第74話 海神ネプトゥーンモン! 信頼への布石 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 拓也と輝二は顔を見合わせた。

 確かに今、目の前のデジモンは「お前達の味方だ」と言った。

 だが、その一言だけで相手を信頼できるほど自分達はお人よしではない。

 落ち着いてきた頭で思い起こせば、このデジモンが謁見の間にいたデジモンの一体だと分かった。

 つまりこのデジモン――ネプトゥーンモンが十二神族だという本人の主張は間違っていない。

 その一方で、その十二神族の一体によって二人が苦しめられていたというのも紛れもない事実だ。「お前達の味方」という発言が二人を利用しようとする策略の一部だという可能性も十分にある。

 拓也が視線で輝二に問う。

 ――どうする?

 輝二が首の動きで拓也に答える。

 ――うかつに信じるわけにはいかないな。

 お互いの考えを確認したうえで、二人はネプトゥーンモンに視線を戻した。

 拓也が厳しい声でネプトゥーンモンに言う。

「お前が信じられるというあかしを見せろ」

 ネプトゥーンモンは淡々と答える。

「こちらから提示できる証はいくつかある。しかし、それでお前達が納得するかは分からない」

「例えば?」

 輝二が促す。

「まずお前達を悪夢から解放した事。あのまま続けていれば、お前達の精神が崩壊する恐れがあった」
 ネプトゥーンモンの言葉に、二人は黙って耳を傾ける。確かに目覚める直前の戦いは絶望的だったが、十二神族の思惑で中断されたとも考えられる。
「二つ目に、お前達の回復を早めるその食物――アンブロシアを与えた事。お前達を今後も利用しつくすのであれば、再び牢屋に放り込み通常の食事でも与えていれば十分なはずだ」

 拓也は先ほど握らされたビスケットのような物を見る。身動きできないほどの頭痛はもう、ほとんど消えうせていた。

 試しに立ち上がって、閉じ込められていた箱から外に出る。体も少し強張っているが問題なく動く。これなら隙をついて逃げる事だって、できるかもしれない。

 輝二も同じように外に出て、肩を回す。

「効き目がいいのは間違いないみたいだな」

 輝二の言葉に、ネプトゥーンモンが頷く。

「でもまだ、これだけで信じるわけにはいかないぜ」

 拓也が顔をしかめて言うと、ネプトゥーンモンがまた頷く。

「三つ目に、お前達にこれを渡しておく」

 ネプトゥーンモンは周囲に人気がない事を確かめてから、鎧の内側に手を入れた。

 そこに隠していたものを二人に差しだす。

「ウルカヌスモンがお前達から読み取った記憶を利用させてもらった。お前達の荷物の中にあった電子機器を加工したものだ」

 拓也と輝二はそれを見て息を飲んだ。



「……デジヴァイス、なのか?」



 ネプトゥーンモンの手に乗せられたそれは、黒地に赤のデジヴァイスと白地に青のデジヴァイス。

 二人の記憶にあるのと全く同じ、それぞれのデジヴァイスだった。オファニモンに力をもらう前の形だが、間違いなく二人のものだった。

 引き寄せられるように、自分のデジヴァイスを手に取る。記憶のそれよりも軽く感じるのは、自分達が成長したからか。
 デジヴァイスに見入る二人に、ネプトゥーンモンが話を続ける。

「私にはオファニモンが命に代えてお前達に与えた力までは再現できなかった。かつての勇者の魂たるスピリットも完全にはな。だが、そのデジヴァイスに宿した力だけでもお前達の助けにはなるはずだ」
 二人の手にしたデジヴァイスから手のひらに、温かい力が伝わってくる。

 それはかつてのものよりも微かではあったが。

 確かに「スピリット」だった。

 二人は無意識のうちに、それぞれのデジヴァイスを握り締めていた。

 このデジヴァイスと「スピリット」さえも罠という事も考えられなくはないが……この「スピリット」からは悪い気配を感じなかった。

 何十回とスピリットと共に戦ってきた二人には分かる。本物のスピリットと同じようにこの「スピリット」も信用できる、はずだ。



「でも、何でここまでしてくれるんだ?」

 拓也がネプトゥーンモンを見上げる。輝二も同じように、デジヴァイスから顔を上げる。

 まだネプトゥーンモンを完全に信頼したわけではないが、本来なら敵であるはずの自分達に戦う力までくれた。
 ただ、それらを単なる親切心でしてくれているとは思えない。

 二人に見つめられて、ネプトゥーンモンは少し黙りこんだ。

「そうだな。なぜ今のような状況になったのか、一から説明せねばなるまい」

 ネプトゥーンモンは魚の下半身をずらして座りなおした。



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うーん、きりのいい所で切ろうと思ったら二話連続で短くなってしまいましたね……。でも次は間違いなく長くなるのでこのまま1話でまとめるのはきついし。


あと、せっかくなので旧式デジヴァイスを出してみました。旧式も新式もかっこいいです。



P.S.サブタイ変更しました。似たようなタイトルを以前にも使っていた事に気づいたので。