流離の翻訳者 青春のノスタルジア -28ページ目

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

梅雨が明け、高校野球の地区予選も終わった。酷暑の日々が続いている。

 

高校野球の地区予選を観ていて3回と7回の終了時に「給水タイム」が設けられていることを知った。随分と合理的な話である。

 

 

我々の世代では、学校等での体育(スポーツ)の時間中、水を飲むことは決して許さなれかった。「水を飲むことは弛(たる)んでいる」とみなされた。今そんなことをすれば当然に学校も教員も処罰される。

 

 

 

「心頭を滅却すれば火もまた涼し」という言葉がある。これは「無念無想の境地に至れば火さえ涼しく感じられる。どんな苦難に遭っても、その境涯を超越して心頭にとどめなければ、苦難を感じない。」という意味で、元々はある漢詩の句に由来する。

 

簡潔に言えば、「死を覚悟すれば何も怖くない」ということだろうが、死を覚悟することはそんな簡単なものではない。

 

 

「夏日題悟空上人院」      杜荀鶴(とじゅんかく)

三伏閉門披一衲               三伏門を閉じて一衲(いちのう)を披(ひら)く

兼無松竹蔭房廊               兼ねて松竹の房廊を蔭(おお)う無し

安禪不必須山水               安禅必ずしも山水を須(もち)いず

滅卻心頭火亦涼               心頭を滅却すれば火も亦(また)涼し

 

 

(拙・現代語訳)

ある夏の日に悟空上人の寺にて詩を認(したた)める。

酷暑の三伏の時期にも寺門を閉ざして、僧衣をきちんと身に着ける。

その上、この寺には部屋や廊下を強い日差しから覆う松や竹も無い。

しかし、安らかに座禅を組み修行に励むのに必ずしも山や川は要らない。

暑いと思う心を消し去れば、火でさえ自然と涼しく感じられるものだ。

 

(拙・和文英訳)

One summer day, I wrote a poem at the venerable Goku's temple.

Even during the extremely hot Sanpuku season, the temple gates are closed and monks wear their robes properly.

Moreover, there are no pine or bamboo trees in this temple to cover the rooms and corridors from the burning sun.

However, mountains and rivers are not necessary to practice zazen in peace.

If you quench the feeling of heat, even fire will naturally feel cool.

 

 

なお、「三伏(さんぷく)」とは、夏の極暑の期間を指し、夏至後の第3の庚(かのえ)の日を初伏第4の庚の日を中伏立秋後の第1の庚の日を末伏という。

 

昨日の日経新聞の【春秋】欄に「鬼の霍乱(かくらん)」という言葉が出ていた。いつも元気な人がにわかに体調を崩すことを言うらしい。

 

「霍乱(かくらん)」を広辞苑で引くと、「暑気あたりの病。普通、日射病を指すが、古くは吐瀉病も含めて用いた。」とあり、まさに現代の熱中症のことを指しているようである。

 

 

「霍」という漢字に何かしら懐かしさを感じる。受験生時代、世界史に「霍去病(かくきょへい)」(B.C.140-B.C.117)という中国の武将がでてきた。

 

前漢・武帝の寵愛を受けて何度も匈奴征伐に赴いて功績を挙げた。史上初の驃騎将軍に任じられ衛青とともに大司馬となったが、24歳の若さで病死したという。

 

「霍」は、漢和辞典によると「①はやいさま、ぱっと散るさま、ぱっと広がるさま、ぱっと消えるさまなど。」を表すらしい。

 

 

 

熱中症は、英語で普通 heatstroke, heat attack, heat exhaustion などと表すが、医学用語では hyperthermia と言うようである。

 

 

The heatstroke can be caused not only in the outdoors but also in the indoors with high humidity.

熱中症は野外だけでなく、湿度が高い室内でも起こり得る。

 

This device vaporizes into a sprayed mist to reduce the ambient temperature by up to 2 to 3 degrees, which helps cool down the playground area and reduce any heat stroke.

