「乳母車」 三好達治 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

こちらは昨日の朝くらいから突然寒くなり、昨晩は暖房が必要になった。ただ天気予報によればこのまますんなりとは寒くならないようである。

年末の話題もそろそろ聞こえ始め鍋でもつつきたくなるこの季節、人の温かさも恋しくなるものである。

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「乳母車」  三好達治

母よ――

淡くかなしきもののふるなり

紫陽花(あじさい)いろのもののふるなり

はてしなき並樹のかげを

そうそうと風のふくなり

時はたそがれ

母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ

泣きぬれる夕陽にむかって

轔轔(りんりん)と私の乳母車を押せ

赤い総(ふさ)のある天鵞絨(びろうど)の帽子を

つめたき額にかむらせよ

旅いそぐ鳥の列にも

季節は空を渡るなり

淡くかなしきもののふる

紫陽花いろのもののふる道

母よ 私は知っている

この道は遠く遠くはてしない道

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あまりにも格調高い響きを持つこの詩、私は昔から大好きである。

流離の翻訳者 果てしない旅路はどこまでも-wintry wind