。
穴に落ちた少年。
穴から現れたデジモン。
ピースが集まり一つの答えを生み出す。
「人間がデジモンに進化するなんて……」
「俺も信じられない……」
大輔とフレイドラモンは戦いも忘れて、ヴォルフモンを見つめていた。
◇◆◇◆◇◆
炎の闘士「俺はすねてもいいと思う(キリッ)」