この装置は噴霧したミストを気化させて周辺温度を2~3度下げる。それによって遊具エリアの冷却や熱中症の予防を手助けする。

 

蝉の抜け殻があちこちで見られる時期となった。蝉の抜け殻(または蝉そのもの)を「空蝉(うつせみ)」と呼ぶが、これは夏の季語である。

 

この「空蝉」。広辞苑で引くとその第一義は意外にも、①この世の人、生きている人間②人間の生きているこの世、現世、世間(空蝉の世)とあった。「現人(うつしおみ)」(生きている現実の人間、この世の人の姿)が転じて「空蝉」となったらしい。

 

 

 

 

「空蝉の世」を英語では Mortal Coil (= transient life) と表現する。Coil は通常、綱・針金などを巻いたもの・輪を意味するが、《古・詩》(古語・詩的な表現)「混乱・人生(騒々しいこの世)」という意味でも使用されたらしい。

 

 

For in that sleep of death what dreams may come,

When we have shuffled off this mortal coil.  (“Hamlet” by Shakespeare)

 

「この世の煩わしさから逃れた死の眠りの中でどんな夢を見るのか?」(拙訳)

(『ハムレット』シェークスピア)

 

まだ梅雨が明けていないというのに、物凄い暑さである。これから先が思いやられる。

 

 

中国に、昔から「中国の三大ボイラー(火炉)」と呼ばれる三つの都市がある。重慶(Chongqing)南京(Nanjing)および武漢(Wuhan)の三都市である。

 

これらの都市では、毎年7月中旬から8月末にかけて37℃から42℃くらいの高温が続くらしい。なお、昨今の地球温暖化やシティヒートの影響による日本の夏とは異なり、中国の暑さは以下の漢詩に詠われるように古来からのもののようである。

 

 

 

 

「夏夜追涼」            楊万里(ようばんり)

 

夜熱依然午熱同         夜熱(やねつ)依然として午熱(ごねつ)に同じ

開門小立月明中         門を開きてしばら小(しばら)く立つ 月明(げつめい)の中

竹深樹密蟲鳴処         竹深く樹密にして 蟲(むし)鳴く処

時有微涼不是風         時に微涼(びりょう)有るも 是れ風ならず

 

 

(拙・現代語訳)

「夏の夜に涼を追う」

夜になってもまだまだ暑く昼と同じようで、門を出て暫くの間月明かりの中に佇んでいた。竹や樹木が鬱蒼と生い茂る中、何処からか虫の音が聞こえてきた。

その時ふっと涼しくなった気がしたが、とくに一陣の風が吹いたわけではなかった。

 

 

楊万里(1127-1206)は中国南宋の詩人。また、南宋の都、臨安(現在の杭州市)は、中国の七大ボイラー重慶・南京・武漢・長沙(Changsha)・南昌(Nanchang)・杭州(Hangzhou)・上海(Shanghai))の一つとなっている。

 

古代中国に「嫦娥(じょうが)」という美しい女性がいた。彼女は「后羿(こうげい)」という弓矢の名手の妻だった。

 

昔々世界には太陽が10個あったという。この10個の太陽に人々は苦しんだ。后羿はそれを救おうとその9つを射落とした。そして残った1つに毎日時間通りに昇り、時間通りに沈むように命じた。この功績により彼は崑崙山に住む女仙、西王母から不老不死の薬を貰い受けた。

 

この不老不死の薬を妻の嫦娥はこっそり一人で飲んでしまった。この罪により嫦娥は罰せられ月の宮殿に封じられた。また月の世界でガマガエルに化したとも伝えられる。これは月影をカエルに見立てた古代中国人の観念によるものと言われている。

 

後にガマガエルに化したという伝承は消滅し、嫦娥はただ1人で月の世界で孤独を嘆き憂える「憂愁の美女」と考えられるようになった。

 

確かに、月はとても寂しい場所だったらしい。月には呉剛という男とウサギがいた。呉剛も罪を犯して罰せられて月の世界に送られていた。呉剛は月の世界で月桂樹を永遠に伐採するよう命じられていた。

 

