漢詩のシリーズが結構続いているが・・・。今日はやや長い詩の紹介である、作者は「劉季夷(劉庭芝)」で「りゅうきい(りゅうていし)」と読む。生没が651-679年であるから夭逝の詩人と言える。
この詩を習った高校の頃、私には「白頭翁」という言葉自体がピンとこなかった。私が生まれたときに既に祖父が二人とも他界していたからかもしれない。
でも歳を経るにつれこの詩に流れる心情が理解できるようになった。それを一つの英単語で表すならば“vicissitude”であろう。
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「代悲白頭翁」 「白頭を悲しむの翁に代わる」 劉希夷
洛陽城東桃李花 洛陽城東 桃李の花
飛來飛去落誰家 飛び来たり飛び去りて誰が家にか落つる
洛陽女兒惜顔色 洛陽の女児は 顔色を惜しみ
行逢落花長歎息 行くゆく落花に逢ひて長く歎息す
今年花落顔色改 今年(こんねん)花落ちて顔色改まり
明年花開復誰在 明年花開いて復た誰か在る
已見松柏摧爲薪 已に見る松柏の摧(くだ)かれて薪(たきぎ)と為るを
更聞桑田變成海 更に聞く桑田(そうでん)の変じて海と成るを
古人無復洛城東 古人 復た洛城の東に無く
今人還對落花風 今人 還た落花の風に対す
年年歳歳花相似 年年歳歳 花相似たり
歳歳年年人不同 歳歳年年 人同じからず
寄言全盛紅顔子 言(げん)を寄す 全盛の紅顔子
應憐半死白頭翁 応(まさ)に憐れむべし半死の白頭翁
此翁白頭眞可憐 此の翁の白頭 真(まこと)に憐れむべし
伊昔紅顔美少年 伊(こ)れ昔 紅顔の美少年
公子王孫芳樹下 公子王孫 芳樹の下(もと)
淸歌妙舞落花前 清歌妙舞す 落花の前
光祿池臺開錦繡 光禄の池台は 錦繍(きんしゅう)を開き
將軍樓閣畫神仙 将軍の楼閣は 神仙を画(えが)く
一朝臥病無相識 一朝病(やまい)に臥して相識(し)る無く
三春行樂在誰邊 三春の行楽 誰(た)が辺(あたり)にか在る
宛轉蛾眉能幾時 宛転(えんてん)たる蛾眉(がび)能く幾時ぞ
須臾鶴髪亂如絲 須臾(しゅゆ)にして鶴髪(かくはつ)乱れて糸の如し
但看古來歌舞地 但だ看る 古来歌舞の地
惟有黄昏鳥雀悲 惟だ黄昏鳥雀(こうこんちょうじゃく)の悲しむ有るのみ
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(現代語訳)
洛陽城の東では桃や李の花びらが飛んできて、それは誰の家の屋根に落ちるのだろうか?それを見る洛陽の若い女性たちは、自らの容姿が色褪せていくことを惜しみつつ溜息をついている。
今年花が落ち、その分だけ歳をとり容姿も衰える。来年再び花が開いた時に果たして誰が生きているだろうか?松や柏の木が割られて薪となったり、桑畑が海になってしまったのを見たことがある。
昔洛陽城の東で桃李の花を楽しんだ人たちは既に亡くなり、現在を生きる人たちがその花が散る中を春風に吹かれている。花は毎年同じように咲くが、その花を楽しむ人は毎年同じではない。
血色の良い若者たちに一言言わせて欲しい。あの死にかけた白髪頭の老人は哀れで、その白髪は本当に憐れかもしれないが、彼も昔は君たちと同じ血色の良い美少年だったのである。
王侯や貴族の子女が芳しい樹の下に集い、その花びらが散る中をかつては彼も楽しく歌ったり踊ったりしていた。その屋敷には錦と刺繍が美しく飾られ、将軍の楼閣には不老不死を願う神仙が描かれていた。
しかし、ひとたび病に倒れると誰も彼を訪ねては来なくなる。あの楽しかった春の行楽はどこへ行ってしまったのか。女性の美しい眉も長くは続かない。あっという間に糸のように乱れた白髪になってしまう。
かつて歌や踊りの宴が行われた跡を見れば、今はただ黄昏時に鳥や雀が飛び来て悲しげに囀(さえず)るのが見られるだけである。
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(自作英訳・改訂ニ版)
“On behalf of the old man lamenting over his gray hair”
In the east of
Indeed our features have changed when flowers fall this year, but who could see the flowers bloom again next year? We've already seen pines and oaks cut into firewood, further we’ve heard mulberry fields turned into sea.
Those who used to see flowers blooming are never found again in the east of
I'd like to say it to blooming ruddy boys that you should certainly feel pity for the dying gray-haired old man. His gray hair would really be pitiful, however, he used to be a rosy good-looking boy like you.
Under sweet-smelling trees, he would often sing and dance among sons and daughters of kings and lords in front of falling blossoms. Luxurious brocades and embroideries colored splendid residences, and paintings describing gods and saints decorated general’s pavilion.
One day, he came down with an illness, and no one would visit him ever since. Where would the pleasure at the height of his life have gone? How long could a beauty keep her crescent eyebrows? In the twinkling of an eye, her hair will turn gray like strings.
Looking at the site they used to sing and dance, now we can solely hear sparrows or little birds singing sadly in the twilight.
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春に始まった詩が秋に終わったような感じを受ける。夭逝の詩人の作とはとても思えない。