ウサギ(玉兎・月兎)嫦娥のお伴または化身とも言われている。日本では餅を突いているが、中国では薬を突いて(製造して)いる。

 

こんな嫦娥の姿を唐の詩人たちは、詩に月を読み込むときの素材にしたらしい。

 

 

 

「嫦娥」                          李商隱

 

雲母屏風燭影深                 雲母の屏風(へいふう)燭影(しょくえい)深く

長河漸落曉星沈                 長河漸(ようや)く落ち暁星(ぎょうせい)沈む

嫦娥應悔偸靈藥                 嫦娥は応(まさ)に霊薬を偸(ぬす)みしを悔ゆるなるべし

碧海青天夜夜心                 碧海青天(へきかいせいてん)夜夜(やや)の心

 

 

(拙・現代語訳)

雲母を張った屏風に蝋燭の灯が深く映り、いつの間にか天の川は傾き金星も沈んだ。

こんな寂しい夜、月の女神嫦娥は不老不死の霊薬を盗んだことをきっと後悔していることだろう。この碧い海のような夜空を憂いに満ちた気持ちで見上げながら。

 

 

パートナーが草花の栽培が好きなので、昨年来、我が家の小さな庭も少し明るくなった。今はベコニアの可憐なピンクの花が雨に煙っている。

 

「園芸の才がある」を英語では green thumb (fingers) と表す。

 

She has a green thumb.

= She has green fingers.

= She is good at gardening (horticulture, floriculture).

= She is a good gardener.

「彼女には園芸の才がある」

 

 

父母が住んでた頃の庭には松などの樹木も多く、岩や石灯篭も置かれていた。父母が亡くなり私が住むようになって、岩や燈籠、また樹木の大半を処分して駐車場を拡大するリフォームを行った。

 

残したのはツバキ、ツツジ、アジサイなどの小樹で小さな花壇と家庭菜園を設えた。春には黄色いチューリップが花壇で揺れていた。庭の雰囲気は大きく変わったが、使い勝手は随分よくなった。

 

 

以下の京大の問題は「庭が住まいに与える影響」に関するものである。

 

(日本語)

庭というものは住まいの外にありながら、室内の雰囲気に少なからぬ影響を与える住まいの装置である。たとえば居間などに座って何気なく外に視線を投げかけるとき、そこにあるのが明るい芝生の広がりであるか、こんもりとした松の茂みであるかによって住まいの気分はかなり異なるであろう。

(京都大学 1991年・後期)

 

 

(拙・和文英訳)

A garden, although it is located outside a house, is a device of the house which has considerable effect on the atmosphere of the rooms. For example, when you sit in a living room and cast your eyes to outside casually, the mood of your home will be quite different depending on whether you find there a bright expanse of grass, or a thick pine bush.

梅雨の終わりの断続的な豪雨が続いているが、梅雨の晴れ間にはあちこちで蝉の鳴き声が聞こえる。実質上梅雨は明けていると言える。

 

 

ユーミンのアルバム「悲しいほどお天気」(1979年)に「丘の上の光」という曲がある。とても静かな曲でちょうど今の時期を歌ったもののようである。

 

昨日、豪雨の中大分県を運転していて特にエンディング部分の歌詞が印象に残った。

 

 

「丘の上の光」

 

すみれ色のまま夕暮れを止めて

新しい自転車で高原をすべる

夏へ急ぐ空 おだやかに翳り

このまま二人ずっと漕いでゆきたいの

 

いつしか今日の日も想い出に

少しずつかわる

 

今 大事なのは前をゆくあなたが

綺麗なシルエットになっていること

向かい風そっと ほほつねってみて

愛し始めた気持 まぼろしかどうか

 

いつしか 今日の日も想い出に

少しずつかわる

 

すみれ色のまま夕暮れを止めて

流れる雲のように丘へ上ぼるまで

ひととき神様 息をかけないでね

素敵な光ほど移ろうのだから

 

 

この歌詞中の「移ろう」だが、広辞苑の「②状態が変化してゆく、盛りが過ぎる。または③色が変わる。」の意味だろう。

 

堅い言葉で言えば「変遷」「変遷」を意味する英語には change, transition の他に vicissitudes というやや難しい単語がある。英英辞典の定義は以下の通り。

 

Vicissitudes:

You use vicissitudes to refer to changes, especially unpleasant ones, that happen to someone or something at different times in their life or development.

 

人の人生や物事の発展の過程の様々な時期に起こる変化、特に不快な変化(栄枯盛衰)。

 

https://ameblo.jp/sasurai-tran/entry-11056407824.html

 

https://ameblo.jp/sasurai-tran/entry-12728246211.html

 

 

「♪♪~月日は移ろいやすくやすらぎなら信じよう~♪♪」「身も心も」の一節だ。

 

昨夜は梅雨前線に伴う物凄い雷雨だった。稲光と雷鳴で目が覚めた。今年は雨量が多い。

 

気象庁の発表を待たなくても、蝉が鳴きはじめると梅雨明けらしい。何処かで鳴き声を聴いたような聴いていないような……。梅雨明けが待ち遠しい日が続く。

 

 

景気循環の過程で、インフレーションからデフレーションに移行する間にディスインフレ―ションリフレーションというフェーズがある。今回はこれらについて記載する。

 

 

 

(日本文)

ディスインフレ―ション(ディスインフレ=Disinflation)とは、物価上昇率が低くなり、インフレーションの進行が抑えられている状態、およびそのような経済状態にするためにとられる方策のこと。たとえば物価上昇が年率10%を示すなど激しいインフレが続いている経済状況において、中央銀行が通貨供給の引締めを行うなどの金融政策によってインフレ率を抑制することに成功したようなケースを指す。

 

これに対して、リフレーション(リフレ=Reflation)とは、景気循環のなかで、デフレーションから脱し、インフレーションには至っていない状態をさす。不況を克服するために、金融政策などのマクロ政策を強力に推し進めることにより有効需要を創出して景気回復を図ると同時に、緩やかで安定的なインフレ率を達成しようとする政策をリフレ政策という。

 

(拙・和文英訳)

Disinflation is a state in which the inflation rate is low and the progress of inflation is suppressed, and measures taken to achieve such an economic state. For example, in an economic situation where inflation continues to be intense, such as inflation showing an annual rate of 10%, the central bank succeeded in controlling the inflation rate through monetary policy such as tightening the money supply.

 

On the other hand, reflation refers to a state in which deflation has been escaped and inflation has not reached in the business cycle. In order to overcome the recession, reflationary policy is a policy that aims to achieve a moderate and stable inflation rate while creating effective demand and recovering the economy simultaneously by strongly promoting macro policies such as monetary policy.

万倉(まぐら)温泉という温泉が山口県宇部市にある。そこにある「楠こもれびの郷 くすくすの湯」に先日漬かってきた。

 

泉質は俵山や一の俣同様、ぬるっとしていて私の好みだ。施設は近代的だが、辺りは山里の中の一軒宿といった風情で趣がある。

 

併設されている「農家レストラン つつじ」も値段も手頃でとても美味しかった。「くすくすの湯」にはこれまで何度か訪れているがレストランを利用したのは初めてだった。

 

 

 

 

先日テレビを観ていて「木漏れ日」を一語で表現できる英単語は無いことを知った。確か以前一度調べて訳語に苦労した記憶があった。

 

ドイツ語や中国語も調べてみたが「木漏れ日」に相当する単語は無いようである。日本語の方が表現が繊細と言える。

 

「木漏れ日」を広辞苑で引くと、「枝葉の間から漏れてくる日光」とあった。まさにそのままの意味である。

 

 

英語訳、ドイツ語訳、中国語訳を調べてみると、広辞苑の定義の直訳だった。

 

英語訳: Sunlight filtering through the trees (treetops)

 

ドイツ語訳: Sonnenlicht, das durch Bäume dringt

 

中国語(簡体字)訳: 阳光透过树林

 

 

なおこの「木漏れ日」、俳句では春夏秋冬いつでも使え季語ではないらしい。